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第二十三話 …最低

 校長の長くてつまらない話を聞くという地獄の時間や、表彰という俺には無縁の無駄な時間が終わり、やっと学校が始まる。

 学校に行くことは、修行とか、任務とかをやっているよりはマシである。傷つかない、異常に疲れない、何より人の死を目撃せずに済む。

 血を見たり、苦しみもがいている姿を見るよりは、中学までの頃と同じようなつまらない授業を聞いている方が良い。

 何より、任務とか修行とかやっていると、何も考えることなど出来ない。大好きな妄想、また、この怪しい組織についてなど、色々。

 しかし、学校では所謂ラッキースケベになれたり、リア充を満喫出来たりと願ったり叶ったりである。

 まぁ、俺は日影にやっていることだから許されるのであって、他の人にやったら一溜りもない攻撃を食らうこととなるだろう。……彼女にそんなことをするって、…俺ってクズなのか?

 それはそうと、あんなことがあったにも関わらず、日影は、

「…太陽、夏休みが終わっても夏休み感覚のままにならないようにね」

 普通に接してくれる。

「さ、さっきのあれさ…」

 さっきの二次元の世界のようなラッキースケベ事件について言おうとすると、

「…それはいいからさ…」

 何がいいのかさっぱり分からない。

 語りたくない程嫌だったのか。

 語りたくない程恥ずかしかったのか。(恥ずかしいから、大衆の前では言えないという可能性もある)

 語りたいけれど、敢えて語らないのか。(大衆の前では言えないという可能性もある)

 ………。

 嬉しくて言うだけで恥ずかしくなるのか。舞い上がってしまうのか。

 気持ちよかったから「もう一回やって」と言いたいが、我慢しているのか………。

 何だか後半はただの俺の下らない妄想と化してしまったが気にしないでおこう。

「そんなに…。嫌だったのか?」

 一応訊いてみる。

「………いちいち、訊かないでよ…」

 ちょっと明後日の方向を向いて、顔を見えないようにしてそう言った。

 …脈ありか!!嬉しいなあ。家に帰ったら早速…。

 と言いたいところだが、年齢的にまずいか。こんな歳で子どもが出来たりしては俺も日影も困る。

 ……そして、こんなことを考えてしまう俺に困る。彼女だからって…。

 彼女だからこそ、誠実にしないといけないはずなのに。こんな事ばかりしては逃げられてしまうかもしれない…。自重した方が良いか。

 昔、幼稚園の頃、俺には幼馴染がいた。可愛い女の子で、いつも鞄に謎のペンダントを入れている不思議な子だった。

 小学校に進学しても、家が近かったこともあり、その子と親交があった。

 しかし、俺はだんだん変態になっていき、アニメに、二次元に浸るようになると、その子はいつの間にか俺と距離を置くようになってしまった。所謂『オタク』と一緒にされるのが嫌だったのだろう。(基本一緒にいる為、扱いは「一心同体、二人で一人」みたいな感じになっていた)

 中学は違う学校になったが、その子が遠くに引っ越したという話などは聞いたことはない。

 子どもというものは、成長が早い。体の変化も早い。ということは顔もどんどん変わっていっていく訳だ。もしかしたら、俺が気づいていないだけでこの学校にいるのかもしれない。

 ………

 ……

 …

「おい!起立しろ!帰るぞ!」

 先生に声を掛けられる。どうやら妄想や昔の淡い記憶を思い出している内に帰る時間になっていたようだ。

 始業式の日というものは、授業が無く早く帰ることが出来る。良いことである。


 家に帰ると、早速部屋に行って…。

 パソコンを持って、ベッドへダイブ!

 あぁ、アニメは良いものだ…。日々の疲れが取れてゆく…。風呂に入るなどよりもずっと幸せな時間だ。

 先生に残された日影。今は何をしていることやら。こういう時に任務が入ったりすると面倒で困る。

 ―

「これで終わったな。お疲れ日影」

「いや…これくらいなら…」

 先生はよく私を手伝わせる。頼まれたことは断れない、イエスウーマンだからである。基本的には。

 非常に近い存在である相手なら、何とでも言えるのに…。太陽とか………太陽しかいないようだ。

 先生も、私の親のようになっているにも関わらず、何故か…。

 まぁ、それよりも、早く太陽と一緒に他愛もない話をしながら帰…。

 私は教室を見たとき、あることに気付いた。

 そこには、待っているはずの太陽がいなかった。

「………」

「あらまあ。太陽らしいや」

「先生、一緒に…」

「私は仕事があるから」

「…え、先生…ちゃんと仕事してるんですか」

「…さらっと酷いこと言うよね日影は」

 仕方なく、一人で帰ることにした。

 ―

 それにしても、日影が遅い。もうすぐ昼になる。昼前に来ると言っていたはずだ。……教室に。

 ……俺はとんでもないことをしてしまったようだ。

 …しかし、俺に「待ってて」とか言っていた記憶はない。ただ、「昼頃には教室に戻る」と言っていただけだ。俺は何も悪くない。………そう、何も。

 日影が帰ってきたら、どんな仕打ちを受けることになるだろうか…。俺はM体質じゃないからお仕置きは嫌だなあ。と考えたとき、俺は思考が停止した。

 俺はこれまで、糞野郎な対応を取り続けていたのだから、いつ愛想が尽きるか分からない。

 そして、玄関(と思われる方向)から物音がした。俺は心構えをすることにした。

 ……居間で。すぐに居間の方へ向かって座ると、間もなく日影が姿を現す。

 俺を見るなり、鞄が勢いよく振り上げられ、そして俺の方に鞄が向かってくる。

 俺は吹き飛ぶ。まるで二次元の世界のように…。

 その時、ちょっと鞄が開いていたのか、物が飛び出す。

 財布、筆箱に本…。そして、謎の物体。

 俺がそれが何なのか確認しようとしたとき、残念なことに回収されてしまった。

 ただ、回収する一瞬の間に驚きの物が目に入った。

 それには、……見覚えのある花の印が付いていた。

 …その花の印は、俺の通っていた幼稚園のクラスの一つ、ひまわりぐみの印にそっくりだった。

 …勘違いだといいのだが。

「…最低」

 たったの一語だったが、俺に胸に激しく響き、しばらくその一語は耳から離れなかった。

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