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第三十八話 生か死か

 はかいこうせんは命中したものの、様子を見る限り、与えたダメージは0に等しい。

「…何で…?」

「…何かあるのだろう…。だが、一体何なのか…」

 ゲームでは、「闇の衣」などのように相手が大幅に強化されるようなものがあるが、果たして…。そう思い、何となく言ってみる。このような間抜けな者なら、襤褸を出すかもしれない。

「ゲームでは、相手を大幅に強化する何かを纏っているようなことがあるんだよなー」

「!!!」

 炎帝の反応はない。違うのか、ばれない様に表情を変えなかったのか、単純に聞こえなかったのか…。

 先生は、「それだ!」と言わんばかりの反応を見せる。

 先生は日影に声を掛けて協力を促す。日影は了承し、力を溜める。

 しかし、そう簡単に全力攻撃を受ける訳にはいかない炎帝は、勢いよく炎の波動を放つ。

 しかし、力はその波動をかき消した。その力が、炎にとっては弱点の一つ、水の力だったからだ。

「………」

 何故か行動を止め…いや、諦めて身構える炎帝。

「…もしかして、炎の技以外使えないのか…?」

 まさか。いくら炎の帝王とはいえ、炎オンリーのはずが…。どのゲームでも、一つのタイプの技しか使えないボスなんていないはずだ。

「あぁ、今の俺ならな」

 俺は「今の俺」の意味が分からなかった。

 その言葉の意味は、昔は使えたとか、まだ練習中とかではなかった。

「これでいい?」

「おし!準備完了だ」

 そして、炎帝に強大な水の呪文が降りかかる。炎帝の顔には、何故か笑みが浮かんでいた。

「んん…?」

「わ、笑っている…?」

「何故だ…Mなのか?ドMなのか!?」

 Mだとか、そういうことではなかった。

「よくぞやった…。炎の衣を剥ぎ取ってくれて」

 そう言って、人差し指を天に向かって指すと、そこには電気の力が。

「…あの時の『今の俺』って言うのは、そう言うことだったのか…!!」

 それを見た日影が冷凍ビームで其れを妨げる。すぐに電気の力は姿を消した。

「炎の衣…強大なパワーを手に入れる代償に、炎系統の技以外を封印される…。今、それは消えた。かつて使えた、愛しい愛しい炎以外の技が使えるようになった。だが、強大な力は消えた」

 先生が巨大な光の剣を炎帝に落とす。

「ぐおお…。おおお…」

 悶えて、苦しむ姿。滑稽だ。

「…あれ?弱くね?」

「仕方ないさ。炎の衣があったんだから、真面に鍛える必要が無かったのさ。さぁ、二人で止めを刺しておいで」

 日影と二人で炎帝に近づこうとする。

 その時、相手はいきなり目を大きく開いて日影に向かって一直線。

 完全に油断していた日影は、何もすることが出来なかった。

「危ない!」

 叫んで日影の方に飛んで向かう先生。ただ、それよりも、すぐ隣にいた俺の方が早かった。

 日影の身を押しのけるようにして見事な横っ飛びを披露。

 日影は何事もなかったが、俺は避け切れなかった。

 あまりに必死で、目を閉じていた俺は激痛を覚え、目を開く。

 炎帝の攻撃は脚を貫通しており、炎帝の体に引っ掛かって俺が串刺し状態になっていた。

「ははは…。折角格好良い男のようなことができると思ったのに、台無しじゃねぇか…」

 そして、俺は静かに瞳を閉じた。

 それを見て蒼白する日影。大量に出血しており、病人が死ぬように目を閉じたのを見てしまったのだから。

 先生は、日影に声を掛け、日影は先程と同じように力を溜めた。それを先生にぶつけると、先生は勢いよく炎帝に向かって飛んでいく。

 その速さ故に、炎帝は攻撃をもろに受けた。炎帝の動きが止まり、体全身の力が抜ける。

 俺を二人で引っ張って解放したが、既にかなりの損傷が見受けられ、付きっ切りで介抱して何とか一命を取り留めるかというところ。脚は使えなくなる可能性がある。…死ぬ可能性まである危険な状態。

 それが判った時から、一生懸命、出来る限りの手を施した。

 処置が終わると、すぐさま病院へ。流石に、呪文と我々の技術だけでは限界がある。


 病院へ着いた頃、我々を苦しめていた熱は無くなり、通常に戻っていた。もうすぐ冬という今、半袖では寒くて仕方がない。

「うぅ、凍える~…」

「まぁ、仕方ないさ。本当は今すぐ太陽をその辺に投げ捨てて、今すぐ長袖の服を着たいところだが、そんなことする訳にはいかないだろう」

「………そうね………」

 本当は、早く長袖の服に着替えたい。でも、太陽の命と私たちの暖、その二つを天秤にかけると、多様の命は太陽の如き重さで天秤が壊れることだろう。

 何とか大きな病院へ行き、診てもらう。

「…う~む…。脚の損傷は、何とか大きな傷ということで済みそうだ」

「よかった…」

「車椅子となると、本人も私達も大変だからな」

「だが…」

 逆説の言葉と共に表情が曇る医者。それを見て、私達は全てが凍った。

「…命は危ない。少なくとも1週間は様子見だな。…3週間で意識が戻らなかったら、覚悟をしておいてくれ」

 衝撃だった。まだ生きられる可能性があるだけマシだが、亡くなる可能性がまだ残されている。更に、「目が覚めなかったら覚悟を決めて」などと言われることとなった。

 それから、私達は学校へは行かず、ずっと傍にいることにした。




 …ただ徒に時間が過ぎていく。そして、3週間。




 彼はまだ、目を覚ましていない。

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