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第四十三話 馬鹿の戦い

 相手の言葉に一同驚愕した。このような台詞が発されるなど、想像もしていなかったからだ。

 それにしても、何故戦闘放棄を選んだのか…。ここまで辿り着いたというだけで、決着が着いたようなものだということなのだろうか。もしそうだとすれば、相手が戦闘能力を持っていないのか、それとも真逆なのか。前者であれば最高なのだが、後者であれば終わりだ。後者ではないことを願うか…。

 などと太陽は思考を走らせていた。

 また、日影も先生も、「何だよ…」というような反応を見せて、相手と呑気に会話を交わしている。

 …これは、ある単語で表すことが出来る。『油断』だ。

 そして日影たちの会話が終了し、俺たちは帰路に就こうとした。

「で、何の話してたんだ?」

「私たちが地上に戻ったらこの世界を閉じて元に戻…」

 突然大きな音が聞こえ、次の瞬間、日影の体が地に伏せた。

「なっ…!?」

「太陽は…戦ってくれるか?まだ回復は教えてなかったから、私がやるよ」

 そう言って、先生は日影の回復に就いた。

 そして、俺は戦うことを余儀なくされた。

 開戦の前に、相手へ一つだけ質問をすることにした。

「…何でこんなことを…」

「何でって…分かるだろう?油断させること。それが戦いにおいて最強の武器なのだよ」

 俺は、相手に指を向け、呪文を使う準備をする。そして、その指から紅く染まった炎を出す。その炎を相手に向かって放つ。ここまでにかかった時間は1秒弱だった。

 相手は何も抵抗することなく、その炎に包まれた。

「(あんなこと言われたら、この行為も油断させるための行為だと思えてしまうな…)」

 相手を包んでいる炎は、何故か何時まで経っても消滅しない。

 しかし炎の中にいる相手は、その炎を消す力が無かったり、もう死んだりした訳ではなかった。

 突然、その炎ごと太陽に向かって移動を開始すると、その炎を吸い込み、さらに強力な炎として太陽に吐こうとした。

 しかし、相手は大きな咳をするだけで炎を吐けない。

「…?何やってんだこいつ…。ギャグか?ギャグなのか?」

 戦闘経験が少ない太陽もそう思ってしまう程の馬鹿みたいな行動っぷり。

「何てね」

 『冗談だよ』と言うようにそんな言葉を放つと、大きく息を吸い込み、炎を吐こうとする。

 …それでも炎は吐けなかった。出てきたのは大きな噯気だった。

「…何故だ!何故出ぬ!この!この!」

 何度やっても炎は吐けない。

「ただ攻撃力が高いだけかよ…」

 その言葉が太陽から発された瞬間、相手は手を打つ。

「そうだ!その手があった」

 相手に助言をしてしまった。そう悔みたいが、そんなことをしていては悔もうとしても悔めない体にされてしまう。相手の攻撃を受け流す為に構える。

 しかし、相手は太陽の手前で盛大に転ける。ただ、『しかし何も起こらなかった』とはならなかった。

 スライディングする形となり、受け流しの構えで受け流せない足に強烈な攻撃を当てる。

「…何…だと…ただのドジ野郎じゃなかったのか…?そんな攻撃の仕方をしてくるとは…本当は考えてこんなことをしているのか…?」

「…はっはっは…そうなんだよ…上手くいったよ…」

 …前言撤回。相手の顔は笑っておらず、引き攣っている。どうやら偶然の産物だったらしい。

 さあ、相手に反撃しようと足を動かそうとしたとき、骨の異変と激痛を感じた。

 あの攻撃で粉砕骨折してしまったのだ。

 仕方なくその場で攻撃しようとしたのだが、至近距離で呪文を使うことは危険であるため、なかなか攻撃が出来ない。特訓で身につけたのは呪文と躱す技術だけ。直接攻撃の手立てはない。

 そのような事を考えている間に、直接攻撃を受けることを避けるために相手が離れる。

 その瞬間、嬉しいことに、呪文を使っても自分が巻き込まれることはなくなった。

「ありがとよ」

「あ?」

 この感謝の言葉の意味も分からない。相手はやっぱりただの馬鹿だったんだ。

「アン・インストール」

 俺は、相手に非情の宣告を下した。

「あああああああああああああああああああああああはあああああがあああああああああああああああ」

 奇声を上げて姿が消えていく相手。非常に痛快だ。

 そして、その瞬間、この空間は崩壊した。


 全てが元に戻り、日影も起き上がり、一同安堵。

 ホテルの人も、近隣住民も安堵。

「大丈夫だったか、ひかグェッ」

「…人の名前を噛むなんて…」

「そうじゃないんだよ、足が痛いんだよ!」

「え~?何処かにぶつけたのか?」

 そう言って怪我の度合いを確認する先生。診断が終わると、血眼になって治療を開始する。

「日影も手伝って。早くしないと足が治らなくなる。粉砕骨折してるんだよ…。そりゃ動こうとすれば痛いですわ」

 その治療が終わったころには、夜が明けていた。


「あぁ…結局寝られないし、夜は楽しく過ごせなかったし…」

「偶にはこういうのもいいんじゃないか?」

「…よくないよ。折角休めると思ったのに。なあ、ひか…」

 突然体に軽い衝撃が走り、重く感じた。確認すると、そこには可愛い日影の寝顔が…。

「あらら。起こさないように静かに運転しないとねっ」

「…別にいいよそんなこと…」

「それはそうと…この戦いで新たな課題が見つかったね。明日から、直接攻撃と回復についても色々教えて如何にとね」

「もう勘弁して」

「「あっはっは…。まぁ、これからの為には、全部できないと駄目だからな…」」

 家に到着するまで、日影はずっと寝たままだった。とても良い時間だったよ。

 柔らかい、ふっくらとした、きめ細かい肌。艶のある胸。そして女子特有の香り…。もう、最高!


「ところで日影、最初の頃は普通にコーヒーカップとか乗ってたよな?何でいきなりジェットコースター派に?」

「最初の時、コーヒーカップとかに乗った時に分かった。小さい頃は好きだったけれど、今はもうスリルを、刺激を求めるようになったんだって」

「刺激か…。じゃあ、俺が楽しく、そして激しく刺激を…」

「く た ば れ」

「あああああああああああああああああああああああああ!!」

 家に、近所に、大きな音が鳴り響く。一つは日影の強烈なアッパーカットの音、もう一つは俺の悲鳴…。いや、断末魔の叫びだった。

 尚、断末魔の叫びから5時間後、復活を果たした。

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