第三話 こころ
尾行を始める。
二人のさっきまでの馬鹿みたいな雰囲気はどこへやら、エージェントであるかのように…。
「あの人なんだが…」
「…でかしたわ。太陽。あれこそ仰っていたマホト・ブルーノアンダートよ」
「…よかった。別人で反応したのではないかと私は心配だった…」
「…俺、そんなに信用ないかな?」
信用なんてものはさておき。
アン・インストールには、欠点がある。
相手の体力の65%以上を削らないと効果が十分に発揮できないということだ。
それ以上体力がある状態で使っても、存在は消せない。中途半端な攻撃呪文と化すだけなのだ。
と言う訳で。俺たちはダメージを与えてから使うことにした。
相手に攻撃する必要があるため、基本的に、普段人気のある所では夜遅くにやったり、人気のない場所へ連れ込んでやったりするのだが…。
自ら人気のないところへ行ってくれて、感謝するよ…
「…太陽。顔が怖い…」
「そ、そうか…?」
「太陽は顔に思っていることが出やすいタイプか…なるほど」
そうしているうちに、山の上、神社に到着。
「そんなことはいいじゃないですか。で、いつ始めます?」
「じゃ、今からやろっか」
「…そうね。早めに片付けた方がいい」
…と言う訳で。
「…闇の炎に抱かれて消えろ…!」
ブルーノアンダートに399ダメージ!
「また中二びょ…マジで出た!?」
しかも威力もある…。RPG好きである俺にとっては、このような展開はとても嬉しい。現実で楽しめるなんてっ…
何で普通の高校生がアン・インストールと言い、闇の炎と言い…呪文が使えるのか…?
それも気になるが…、今はヤツのライフを削って葬り去るのが先だ。
「…ぐはぁ…!」
「一気に決めるよー」
先生はレールガンを放った▼
ブルーノアンダートに998ダメージ!
…ブルーノアンダートを殺した!
「…ちょっ、死んじゃったじゃん!」
「予想の範囲内だよ。アン・インストールは死んだ相手にも使えるからね」
「…アン・インストール」
光に包まれ消えていく…
RPGでもたまに見る光景だ。魔物に殺されたりして消えるキャラクターや、キャラクターに倒されるボス…。
「思ったよりもすぐ終わったね。取り敢えず報告しましょう」
眩暈と同時に、再び例の場所へ…。
「よくやった。次の任務が決まるまで体を休ませなさい」
「ありがとうございます」
「…日影は、残酷だと思わないのか…?」
「…最初は、残酷だと思った。でも、この組織は自分の意志で入ったものだし、仕方ない」
「まあ、最初は残酷だと思ってしまうかもしれぬ。しかし、これは社会の為になることなのだよ。言っただろう。これは警察から認められている活動だと。頑張って活動を続けてくれたまえ」
「…はい」
「は、はい」
そして、山の上、神社へ戻る。
「先生は、この活動、どう思っているんですか?」
「日影ちゃんと同じだね。経緯こそちょっと違うところがあるけれどね」
小声で先生に訊く。
「日影には経緯を訊かない方がいいですかね…?」
「そうだね。悲しい過去があるからね…それがあったから、犯罪者が許せなくて、入ったっていう感じだね」
「…何気に今言いましたよね。それなりに」
「まあ、ええじゃないかええじゃないか」
「先生ってええじゃないかの乱舞が好きですか」
「…何を話しているの…?」
「な、何でないぞ日影ー…」
…じっと睨まれる。もしかしたら、聞いていたけれどとぼけたふりをしているのだろうか。
「…それよりも、時間大丈夫なの…?私は一人暮らしだけど…太陽は一人じゃない…でしょ?」
「そうだな。俺は何となく近くの高校選んだ感じだし、実家住みだからね」
「おっといけない。もう8時か。特別に先生が送ってやろう」
「…わ、私がやります…」
「おぉ。…日影、太陽のことが好きだったもんな…同じ趣味って気が合いそうだし、太陽は顔も悪くないからね…私も欲しいなぁ…」
「…先生!それは言わないで下さい…」
日影が送ってくれるところまでは聞こえたが、あとは小声で俺には聞こえなかった。
ただ、日影の顔が赤くなっているような気がした。
そして、やっと家まで着く。
8時半…出発から30分もかかるような場所だったのか…妙に遠いところだと思ったら…
…その間何をしていたかって?想像にお任せします。
「ありがとう。じゃ、俺はこれで…」
「待って!」
…ドアを閉めようとしたその時、その言葉とともに、服を引っ張られる。
「もう少しだけ…一緒にいたい…」
「あぁ、そうか…」
…今日は金曜日。俺も日影も部活はやっていない。
「…じゃ、一緒に…遊ぶか?」
「ふえっ…!?えっと…ふぇぇぇ…」
驚きたいのはこっちだ。こんな反応をされるとは予想もしていなかった。
「…お外走ってくるー!!」
顔を真っ赤にし、そんなことを言った。やはり男女で夜を過ごすのは恥ずかしいようだ。よく考えてみれば、本当に恥ずかしいことだな…俺まで顔が赤くなってしまうぜ…
…そういえば、これも何かの台詞であったな…。俺と何気に気が合いそうだ。心を開いてほしいと初めて思った。
「ここは外だぞ」
と言った時には、既に走り去っていた。
余程恥ずかしかったのか。
明日からはどうなるか。本当に楽しみだ。
「相棒と…太陽と…もっと、ずっとお話ししたい…。」
そう言って、カレンダーを見る。
「そうだ!」
スマホでメールを打つと、日影はメールを送る。
「何だ…?こんな時間に…」
「…日影からだ…まさかメールが来るとは…時間は遅いし、大事な用ができたのか…?新たな任務とか…」
メールを見ると、そこには…
『明日私と一緒にお出かけして下さい。そして、家に泊めて下さい』
というような趣旨のことが書いてあった。
後は時間とか、恥ずかしいこととか、諸々書かれている。
「何ぃ―――――――!!!!!!!!!!」
とても積極的になった日影の誘いなど、断ることは出来ないのだった…。