第二十四話 ダークサイド
それから。俺らはそのまま…。離れることはなかった。
「最低」と言われたとき、一瞬悪寒が走ったが、杞憂だった。
普段通り、楽しく昼食を食べ、楽しく夕食までの時間を過ごした。
日影曰く「…最低。だからこそ、更生させてあげる」とのこと。何という上から目線。しかし完全に俺に非があることで、仕方がない。
『更生させる』と言っていたのだが、やっているのはそれこそ普段通りなのである。
ゲームをしたり、テレビドラマやテレビアニメを見たり…。これでどう俺が変わるのだろうか…。
そんなところに、突然現れる先生。
「日影、ちゃんと太陽に喝を入れたかい?このままじゃ大変なことになるからね」
「大変な事?」
「そりゃ勿論…お前の初(以下自主規制)」
そして、日影同様普段通りの先生。相変わらず適当なことを吹き込んでいる。
因みに、ここで言う『適当』はどちらの意味にも当てはまる。先生は俺の考えていることなど分からないはずなのに、いい加減なことを言う。しかし、その言っていることは強ち間違いでは無かったりする。日影と(自主規制)したいのは事実だし、(以下自主規制)。
「太陽…。いいよ?」
「何が!?」
いきなり『いいよ』などと言われて素でそう返してしまった。まぁ、普通ならそうなってしまうだろう。何の脈絡もなかったのだから。
「まぁ、盛るのは『人類』としては悪い事じゃないが、今の社会的なことを考えると悪いことだから、気を付けてくれよ…。正直こっちは二人も養うことになって、金も満足に貯められないんだからな…」
「『盛る』の前に『育ち』をつけて欲しい…」
「無理だね。二人とも二人とも完全に目が大変なことになっているからね。私の見ていない間に何があったんだい?」
俺たちは、何も言わなかった。俺は『最低』と言われたことを思い出したくない。また、日影は『最低』と、咄嗟に口に出してしまったことを猛省していることだろう。『更生させる』という単語を導き出すのに数秒時間がかかっていたようだし…。
数秒でそんなことが言えるのか。頭が良い人はずるいや、口や文章ではいくらでも嘘を連ねることが出来るのだから…。
そして、それこそ『普通』に夕食を迎えようとしていたその時、突如大きな眩暈に襲われる。
「…ん?」
…これはただの眩暈ではなかった。一瞬にして食卓に並んでいた物が四方八方に飛んでいく。
「…どうしよう…」
俺はおどおどしていた日影を、咄嗟の判断で抱えて二人で食卓の下へ潜り込む。
…え?先生?………俺は一人抱えて食卓の脚に掴まるだけで精一杯だったんです。因みに、先生は無事です。必死で何かやっているようだが、何も見えない。辛うじて何か声を発していることだけは分かる。
「長いわね……」
不安そうに上目遣いで俺を見てくる日影。これは…。素直に射精です。…おっといけない、誰か来たようだ。
「もう少しで収まるはずだ」
そう言ったのは先生だった。…先生は自然をも操る人間だったのか?恐るべし…。
冗談はさておき、先生が『収まる」と言った僅か4秒後、その大きな揺れは収まった。
「…先生が『もうすぐ収まる』って言うとは…何があったんだ?」
「…すまない、これはまだ言える段階ではない」
「…先生、隠さないで言ってよ…。私たち、仲間でしょ?…信頼できる…さ」
権力なんかに負けない!数で押し切ってやる!そう考えた俺達だったが、こうかはいまひとつのようだ。
「あぁ…。全く、ちゃんと知らせてよ…。折角の飯が台無しじゃないか…」
先生の発言を俺たちは聞き漏らすことはなかった。
この言い方、やはり先ほどの名状しがたい地震のようなものは、組織との関連があるようだ。組織の何かの実験だろうか…。それとも、何かまずいことをしてるのでは…。
先生が俺らに言えない。そういうことは悪事であると考えざるを得なくなる。良いことは、普段から食事の際に良く俺らに話しまくっている。やはり悪事は出来るだけ隠したいということか。
この今の社会もよく似ている。
学校では、いじめを含め生徒の悪事、教員の悪事、様々なことを隠し通そうとしているのが見受けられる。企業では、労働基準法やら様々な法律を犯している。残業を強要したり、若しくは残業しないと終わらない程多くの仕事を押し付けたり…。結果、多くの人が楽になるために自殺の一途を辿っている。
他にも色々あるが、語り始めるときりがない。
「で、組織が何かやったの?」
「………」
無言で食べる先生。どうやらこの話題は都合が悪い模様。まぁ、口に物を含んでいる為、そのまま喋ると行儀が悪いからとも捉えられるが。…口に含んでいた物を飲み込んだ後、何事もなかったようにまた次々と頬張る。どうやら行儀ではなく都合の問題だった様子。
そしてその夜、日影は俺の部屋に怯えた様子で入ってきた。これは珍しい。普段なら、女王様気分で俺の部屋に上がり込んでは、俺に楽しい楽しい(辛)お勉強の時間と言って、俺を馬鹿にしながらも優しく教えてくれるのだが…。
「どうした…?いつもと全然様子が違うが」
「私、…感じたの。そろそろ大事になるかもしれない」
「…ん?」
「…組織はやはり、悪かもしれない。先生の話を偶然録音したのだけれど、それによると…」
そこまで言ったところで突然扉が大きく開き、驚いてそこを見ると顔面リアル鬼瓦の先生がいる。
「私と組織とのやり取りを録音か…。いい度胸してるぜ最近のガキはよ…」
これは流石に寒気がする。悪寒が走る。あの日影がここまで動揺して硬直するのも無理はない。
「その『録音』とやらをしたであろう端末を渡しなさい」
女性としては大きい体。高圧的な態度。そしてこの言葉遣い。今までとの豹変ぶりに震えた。
「誰が…そんなこと…!」
そういって抵抗する日影。俺はそれを直ぐ手助けに入るも、時すでに遅し。日影のスマートフォンはあっと言う間に先生の手元に渡ってしまった。
「全く、これだからガキは好かないんだ」
そう言いながらそのスマートフォンを確認すると、あっという間に、爆音と共にそのスマートフォンを滅茶苦茶に破壊してしまった。
あまりの衝撃に俺らはただ呆然と見ているしかなかった。
その日は優しい先生が戻ってくることはなかった。