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第三十二話 【もうどうなってもいい?】

 体育祭と言う名の球技大会が終わり、やっと落ち着いて学校へ行ける…なんてことはなかった。

 いつ、また組織による出動、そして組織の全貌を暴く為に鍛えているのだった。

 ただ、まだ先生には組織への疑いを告げることが出来ないでいる。早く伝えて動き出さなければならないが、この組織が害悪であるという決定的な証拠があがっている訳ではない以上、こちらの意見を尊重して動くなんてことはないかもしれない。

 なんとか襤褸を出すか、俺らによる疑いが晴れるまで待っているしかない。

 また、こんな組織なのだから、上層部との戦いは苦戦を強いられることは間違いない。RPGで表せばレベル1桁か、やっと2桁到達程度の戦闘能力しかないであろう俺に、トップを倒すことなど今は出来ないだろう。

 いくら先生や日影が参戦したとしても、やはり難しい。何とかして他のメンバーも仲間に引き入れて一斉に掛かっていかないと駄目だろう…。

「おい、何時まで呆けている」

 そうだ、今日も修行…。上達してきてはいるが、実際にそれが使えるかは分からない。実戦で確かめたい…ところだが、出来れば生死を賭けた戦いはしたくない。この年齢にして生死を賭ける。頭のおかしな話だ。

「あぁ…やっと終わった…」

「これからは心置きなく訓練・特訓できるな」

「いつ何が起こっても良いように、準備は大切ね」

「先生は兎も角日影まで…」

「…何でそんな事言うの?組織を倒したいんでしょ?だったらやらなきゃ。今のままだったら瞬殺されるわ。『ぬわーーっっ!!』の断末魔も出ない程にね」

「やめろ」

「…それに、まだ組織が本当に悪なのかの確信はついていない。もしも俺らの予想が外れていれば、世界を敵に回す」

 そうだ。そうなんだ。もしも俺らの予想が外れなら、組織を壊滅させれば世界を敵に回す可能性もあるのだ。慎重にいかなければ…。

 そんな時、突如組織側から連絡が入る。

『何者かが攻めてきた!応戦してくれ!』

 いつもは相手を襲い掛かる側のこちらに攻撃が。これだけ色々やっている組織に突撃とは、一体どんな相手なのか…。


 組織の屋敷に着くと、全員やられていた。そして、先へ進もうとする一人の男が…。

「一人…だと…?」

「一人でこれだけの人数を…。物凄い実力者であることは間違いなさそうね」

「…どこかで見たことのある風貌だ…」

 そんなことを話していると、突然その男は立ち止まり振り返る。

「…まさか、貴女ともあろう者がこんなところに出てくるとは…。子供まで連れて…。遂に子供が出来たのか、おめでとう。その割には大きめだが」

「何だよこいつ、知り合いか?」

「ええ、同じ大学だったの。相変わらずの男ね」

「…何故誰も俺の発言に突っ込みを入れてくれないの!?俺悲しい!」

「こういうキャラもね」

 糞みたいなボケをかまして、誰がツッコめるか…。

「何か今のを見るとただの雑魚にしか見えない」

「確かにそうだが、甘く見ていたら一瞬で『ぬわーーっっ!!』だぞ」

「『ぬわーーっっ!!』だね」

「二人揃って何だよ…。そんなに俺を殺したいのかよ…」

 日影が真剣な面持ちで近づくと、俺の顔に顔を近づけてくる。

「こ、こんな所で何を…」

 もしかしてチューか!?そうして俺を慰めえて…。

「死んでほしくないから、こうして言っているの」

 そう言って離れる日影。俺の期待を返せ。

「いくぞ幸宣歩!」

「遂にこういう時が来たか美園…いや、手稲さん」

 この男、幸宣歩(ゆきのふ)。何でそんな名前なんだよ。

 驚きの呪文戦が始まる。

 数々の呪文が飛び交う。周りの死体は燃えたり、爆発したり、吹き飛ばされたり…粉々にされて散々なものである。

 広い部屋は一面血に染まり、ただ『グロい』なんて程度ではない。血が苦手な者であれば、『ぎょえーーっっ!!』と大声で悲鳴を上げてひっくり返ることだろう。

 徐々に唱えられる呪文が減り、状況が確認できるようになった。

 そこには、互いに一歩も譲らない二人の姿が…。どちらも至る所に傷をつくり、痛々しい姿になっている。

「俺たちの出る幕はなさそうだな…」

「そう…だと良いのだけれど…。先生がここまでになる、それは相当の事だと思うよ。万が一のことも考えておくべきだと思う」

 徐々に外が暗くなっていき、雨が降り注ぐ音がしてきた。部屋も冷えてきて、この格好でいることが辛い。

 ふと先生達の方に目をやると、言い争っているような姿があった。近づくと襲われる危険性もあるため、ちょっと離れたところで聞き耳を立てる。

「それにしても、何にでも忠実な所、変わらない。だからこんなことをしてしまうんだね。だから、『早くものを見分ける力を付けて、誤った方向に進まないように』と大学生の時に再三言ってきたというのに」

