第二十七話 絶体絶命
目的地に着くと、大勢の仲間たちがいた。流石に、巨大組織の殲滅ということだけあって、数が多い。今までに見たことが無い。
「太陽、今回は相手が多い。最低限の呪文は使えるだろうから、頑張ってくれ」
先生はそう言うが、本当に使えるか疑問である。これまで一応、修行や特訓をやってきたが、手応えなど全然ないのだ。…先生たちが異次元だからかもしれないが。
「いくぞ…皆、突入!」
掛け声と共に数百の大軍が相手の屋敷に突っ込む。
「おぉ…流石巨大組織だな。今までで一番の大きさだな」
…いかんいかん。見惚れている場合では無い。
今回もまた、辺りから爆音とも言える悲鳴やら呪文による音がこだまする。
先生にあのように言われたため、仕方なく呪文を試してみる。50mくらい先にいる相手に向けて火炎を放射する。
結果から言えば、大成功である。相手は瞬く間に火達磨になり、大きな悲鳴を上げてもがき苦しむ。
…あまり見たくない光景だ。やはり二次元と三次元は違う。
しかし、上手くいったことは素直に嬉しい。
そうして浮かれていると、視界の右側から何かが飛んでくるのが見えた。
呪文の飛んでくる速さは時速50km/h。ほぼ車と同じだ。つまり、見えたのを避けようとしても、素人や弱い者には避け切ることなど出来ない。
「!…ぁ、っ、ぃ…何だこれは…」
あまりの熱さで何も考えられなくなってしまった。
……どうすればいいんだ……。このまま終わるのか…。
先生曰く、炎を受けたときは水の技を自分にかけることで何とかなるらしい。
さぁ、水の技を………。
そう思ったが、先生にも日影にも水の技を教えて教えてもらっていなかった。
「おおおおおおおおおおおお…」
先生が放っていた言葉を頼りに、水の技を使ってみることにする。
「確か、先生は水の呪文を使う時は…」
…しかし何も思い出せなかった▼
「うわあああああああああああ…ん?」
気づいた時には俺を包んでいた炎は姿を消しており、目の前には日影がいる。
「…何やってんのよ」
「誰も水の技教えてくれなかったから」
「…終わったら、色々なタイプの呪文を教えてあげる」
それにしても、日影、目が赤くなっており、普段に比べて潤んでいる。
「…日影…。…何泣いてるんだよ…」
図星を指されて恥ずかしかったのか、顔が赤くなって顔面鬼瓦に…あっ。いつもならこうなればボコボコにされる5秒前。身構える。
しかし何も起こらなかった▼
何故なら、それは…
ただの妄想だったのさ。いつの間にか日影たちは俺を置いて先に行ってしまっていた。
「…全然戦えない俺を置いていくとか…クソかよ」
急いで日影の所まで行くと、そこはもう玉座、基ボスの部屋であった。
「随分うちの部下がやってくれたようで、助かったよ。人数は二桁になっているようだね」
「それでもこっちの勝ちは揺るぎないぞ。相手はお前一人だからな」
相手の発言に直ぐに乗っかる先生。それからは1時間くらいの会話が続いた。
…もう帰りたい。そう思った時先生が、日影、他の者たちが臨戦態勢になる。どうやら話がついたようだ。
他の仲間たちが相手に向かって行き、戦闘が開始した。
どんどん他の仲間たちが向かって行くが、その度に相手の呪文で瞬殺されてしまう。
「…何で行かないんだ?」
「物凄い強大な魔力を持っているからね。出来るだけ呪文を使わせて魔力を減らしてから行かないと」
強大な魔力か…。ただ「強大」と言われても、いまいちピンと来ない。
「ド〇クエで表すと、メラがメラガイアーをも凌駕するレベルだ」
最弱の呪文が、その系統の呪文の中では最強の呪文をも凌駕するとは…。只者ではない。まぁ、巨大組織の座長はそれくらいじゃないとなれないか。
