第二十八話 笑い
遂に相手は俺へと迫ってくる。
一応、修行で教えられた技などを放ち近づけないようにするも、一般人同様の能力しかない俺の技など通用しない。
目の前に迫り、相手は不気味な笑みを浮かべ、手を広げて波動攻撃を出す動きを見せる。
一般人同様の能力しかない俺にはそんな技を避ける術などない。為す術なく俺は撃沈した。
そんな俺を見て、相手は操っている日影に何かを話している声が…。
話が聞こえなくなってすぐ。俺の体全体に寒さが走る。その寒さは氷点下の街に出て感じる寒さ程度では済まない。まるで全身がドライアイスに包まれているような…いや、それ以上か。
どうやら、俺は氷系の技を決められてしまったらしい。このまま氷漬けにされてしまうのか…。
周囲の音も殆ど聞こえなくなり、日影が何をしているのか、先生が何をしているのか、一切分からなかった…。
なんとか目が開き、辺りが見えるようにはなったが…。
その時、俺の視界に操られている日影が入ってきた。
その日影は、何もせず俺をただ見つめている。やっと俺に気付いたのだろうか…。
―そんなはずはなかった。操られているんだもの。そう簡単に元に戻るはずなどない。
日影の指に一瞬炎が立ち上がると、火の玉になって俺を襲う。
氷漬けになっていた俺は、炎の呪文のおかげで氷が解けて動けるようになった。…全身が痛いが。
目の前にいる日影をよく見ると、目がいつも以上に光り、顔は崩壊しかけている。日影が相手の傀儡になり、俺らを殺すなんてことをするはずがない…。良かった。めでたし、めでたし………。
そう思って日影の方へ向かおうとするも、動けない。全身の痛みは、ただの凍傷や火傷ではなく、体の痺れだったという訳だ。
日影の痺れる眼差し。ここでこのような技を使ってくるとは…。先生の連れと言うことだけあって、相手も本気で潰しにかかっている様子だ。
「…友に殺されるなんて、屈辱だろう…。ハッハッハッハ…」
そう言って相手は日影を動かし、また何かの呪文を…。
「アン・インストール…」
背筋が凍った。まさか、日影が俺に向かってこの技を放つ時が来るとは…。
「ミラー・シールド!」
遠くから声がし、アン・インストールの呪文は、唱えた日影の許へ…。
それを見た日影は、呪文で空間を歪ませて軌道を変えた。
そのアン・インストールの呪文の弾は相手の方へ一直線。それに相手が気づいた時には、もう遅かった。
「がああああああああああああああああああああああああああ…」
「自分が操った人の呪文で殺されるという屈辱を思い知れ…」
そして、相手は無様に散った。
こんな結末、アニメだったら笑い話だ。そう考えたら笑いが止まらなかった。かなり危険な状態だったのに。
「ごめんね~…。復活に時間かかってしまった」
「あの呪文、先生が使ったのか」
「それ以外に何があるっていうのさ」
「すみません、先生は復活が遅かったから、てっきり死んだのかと!」
「お前よりは死なないから…。まぁ、ちょっと危なかったが」
「そうだ…日影は…」
操っていた者がいなくなった日影は、操り状態から回復し、目を光らせている。
悪寒が走る。さっきはこれで麻痺させられてしまったからね…。流石にこんな時にそんなことはしないだろうけれども。
「ごめん、二人とも…」
その目の光はあの技ではなく、ただの涙だった。まぁ、当たり前か。
こんな時に技使う雰囲気ブレイカーではないだろう。雰囲気ブレイカーはどちらかというと俺だよ。
「操られていた時の記憶は…」
「バッチリ残っているわ…太陽には悪いことをした、だから……滅茶苦茶に…してもいいよ…」
『だから』の後に何が繋がるのかと思えば、酷いR-18の同人誌みたいな事を言ってきた!
くぅ~~!こんな事を言われればしない訳にはいかないな!
日影に向かって一直線。体を抱きしめた。
…そして、手を胸の方に持っていこうとしたその時。
「やっぱり…まだ駄目!!」
そう言われて思い切りアッパーを食らった。結局どうして欲しかったんだクソアマ…。
まぁいいや。抱きつけただけでも大きな収穫だ。その辺にいる高校生とは比べ物にならない程のナイスボディ。どこもかしこも柔らかい体。一切毛のない綺麗で滑らかな肌。つやつやした緑の黒髪…。う~ん、たまらん!
「何かまた妄想が始まったみたいだから置いていくか」
「……そうする」
そんな声が聞こえて、慌てて日影たちの方へ向かう。
「流石にこれは日影があんなこと言うからだぞ…!」
なんとか追いついた…。
「ぐぇっ」
勢いよく扉を閉ざされ、扉に激突。
「ふふふふ…」
「日影はすぐこういういたずら思いつくよねー」
扉越しに、日影と先生の笑い声が聞こえた。人を馬鹿にするような…。
この…ゲスの極み乙女達、後で覚えてろ!
家に帰ると…。やり返す暇なんてなかった。
今回の戦いを受けて、特訓が、訓練が、一層強化された…。あの野郎!ふざけるな!死ね!…もう死んでいたわ。しかしそんなことはどうでもいい。
地獄の特訓に明け暮れる毎日。忘れがちではあるが、体育大会という名の球技大会は目の前に迫った。