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第十八話 愛の成分

 夏休み。部活動、特に運動部の場合は多忙になる時期。

 俺は、中学生の頃は部活動をやっておらず、また、高校に入ってからも、部活動には入っていない。

 しかし、俺は多忙な毎日を送っている…。全ては、自分が情けなくなって漏らしてしまった心の声が原因であった。

 「そろそろ、俺も技覚えないとなあ…」…と。技を覚えること。武術ならともかく、呪術は少しは時間がかかるとは思っていたのだが…。

 『少し』と表現する訳にはいかない程時間を費やしてしまっている。

 もう、夏休みが始まってから10日は経っている。しかし、未だに勉強時間はくれるものの、その他の時間に関しては必要最低限しかくれないのである。

 テレビアニメは疎かニュース等、テレビを見せてくれない。遊ぶ時間は勿論無い。無論、日影とのデートの時間もない。

 教官が日影一人ならまだ良いのだが、先生と言う残念な者まで一緒にいる。一緒に住んでいる以上、当然と言えば当然なのだが、このままではいつまで経っても気が休まらない。学校や任務と何ら変わらない。

 それはさておき、今日も技の練習である。

 今までは魔力の放出の仕方についてやってきた。

 夏休みも11日目だ。日影も先生も『この速さで覚えられる人の方が少ない』らしいが、そんなに難しいものなのだろうか…。まぁ、常人では出来ないことをやろうとしているのだから、当然なのだろう。

「で、今日は何をやるんだ?」

「勿論、持っている魔力を開放して、呪文を放つことが出来るようになる、その準備。まずは能力を計らないと駄目」

 日影はこの俺の練習が始まってからというもの、全くと言っていいほどボケをかましてくることが無くなり、正直言ってつまらない。俺がボケてもスルー、事故ってしまい、漫画なら笑いの渦が巻き起こるような事態になっても冷静沈着。頭がおかしい…。いや、俺がボケるのが好きなだけだったのかもしれない。

