第四十一話 心、急降下
早速ホテルにチェックイン。
豪邸のようなホテルに一同興奮。館内を彼方此方回り、荷物を整理し外へ観光しに行くまで1時間ほどかかった。
「まったく…もう疲れたぞ」
「…当たり前でしょう。太陽が一番燥いで…これだから『男子はお子様』と言われるのよ」
「え~?先生から見たら二人とも同じくらいだったぞ~?デートみたいな雰囲気で止められなかったなー」
「「………そうだった…?」」
「まぁ、楽しそうで何よりだ。さぁ、街の方へ行こうか」
ホテルからバスに乗ること30分、街に到着した。あまりの疲労から寝てしまい、バスに乗ってからここまでの記憶がない。日影に起こされて気付いたのである。何故寝ていると時間は一瞬にして過ぎてしまうのか…。気になるなぁ。
「お楽しみでしたね」
降りようとしたとき、バスの乗務員からそんなことを言われた。彼の顔は心なしか、楽しそうに遊んでいる小さい子どもを見るかのようだった。
この言葉が胸に引っ掛かっているそんな時。
「お楽しみでしたね」
今度は先生から。こうなると、嫌な予感が…。
「日影…俺、何かあったんか?」
「…暫くの間、私に寄りかかって寝ていたわ」
ラブコメのような展開に、少し恥ずかしさを覚えた。そして、この日影の言葉に先生が付け加える。
「日影は赤ちゃんを可愛がるかのように頭を撫でていたぞ。そして、太陽が寝返りを打って逆向きになった時は寂しそうな顔をして…。私から為になる言葉を一つ。…リア充許すまじ」
「折角良い雰囲気になっているのに何てことを言うんだ…」
「先生は、私たちと同じ歳の頃は相手がいなかったのだろうね。…まぁ、あんなことを言う残念な人には誰も近づきたくないわよね」
「………まぁ、いいわ。ここまで来てこんなことしていたら時間が無くなるわね。行くよ」
それからというもの、先生はそっちのけで只管楽しんだ。
映画館に行ってホラー映画を見せたり、喫茶店で楽しもうとしてみたり、先生と3人で遊園地へ行ったり。
どれもこれも、忘れることはないだろう。自分の思惑通りにいくことが無かったから。
ホラー映画については、怖いシーンを見せることで恐怖から俺に抱き着いてくれるかと思っていた。しかし、物凄い耐性の持ち主だった。俺が日影に抱き着きこそしないものの、少し恐怖心を抱いてビクビクしていたのに対し、日影は平然としていた。…寝ていて反応出来ないのかと思っていたが、起きていた。何て奴だ!
喫茶店では、色々話しながら過ごせた。アニメの話、耳が痛くなるような特訓、並びに勉強の話などなど。しかし、日影はコップのダージリンティーを飲み干すと、「外で待っている」と言って直ぐに外へ。話によると、混んでいる場所があまり好きではないらしい。かなり見せが混んでいたから仕方ないともいえるが、…何て奴だ!
遊園地では、恐怖のジェットコースターに何度も乗る羽目になった。日影はジェットコースターが大好きなようで、俺も先生も恐怖と疲労で離脱してからも、何度も乗っていたようだ。本当は、コーヒーカップやメリーゴーランド、観覧車のようなものに乗りたかったのだが…。日影にそれを伝えると、それらはつまらないから嫌いなのだという。スリルを求める日影に、俺も先生も圧倒されるばかりだった。
一番良かったのは、アニメ・ゲームグッズ店くらいだ。
「日影の新たな一面を知ることが出来たよ…」
「太陽は、アニメのようなデートコースを選んで…。やりたいことが見え見えだったわ」
「…だから日影はこの歳にしてここまでの戦闘力を得られているのか…。太陽にもそういう力を付けさせないとな」
「そんなのいらないから」
日が傾き始め、より一層寒くなる。バス乗り場に向かおうとしたその時、オレンジの空は突然赤黒く変色する。一同、驚き空を見上げるが、それ以外の変化は見られない。
「…こういう展開飽きた…」
突然、我々の前に謎の生物が顔を出す。我々は、何となく見覚えがあるように感じた。
「クトゥ●フ神話のナイア●ラトホテップじゃないか!」
「私たちの界隈ではニャ●ラトホテプの方が分かりやすいかな」
突然組織からの連絡が届く。突如次元の歪みが出来たのだという。その場所は、あのホテルだった。
俺たちは、ナイア●ラトホテップのような相手を放置してホテルの方へ直行。
「!%$’)&%$%’’#%)’’%%」
ナイア●ラトホテップのような相手は俺らに向かって何かを叫んでいるようだが、ほんやくコンニャクのようなアイテムがない現代では対話は難しそうだ。
ホテルは完全に飲み込まれてしまった。そこに置いてあった俺らの荷物も遥か彼方にいったことだろう。
「で、どうやって収めるんだ…?」
「何故こうなったのか原因を突き止めて、その問題を解決しなければいけない」
「それにしても、大丈夫なのか…?どんどん大きくなっているんだが…」
着いてからまだ数分。気付けば、最初見たときから倍程度の大きさになっていた。
そして、俺らは吸い込まれて行ってしまった。
日影も、先生も、荷物もすぐ傍にあった。
また、ホテルも奥底に飛ばされている。
「何だこの妙な地形は…。これまた見覚えがある」
俺の声に二人は反応し、この発言の意図しているものの想像がついた。
「「「ここは…やぶれたせかい…?に似ている」」」
その声に反応するかのように、奥から何かの声がした。
戦いだけでなく、戦いまでの道のりも途轍もなく厳しかった。