第十七話 世界で一番強くなりたい?
任務が立て続けに入り、学校に行き、授業を受けることがまた疎かになってきた。
任務のせいで今年の文化祭は何もせずに終わってしまった。文化祭と言えば、ラブコメでは好きな女子と急接近できる大チャンスである。遂に彼女のようなものが出来たというのに、それに参加し二次元の世界のように上手くいかない…。現実とは残酷なものである。
そして、任務がまた入ってきた。
「成程…。『クルー・クレイモア・クレアン』なる組織を根絶ですか…。承知しました」
「また訳の分からん組織退治か…。今度はどんな組織なんだ…」
「『クルー・クレイモア・クレアン』…。『KKK』とも呼ばれるこの組織は、今までとは比べ物にならない程大きな組織で、呪文はおろか銃や手榴弾などの飛び道具も使ってくる強敵だ…。お前ら死ぬなよ」
「…私は大丈夫。でも…」
「俺は死ぬ予感しかしねえや…」
ということで、また謎の組織との一戦。今度はそれこそ異能力バトルが展開されそうで恐ろしい。
杖や指先から炎や水、氷といったものを出す呪文でさえ恐ろしい俺が、テレビの報道や今まで見てきたアニメ等で使われる機会もあり、その威力などを目の当たりにしたことのある銃や手榴弾までもが相手。
今すぐにも逃げ出したいが、強い拘束力を持つ『任務』と『胎動指令』のせいで、任務中に日影のやることに背けば即反逆者として追われる身になるという…。これが公的機関ならあまりにもブラック過ぎるし、何よりこんなことをする機関が公的機関な筈が…。
「あぁ、組織の事考えていても仕方ない。日影の胸とか揉んですっきりするか」
突然二人の視線が俺に集中する。…またしても出してはいけない心の声が口から出ていたようで…。
「先生、ちょっと抑えていてください」
「そうだな。こんな犯罪者予備軍を自由に動ける状態にしておくわけにはいかない…」
悪い顔をして、黒い笑顔で、縄を持って俺を見る。
―刹那。
俺は体を縄で縛られ、台車に括り付けられて載せられる。あまりにも突然で、ほんの僅かな時間の出来事で、声もあげられなかった。
何故台車があるのか。理由は訊けなかった。
そのまま引っ張られて数時間。何とか敵の組織のアジトに着くと、縄を解いてもらえた。
何となく服を捲ってみる。縄で縛られた跡がくっきり残っている。…後で覚えていろよ!
「まーた異常に大きな屋敷で…」
「何気にお洒落ね…。こういう屋敷に住んでみたいわね」
「何呑気なことを言っているんだい…。これから過去最大級の大仕事をするっていうのに…。もう少し気を引き締めていかないと、本当に星の王子様と星の王女様になるぞ」
などと全く気を引き締めていない人間による「気を引き締めろ」という注意喚起等を聞いている内に準備が完了した。
入った瞬間、中は騒然となる。普通は敵が堂々と入ってくるようなことがないのだろうか。まぁ、強大な組織ならそれもあり得る。つまり強大な組織であるということは否定できないということか…。本当に気を引き締めていかないと…。
などと考えている内に爆音が響き始める。
炎や氷、謎の光線等が飛び交い、断末魔が雰囲気を作り、飛び散る真っ赤な鮮血が辺り一面に流れる。 また、何も出来ない俺の横で、日影も先生も相手の攻撃に応戦する。しかし、真面な技が無い俺…。女子に守られて…。これが現代でよかったよ。
その戦いはあっと言う間に決着がついた。何も聞こえなくなった頃には死体や鮮血で足の踏み場もない状態となっていた。
「そろそろ、俺も技覚えないとなあ…」
心の奥底から捻りだしたこの言葉。彼女たちに届いただろうか…。
他のメンバーがどんどん様々な所で戦っている間に、俺たちはリーダーの間へ向かう。何故俺たちが優先されるのか…。ずっと謎だったこれも、やはり先生が上層部と関わっていた経歴の現れなのだろうか…。
「待ちなさい」
ふと、後ろから声がして振り返る。そこには白衣の天使…ではなく白衣の悪魔がいた。