…なら、うちの組織の座長もそうなのか?だとしたら、今のまま転覆を目論んで行っても返り討ちに遭って逝くだけである。
そう考えると、修行や特訓を「だるい」等とは言っていられない。やはり自分が死ぬのは怖いし、先生や日影が死ぬのも見たくない。
まぁ、まだ組織には謎が沢山残されている。善か悪かも定かではない。今は悪をぶちのめしているだけなのだから。…ただ組織にとって邪魔だからという可能性も否定できないが。
「…太陽、余計な考え事しないで…。あんな姿は見たくない」
日影の声で我に返る。そう言えば、滅茶苦茶強い相手と戦っている真っ最中だった。
いつの間にか仲間メンバーはじりじりと減っていき、俺らだけになる。
「ほう…特攻作戦か。俺の魔力を削って戦いやすくする。小癪な技を…」
「それくらいしないと駄目だからね。世界を支配したいがために育てた魔力なのだから、何もしなかったら私でも一撃で灰になるさ」
そう言って遂に先生が向かって行く。
「やっとか…待ちくたびれぞ手稲天水よ…」
そう言って指先から数々の電流を飛ばす。しかし、そんな何度も見せてきた攻撃が通用するはずがない。
ひらりと身を躱し、先生は氷のレーザービームを手に向ける。手さえ使えなければ攻撃が面倒になる。呪文を手から放つ練習しかしていない相手なら、手が使えなければどうしようもできないからだ。
やはり、そう簡単にいかないのがボス戦。身を躱し、瞬く間に向かったその先には俺らがいた。
気づいた時には至近距離にいた。そして、その手から今度は黒く輝く電流が流れだす。
それを瞬時に察知した日影は俺と一緒に、風の呪文によって風に舞い、一瞬にして先生の方向へ飛んで行く。
「流石日影ちゃん。やっぱりどこかの男の子とは違うなあ」
絶対俺のことを指しているのだろう。うざすぎる。後で滅茶苦茶セッ(自主規制)してやる!
…いかんいかん。戦闘中だというのにまたイケナイことを…。
相手は不気味な笑みを浮かべて呪文を放った。…この呪文には見覚えがある。禁忌の呪文、アン・インストールだ。やはりこういう相手はみんな使えるようだ。
「これをこうすれば…」
勢いよくアン・インストールの球が飛んできているにも関わらず、何かを呟きながら準備をしている。
「準備完了。…これで終わりにしてあげる」
そう言って、部屋の半分以上が包まれるほど巨大な旋風を巻き起こす。
アン・インストールの球はこちらへ出てこない。アン・インストールの球はその旋風により相手に向かって行っているのだ。
しかし、相手はそれを察知していた。光で巨大な剣を造り出し、アン・インストールの球をぶった切って難を逃れる。
相手はその剣を上に放り投げて、その剣に向かって闇の炎を融合させる。
一瞬にして地面へ落ちてきた。俺らはどうすることも出来ないはずがなかった。
先生は巨大なシールドを造って弾き返そうとし、何とか弾き返すことは出来た。
先生の方を向くと、そこには静かに横に倒れている先生がいた。
「何が、どうなってこうなったんだ…」
「どうやら時間が足りなくて、私たちにしかシールドを被せられなかったようね…。死んではいないでしょうし、先生の事だから手当の必要もないでしょうけれども…」
相手にその光と闇が融合した炎の剣が向かい、もろに食らう。
「…ちっ。跳ね返しやがった。だが時間が足りなかったか…子供たちにしかシールドは張れなかったようだね。残念だったね、勇敢な子供たちよ」
そう言って、相手は俺らに向かってみたことのない呪文を飛ばしてきた。
「…これは…っ!」
そう言って日影は俺を抱いて横へ避けようとするも命中してしまう。
その瞬間、日影は一変した。禍々しい妖気を発し、とても怪しい外見へ変化した。
その呪文は、相手を自由に操れる呪いの呪文だった。
先生は倒れ、日影は操られ、俺は弱い。万事休すだ。