「どこが誤っていると?」

「そりゃ、この組織でそんな正義を掲げて戦うってところさ。この組織の上層部のお前が、この組織の全貌を知らないはずがない。いつまでも悪の組織に加担するのは止めるべきだよ」

「うちが悪の組織だって?何を言っている…。お前の所こそ悪だろう。これだから『馬鹿なことは程々に』と再三言ってきたというのに」

 幸宣歩は、俺らの組織を「悪」と言い放ち、先生はそれに言い返している。

 やはり俺らは悪の組織に所属していたのか…?

「サイゼーヒに所属しているお前が言えることか?どんなサイトでも『悪』の烙印を押され、世界からマークされているというのに」

「またインターネットの情報か。まだそんな下らない物を信じて…。それならお前こそ、世界の絶対悪、居藤誠と手を組むとは」

 幸宣歩の放ったその言葉に俺らは絶句した。悪の組織として大々的に紹介されていたサイゼーヒ。それがこの組織の名前だという。

 もしもその発言が本当であれば、またこの組織を倒す一歩を踏めたことになる。しかし、インターネットにあることすべてが真実とは限らない。まだまだ様子見が必要だ。

 ただ、居藤誠は驚いた。取り敢えず誠死ね。

 それはさておき、この組織を悪と見做す者が現れた以上、仲間にしない訳にはいかない。

「ちょっと…いいですか」

「何だい?止めでも刺すつもりかい?」

「そうじゃないが、大きな声では言えないので…」

 さあ、スカウトアタックだ。

「実は、俺たちが所属している組織、悪の組織ではないかとずっと心の中で思っていて…。こういうことを言ってくれる人が現れるのを待っていた。一緒に組んで組織転覆しませんか?」

「成程…。嘘じゃないよな?」

「本当です、信じて…?」

「グッ…この女の子…眩しいッ!」

「手は出さないでね」

「手は出さないよ…出すのは股間だ!」

「突っ込んでいいですか、幸宣歩さん!」

 緊張していた俺らの緊張がほどけた。空も、俺らの心情にリンクしているかのように晴れ渡るのが窓から見える。

「おっ、男同士で…何て冗談は置いておこう。ちょっと和ませたところで、俺の答えを教えよう」

 すると、清々しい笑顔で腕が頭の上で丸をつくる。

 しかし安堵したその瞬間、顔面崩壊して勢い良く×をつくられた。

 あからさまに落胆している俺らを見て、彼はこう付け加えた。

「今はまだ、っていうところだ。手稲さんが正しい道を歩むようになった時、俺に連絡してほしい」

 そして、日影に紙を渡して何かを言い、離れた。

「それにしても、手稲さん、相変わらず凄いな…死ぬかと思ったぞ」

「幸宣歩こそ、強くなって…。いつかは一緒に仲間として戦ってみたいわね」

 こうして、今回は解決することとなった。

 …特訓の成果を試したかったのに、何も出来なかったじゃん!!


 かなり時間がかかったと思っていたのだが、全然そんなことなかった。

 今日も登校。こんな日ははっきり言ってそんなことしたくないのだが、仕方のない事だ。

「そういえば、紙は何だったんだ?」

「電話番号やメールアドレス、住所が書いてあるだけよ」

「で、何を話していた…?」

「『俺とゆうべをおたのしみしたくなったら、いつでも家に来て良いよ』だってさ♪」

「何でちょっと楽し気に言うんだよ…したいのか?」

「おきのどくですが ちょっとだけそういうことには きょうみがあります」

 …面白いなぁ。こういう日常が…いいなあ。まぁ、会話の内容はちょっと日常からは逸脱しているかもしれないが。

 何だか幸宣歩という人物、友達だったら面白そうだなぁ…

「先生、幸宣歩ってどういう人だったの?」

「面白い奴だよ。最高だ」

 早く仲間に引き入れて、何とか…。




 気づけばどんどん時間は過ぎていく。

 残暑も終わり、冷えてくるようになった。

 葉が黄色に、紅に染まる。

 そんな時、世界は動く。

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