「帰ってきてみたら部下たちが皆やられているのだけれども…。私にどんなご用事が?」
「そりゃもう、バトルしかないじゃないか、戸奈貝ちゃん」
「まさか、私が先輩と戦わなくてはいけないとはねぇ」
「…先生はこの人の知り合い?」
「学校の後輩さ…。学校では私に次ぐ美女として私の下で生徒会役員としてパシリになってくれたわけよ」
言い方を考えてあげてください…。
それはともかく、銃や手榴弾を使うとは何だったのか…。と思っていたら、その戸奈貝とやらの手には手榴弾が握られている。この人のことを現していたのか。
「先輩でも容赦はしないさ…!」
その瞬間、手榴弾が勢いよくこちらへ投げられる。…案の定俺はかわすのに遅れてしまった。
「………」
これが手榴弾の威力…。アニメ等で見たものとは全く違う。恐ろしいほど威力が高い。そうして、俺は意識を失った。
「さぁて、この子はぶっ倒した訳だし、ほら、降参しちゃいなよ」
「…やっぱりな」
「……(…太陽をこうした、あの女を、私は絶対に…)」
怒りのスイッチが入り本気モードに突入した日影。戸奈貝に炎の連打を浴びせる。
しかし、やはり先生の後輩と言うだけあって、ただの生徒会役員でも戦闘力が全く違う。うまくかわすと、銃を取り出し、日影に銃口を向けようとした。
が、こちらは二人いる。先生が光を集めて剣を作ると、その銃をあっと言う間に切り刻みただの鉄くずと化した。
「2対1とは、何て卑怯な…。いつからこんな人間に…」
「任務の遂行の為に…。そして、大切な仲間をこうした奴を倒す為なら、私はどんな手を使ってでもあんたをボコボコにする。それだけさ。…一気に決めるぞ!日影!」
「…うんっ!」
気持ちを一つにした二人。そうすればすぐに倒せる…はずがなかった。
腐っても彼女は強大な組織のトップ。簡単にやられる訳にはいかないのだ。
日影が再び炎の連打を浴びせるが、やはりもう既に見たもの。簡単にかわされると、うまく隙をつかれて素早く出した銃で右足を撃たれ、遂に呻き声を上げてしゃがみ込む。そしてその日影に銃を向け連射しようとした。
その瞬間、真上から戸奈貝に向かって光の剣が降り注ぐ。それをもろに食らい痛みにもがき苦しむ…というのはただの演技だった。
ちょっとの隙を見つけ、今度は先生の方に急接近。だが、組織の上層部に関わりをもつ者である彼女は一枚上手だった。その瞬間、目の前で強力な光の光線をぶつける。流石にこれはダメージが大きかった。
遂に二人で歩み寄ると、最後の言葉の宣告の時間だ。
「「…アン・インストール」」
「!!!!!!!!!!!」
その瞬間、全てを察した。そして、ふと呟いた。
「…まさか、先輩がこんなに大きく人生を踏み外しているとは…」
それ以降は、体ごと消滅して日影も聞き取れなかった。
「…戸奈貝、来世じゃ、絶対に、お互いに、真面に生活できることを、願っているぞ」
そして、俺が目を覚ました時には、既に家に着いていた。
「全く…。縄で縛られるし、手榴弾で気絶するし、散々だぜ…」
何とか体は大丈夫だったが、しばらく痛みから解放されることはないだろう。
「そうだ。強くなりたいって言ってたよね。私ももっと強くなりたいし…。先生、私たちに特訓を…」
「そうだな…。日影は兎も角、太陽はこのままだとぶっちゃけ足手纏いだ。」
「ぶっちゃけないでくれや…」
「夏休みになったら、色々な技を教えたり、戦闘においての大切な動きをみっちり叩き込んでやるからな。覚悟しなさいよ」
…ばっちりあの言葉は聴かれていました。
俺の夏休みは、かなり潰れる、そんな気がする。でも…。
「そうだな…できれば世界で一番強くなりたいなあ…」
「よし、決定だ。私も部活動を担当していないし、教える時間はたっぷりある。休まずやるぞ!」
あ、でもたまには日影やその他級友達とも遊びたいです。
「…太陽、私、弱い男の人、嫌い…」
「頑張ります」
…畜生め!そんなことを言うようになるとは、一体誰の教育で…。多分俺だな。
そうして、俺の地獄の夏休みが決定したのだった。