第三十一話 ラブコネクト
翌日。俺らは嬉々として学校へやってきた。
もう俺らはやることがない。では、何をするのか…。
…仲を深めるのだ(意味深)。さぁ、どうやって仲を深めようか…。
取り敢えず、校庭で行われている試合を見に行くことにした。
「やっぱり凄いものだ…。どうやったらこんなに出来るんだ…?」
「…アニメを見る時間を運動に使えば良かったんだと思う。あれだけ野球が出来るんだから、練習すれば他のスポーツも出来るはずなのに、勿体無い」
…これは…褒め言葉なのか?まぁ、褒め言葉として捉えておこう。流石に、ちょっとした悪口を見つけては心の中で言い返すなんて、あまりにも捻くれている。
「…ちょっと、トイレに行ってくるわ…」
「おう、そうか。…成程、隠語は使わない派か」
「そうね、最近は有用な隠語を知らない人が多くて…。よく質問されたものだわ」
遂にそんな時代が来たのか…。まぁ、隠語だし、普段から使う訳がないから、知らない人は死ぬまで知らないままでいることだろう。
さあ、俺はサッカーの試合でも観ようか…。
ドンという大きな音と共にゴールのある方へ向かうサッカーボール。
やはり凄いものだ…。物凄い威力のボール。それを弾くキーパー。
キーパーによって弾かれたボールは、フィールド外へ飛び出し、俺の頭を超えて…。
…その先には日影の姿が…。
「日影、危ない!!」
「!?」
日影が俺の声に反応して振り向いた時には、そのボールは体の中心から伸ばした手の先程の距離しかなかった。
先生曰く、過去にはボールを顔に受けて骨折したり、失明したりした生徒もいたようだ。日影もそんなことに…。それはあってはならない。
あまり俺と日影との距離は無く、ボールから日影を守ろうとして身を挺す。
どうやら、何ともなかったようだ。
目を開くと、何故か日影が驚いたように此方を見てくる。
「ん?どうした?」
「いや、別に…」
…何故だ!一般的なラブコメなら、ここで互いに気まずくなって後ろを向いたり、目を逸らしたりするというシチュエーションのはず…!しかし、そんなことは起こらなかった。
何故か。簡潔に言えば、一瞬の内に呪文を唱えてガードしたのである。
だから、別にしなくても良いであろう行為に出た俺に驚いたのだろう。
「…俺に見せ場を、格好付けられる場面を作ってくれよ…。何で日影は俺が好きなのかが伝わりにくいだろうが!」
「……今は突っ込みを入れる余裕ないから…」
折角なんだから突っ込みくらい入れてくれよ…。話し損じゃないかッ!
「で、何時までくっついているの…。皆見てるし…ちょっと恥ずかしい…」
そう言われて後ろを振り向くと、そこには数々の生徒たちが…。
「うわああああああああああああああああああああああ……」
日影と一緒に、即刻教室へと退散した。
…俺、今「死ね」って言われたら死ねるよ。…何で俺の名前は『誠』じゃないんだ!!取り敢えず誠死ね。
「…何しようか…」
「やりたいこと…やればいい」
「そうか、じゃあ…」
そう言って日影に近づき。抱き着く。…何だか、途轍もなく糞みたいなことしている気がするゾ。
驚いた日影は振り解こうとする。しかし、男の力には敵わな…いはずが………あった!?
いつもなら暴言を吐き、俺に殴る蹴るだというのに!
「…ちょっと…どうしたの…」
「ヒカゲニウムが足りなくて」
「わけがわからないよ」
「偶には、こういうのも悪くないだろう…」
「そうだけど…ここがどこだか分かる…?体育倉庫じゃないのだけれど…」
などと色々言ってくるものの、何故か振り解こうとしたりはしなかった。日影も温もりが、タイヨウニウムが足りなかったのだろうか。
うむ。とてもラブコメらしい良い展開だ。これで邪魔が入って来なけれ…ば…。
「でさー」
「ウケるー!」
教室外から人の声が…。同級生達である。これが見つかる前に何とかしないと…。
そう思い、離れようとするも離れられない。
「日影ー…。おーい…」
完全に、この温もりに浸っている。自分の世界に入り込んでしまっている。…基、寝ている。
「ちょっと…離せー…!」
そう簡単に離せるはずがない。滅茶苦茶な力を持つ日影を振り解くなど、困難だった。
そして、悲しいことに、ガラガラと扉が開く音が鳴り響く…。
「…ん?何やってんのこんな所で……。ッ!!」
気づかれてしまった。しかも、何かを言おうとしているのだが、言葉に詰まっているようだ。
この後、生活指導室へ連れて行かれたのは言うまでもない。
「まーた俺が変態認定されるような事態になってしまったじゃないか…」
「ごめんね~。でも、良かったでしょ~」
「まぁな…。柔らかくて、滑々した肌理細やかな肌…」
「…ッ!!…まあ、いいか…」
何かを言いかけたようだが、収まった。普段だったら、確実にボコボコにされているであろう。
「え、いいのか…」
すると、不意に日影が笑みを浮かべて、こう言った。
「一応、私だってちょっと…ね…」
「!?」
驚愕の言葉が飛び出した。まさか、日影も何かやったのか!?
「何をしたんだ…?」
「これを言うと、色々終わる気がする…」
何だか、察しがついてしまった気がする。この子…。イケナイ子ね!お仕置きが必要かしら(殴
「実はね。。。」
その耳打ちに、衝撃を受けることになる。
「…さっき、太陽をオカズにしてた」
頬を少し染め、満面の笑みでそう放ったのだ。
「うわあああああああああああああああああああああああああ……」
訊くんじゃなかったよ。予想の斜め上を行ってしまった。
もしかしたら、日影は俺以上のどうしようもない変態さんかもしれない。
普段から家でも…。は流石にないだろう。そう思いたい。
こんなことをしていたら、色々な事を忘れていく。
組織が動き出す。