「まずはこの機械に向かって人差し指から魔力を放出

しきって。そして、そこのメーターに表示された数字が魔力の量。これが高ければ高いほど魔術師としては良いということになる。…何となくでやったら許さないわよ」

 そう言われて、何となく…じゃなくて仕方なく本気で魔力を放出。

 メーターには530と表示され、俺はこう口走ってしまった。

「私の戦闘力は530000です。ですが」

「勿論貴方はちゃんとやらないといけないときは」

「ありませんからご心配なく……と」

 …勿論俺は制裁を食らいましたとさ。

 …魔力の量が分かったところで、次は魔力の値だ。値が高いと良いらしいが…。

 またしてもメーターには………53と言う数字が表示された。

「…致命的ね。練習して魔力値を上げていく必要がありそうね」

 魔力値。これが低いとどれだけ強力な呪文を使っても威力が低くなってしまうらしい。また、魔力が低いと使えない呪文もあるようだ。

「53って、どれくらいの高さなんだ?」

「ごく一般の高校生っていうところね」

 俺はただのアニメ好きのごく一般の高校生。これは当たり前の結果なのだが…。

「魔力量は先生よりもあるから、魔力値さえ上げられれば凄い魔術師になれるわね」

 正直魔術師になどなりたくないのだが、ここでそんなことを言うとデンプシーロールやアッパーカットをお見舞いされて即ノックアウトだろう。痛いのは御免だ。

 それは兎も角、この練習中に幾つも問い詰めなければいけないことが出来た。

「で、日影はどれくらいなんだよ…」

「私はどちらも530000…989よ」

「何でこんな機械がある」

「組織の物」

「いちいち胸を当ててきたり甘い吐息をかけてきたり色仕掛けしたりしないでね。集中できないよ」

「………」

 顔を真っ赤にして俯き黙る。そして、体が小刻みに震えだし手の形が平手打ちをしようかという形に変化させた。やられると思い、目を閉じて歯を食いしばったその瞬間。

 手を繋ぎ、体をつけてきた。

「ど、どうした、急に…」

「………」

 それから、日影は何も言わなかった。が、俺は日影の気持ちが少し分かった気がした。


 翌日。

 朝食を食べると、こう言われた。

「もう練習は終わりにする」

「ど、どうした、急に…」

「一緒にいるなら、楽しく過ごしたいから…」

 そして、俺たちは遊びに行くことになった。

 勿論…。

「車だと速くて早くていいわー」

「良い一日にしたいわね」

「おっし、楽しくやってくれよー」

「「先生、貴方のせいで楽しくできません」」

 ということで。何故かデートには邪魔である先生も同行しているのである。勿論、ただ車の運転にだけ集中してくれればいいのだが…。

「爆ぜろリアル!」

「弾けろシナプス!」

「あぁ、晴れて良かったなあ」

「「邪魔過ぎる」」

 こういう有様である。話に割り込むし、邪魔するし、兎に角最悪である。

 他愛もない事をして時間を過ごしている内に、目的地に到着。

 プールである。

 俺は小さい頃にプールを習わされていた関係上、25mプール程度なら楽々泳げる。唯一の良点だろう。

 一方の日影は…。プールを前に、脚を震わせなかなか入って来ない。

「どうした?早く入って来いよ」

「…大丈夫だよ。プールなんて楽勝だし…ひゃっ!?」

 先生にプールへと突き飛ばされやっと中へ。

 何となく足元を見てみる。まだ震えが止まらない。

「どうした?怖いのか」

「た、楽しくて膝が笑っているのさ」

 大して上手い事言えてない…。苦手なものに関わるだけで人間はここまで変わるのか。驚きだ。

 仕方なく、教えることにした。

「まずはこうやって…」

 真剣に聴いている様子。これならすぐ上達しそうだ。何故出来ないのか不思議なくらいだ…。説明を一通り済ませると、日影から衝撃的な一言が。

「で、どうすればいいの?」

「…ちゃんと話を…聴け―!!!」

 仕方なくもう一回説明するも。

「で、どうすれば」

 この無限ループというもの、なかなか終わらず。

「で、何で泳げないと駄目なの?馬鹿なの?死ぬの?」

「お前こそ…。海で溺れたら確実に海の底だぜ…」

 必死に教えるも、『で、どうすればいいの』とか、『え?なに?』などと続ける始末。

 流石に腹がたってくる。そして、それを収めるためにトイレに行った。

 …戻ってくると、そこに日影の姿はない。

 そして、俺たちがいた筈のプールとは違う、深くて長いプールに人だかりができていた。その中には水着を着た先生が…。

 水着を着た先生は、とても清楚な感じで、良い体つきが綺麗に表現されている。その瑞々しい体からは途轍もない色気が感じられる。口を開かなければね。

 などと感想を言っている場合ではなかった。その人だかりの中心には、見覚えのある者が転がっていた。

 日影だった。多分深いプールに入って溺れたのだろう。

 それにしても、随分と大げさな感じで…。

「ああ、太陽か。日影の意識が無いんだ。心臓マッサージだけじゃ微妙だから、人工呼吸してくれ」

「は?人工呼吸?」

 人工呼吸と言えば、ラブコメではよくある残念なキスシーンである。まさかこんなイベントを現実で体験できるとは…。などと言っている場合では無い。今は全く意識が無い状態。一刻を争う。

 仕方なく人工呼吸を開始する。

 顎を上げ、口を開けさせ、口に口を重ねる。

 そして、息を吐き、吸おうとしたその時。

「うぷっ」

 声と同時にプールの水が俺の口に勢いよく出される。吸おうとしていた俺は、それを大きく吸ってしまう。そして、日影は目を覚まし元気になるも、俺は…。

 そこで意識を失った。


 目を覚ますと、よく見る屋根が見える。どうやら家に帰ってきていたようだ。

 ふと横を見ると、そこには可愛い寝顔を見せる日影がいた。

 俺は、一日中、頑張った日影に優しく、擦り寄った。



 そんな楽しい時間は直ぐに過ぎ去っていくものである。

 また、練習が始まる。どうやら、俺の愛の成分が少し彼女に不足していただけだった。

 ずっとずっと楽しく残りの時間を過ごせると思ったんだが…。

「結局鬼、魔物、最悪で残酷なオタク少女だなあ!」

 …今日も元気に、明日も元気に、その後も元気にボコボコにされながら、練習をしていったのだった。

 それにしても、練習が長い!多い!死にそう!助けて!

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