第四十七話 辛甘day
出掛けの誘い。…今年度一嬉しいことだ。まぁ、始まってすぐだから一番なのは当たり前だが…。
「さぁ、どこへ行こうか…」
「ジェットコースター行こうよお」
「最後にして…俺は早死にしたくない」
早期に体力を失ってしまえば、その後が楽しめないかもしれない。もしかしたら、いつもなら大好きなはずのエッチな事すら嫌になる程、体力が奪われるかもしれない…。そうなる訳にはいかない。まぁ、日影側から俺に迫ることなどないだろうけれども。
「…じゃあ、映画館にするか」
「…もっと選択肢を増やしてほしいな…いつも行ってる気がする」
そう言いながらも、『映画は色々あるしいいか!」ということになった。
「選択肢を増やすって…例えばどんな所だ?さっぱり分からん…」
「アニメ見て学習すればいいんじゃないかな」
「誰のせいで時間がないと思っているんですかねぇ…」
「そんなの全部先生でしょ…私に言って何になるのさ」
「」
二人でやっていることだというのに、先生にだけ責任を押し付けるという畜生行為をする日影。本人がいない所では酷い言いっぷりである。
…こういうものを直で見えしまうと、不安になってしまうことがる。「俺も言われているのではいか。」という恐怖である。高校に入ってから、昼休みに、女子が友達と弁当を食べながら別の友人の陰口を言うという現場に何度も遭遇した。不良じみた子や普段から口の悪い子ならともかく、普段はおだやかそうでおっとりした感じの子の口から悪口が延々と流れる様は、トラウマともなり得る。
まぁ、俺はそんなことされてないと信じたい。
暫くして映画館に到着した。素早く見る映画を決め、上映される部屋へと移動。
映画が始まる。そして30分。つい口が開いてしまう。
「あぁ、アニメ映画はやっぱり良いなぁ…。な、日影も………」
悲報。日影、寝る。起こしたいところだが、止めることにする。何度も寝返りを打っていたのか、服が絶妙に乱れて…すごくエッチだ…w。尚、響き渡る鼾がそれを台無しにするわけだが。
結局日影は起きず、終わった後に起こすこととなってしまった。
「よく寝た……。…何か服が…太陽、何かしたの?」
「何もしてないぞ…」
「…何かしてよ!」
突然驚きの言葉が放たれ、驚愕する。まさか、あれは俺を誘っていたというのか…!?
「何言ってんだ…。流石に公共の場所で猥褻行為に至る訳にはいかない」
「太陽こそ何言ってるの…。何で直したり起こして指摘しなかったのかって言ってるの」
「すみませんでした」
俺氏、轟沈!もう立ち直れなさそう。
「で、次はどこにしようか」
「偶には自分で考えないと」
「…じゃあ、ゲームセンター行くか」
歩いて数分。巨大なゲームセンターに到着した。辺り一面人だらけで、押されて離れ離れになってしまうのではないかと不安になる。上から見たら、『見ろ!人間がゴミのようだ』というような状況だ。
「これ…大丈夫かな…。別の店にするか?」
「折角来たんだしここでいいよ。…じゃあ、色々やろうか」
所謂格ゲーや音ゲー、その他さまざまなゲームをするも、悉く敗れる俺。日影は、あまりの負けっぷりに意気消沈している俺を尻目に、上機嫌でゲームを楽しんでいる。まぁ、楽しんでくれているのであれば、それは嬉しいことなのだが。
かなり遊び、空腹を感じて時計を確認すると、針は丁度てっぺんのところにあった。
「もう12時だし、そろそろ飯にするか。日影はどういう店が良い?流石に好き嫌いは確認しないとな」
「ファミレスでも行こうか」
「…今日どうした?熱でもあるんか?」
ちょっと冷たい感じの態度と言い、普段ならしないようなチョイスをしていると言い、あまりの違和感でつい口に出してしまった。しまったという顔をし、反撃への対処の為に日影の方を見て、身構えるも、反撃してこない。それどころか少し嬉しそうな表情にさえ見える。
「本当に熱があるなら無理させる訳にはいかないからなぁ…」
「熱はないよ。心配してくれてたんだと思って」
「そりゃ心配になるさ。…お、俺の…彼女、だからな…」
少々頬を染め、俯いてそう言うと、日影の方から笑いが起こる。
「何てダサい台詞なんだ…」
今日はもう色々と酷い。そして、まだ半分も残っている。ある意味体がもたなさそうだ。
日影は、笑い終えると、突然俺の手を引いてファミレスへと向かって行く。
「…本当にどうなっているんだ今日は…」
着いたファミリーレストランでは、二人とも同じものを注文した。
出来上がった料理が並べられると日影が突然声を掛けてくる。
「ちょっと食べようとするの待って。…食べさせ合いしようか」
その言葉は、先程までの日影を見ていると、夢を見ているかのように思ってしまう程衝撃的だった。
「良いけど…今日は盛大にぶっ壊れてるなぁ」
更に、先程までの冷酷さはどこへやら、完全に甘えっ子状態になってしまっていた。
「ソース付いた…拭いて?」
「あ、ほっぺにソースが」
恥ずかしい時間は1時間ほど続いた。
「次はどこ行こうかな…」
「水族館行ってみよう!」
先程よりも積極的に、そして朗らかに言った。
非常に綺麗で巨大な水族館に到着した。
「あぁ、やっぱり水族館は素晴らしい所だ」
「そうだ!あれみよう!」
『あれ見よう!』『これ見よう!』と小さな子供のように燥いでいた。
「…何て体力だ」
「太陽…。貧弱!貧弱ゥ!」
「はいはいそうですよ」
まぁ、沢山可愛い海洋生物を見ることが出来たことは、非常に良いことだった。特訓ばかりで、癒しが欲しかったのだ。まぁ、体力的には非常に厳しいが。
「私とどっちが綺麗?」
「!?」
考え事をしているところに、突然ラブコメ感満載の台詞を向けられ、困惑した。
「…望夫rん日影さ」
テンプレにはテンプレで返す。これが一番だ。
気づけば、水族館のほぼすべての展示を見終えていた。
「それにしても、もう殆ど見たし…次はどうしようか」
「実は…っ秘密の場所があるんだ」
突然、非常に意味深な台詞を向けられ、再び手を引かれて目的地へ。
「あ、ここからは一回目を瞑って。薄目で見たりするのは駄目だからね」
かなり進み、坂道に差し掛かった時、突然そう言われてやむなく目を閉じて引かれるが儘に進む。
暫く坂を上がると、平坦な場所に到着した。その瞬間、日影が俺を開放することを決めてくれた。
「もう目を開けていいよ」
目を開くと、そこには綺麗な橙色になっている晴れた、澄んだ空が。そして、そこには巨大な影が出来る。
「凄い場所だな…。あまりの感嘆で声も真面に上げられないな」
「上げてるじゃん」
「おいやめろ」
突然、日影の顔が少し巫山戯ていた顔から、真剣そのものになる。
「ねぇ、太陽」
「な、なんだ…?」
その後の返答はない。そして、数秒後。俺は返答の催促も出来ない状態になったのだ。
唇を包み込む柔らかい感触。とても甘い感覚で、力が抜ける。目の前には日影の非常に肌理細やかな肌が映る。
キスというものは、こんなにも良いものなのだなあ…。
そのキスは、10秒以上も続いた。
「で、今日は一体どうしてあんなになったんだ?」
「色んなキャラを試していた」
「そうだったのか…。午前は心が俺かけてたぞ」
春休みが終わる。遂に、忌々しい学校が始まる。