第十五話 謎
7月。徐々に夏休みと言う、部活動をやっていない者にとっては天国、部活動をやっている者(特に運動部)にとっては地獄と言えるものが近づいてきた。
任務もなく、学校で級友たちと他愛もない話をしたり、家に行って遊んだり、アミューズメント施設へ行って遊んだりと楽しい時間を過ごしていた。
日影とも良い時間を沢山持ち、どんどん距離が縮まっているように感じる。グイグイ来過ぎている感じは否めないが…だが、それがいい!
そんな時に、先生の家へ帰ると、久し振りの単語が聞こえてきた。
「任務が来たぞ」
「…もうそんなのいらねえよ…」
「そう言わずに聴いてくれや」
「『アラガデロ』と言う組織を殲滅するようにと任務が出た。かなりの規模の組織らしい」
突然放ったその言葉。声のトーンを下げ、真剣に話したそれは、とても耳に残った。
「上層部の人も駆けつけるようだ。二人とも無礼の無いようにしてくれよ」
そういって今まで通り歩き始める。
「そういえば…今度はどんな人が相手なんだか…」
「…『コレコレ・ヴィ・アラガデロ』…じゃなくて『荒賀手右路』と言うみたいね」
「変なネタ突っ込んで来るなよ…」
吹きそうになりながらも何とかボケにツッコミを入れる。
「…失礼、噛みました」
「…言わないからな」
どうしたらあんな噛み方が出来るのか理解不能である。…どうせ『違う、わざとだ』と言えば『かみまみた』と返してくるところだったのだろう。
それはさておき、やっと着いた訳だが…。
「何故いつも歩いて行ける距離なんだ…?」
「そりゃ遠くだと行けないだろう?そういうことさ」
俺は、そうは思わない。
実は、いつも同じような道を通っているようにしか思えないのだ。かかる時間も、周りの風景も、いつも途中までは一緒。しかし、いつも神社の隣の舗装されていない道に差し掛かるところでワープしたかのように風景が変わる…。この感覚は、一体何なのか…。
「…流石の大きさね…ヴィ・アラガデロは」
疑問点を上げ解答を出そうとしたその時、隣からまたしてもネタ発言が飛び出す。
「この建物、そんな名前だったのか」
「ああ、そうだ。まだ入るのは待ってくれ。人員が揃ってから一斉に突入するらしい」
先生が猶予を与えてくれたようだ。事の真相をはっきりさせないまま事を進める訳にはいかない。
あの感覚…。それは組織が何かしらの関係があるのかもしれない。
「…なあ、いつも神社の隣の舗装されていない道に差し掛かるところでワープしているように感じるんだが、気のせいか?」
「…多分気のせいではないと思う。でも、私にも理由は分からないわ…」
「あぁ、それね………実は…」
先生が知っているということは組織関係の何かだろう。些細な事が気になる悪い癖…。些細な事だと思っていた事が、組織が関わっているような大事だったとは。
「…禁則事項です…」
「「何言ってるんですか先生」」
そう言って俺らはこけそうになる。先生までネタを突っ込んで来るとか酷い話である。流石に呆れるね。
「何でだよ…」
「口外してはいけない決まりになっている。組織の立場として下にある人物に言ってはならないと」
仕方ない、それなら…とはならない。禁則事項だろうと、そうでなかろうと、分からないと組織の全貌は見えてこない。
「な、先…」
「…集まったみたい。行こう?」
お察しくださいってか?何をどう察すればいいんですか。
広い建物の中で、呪文や特技の名前、呪文や特技による音、断末魔が木霊する。
「まともに技が使えない俺って…。ここにいる必要あるのかよ…」
「はあああっ!!!」
「…えい」
戦う日影たちを見て、俺はとても情けなく感じた。女性に、女子に助けられ、それをただ見ることしか出来ない。…何故そんな俺が一緒にいなければならないのか?理解不能だった。
断末魔などが聞こえなくなり周りを見ると、既に相手が全てやられていた。
「どうなってるんだよ…」
「これが私たちの強さってことよ」
そして、俺を除くメンバー全員が一致団結して進んでいくと、やっと首領の元へ。
「よく来たじゃない」
女性だった。どことなく幼い感じが漂っている。
「ようこそ、私の極上の楽え…へぶっ」
特に何もないところで転ぶ。大丈夫なの?こんなのが首領になって…。
…大丈夫だった。
目にも留まらぬ速さで攻撃を繰り出すと、何も出来ぬまま仲間たちが瞬く間に切り刻まれ人間のミンチ肉と化していく。今度はこちらの断末魔が沢山耳に入ってくる。数々の内臓が飛び散り、辺りは血の海と化す。
「…想像以上だわ」
「大丈夫なのか?これ」
「日影ちゃんに任せなさい」
日影はその女に近づくと、瞬く間に辺りにミンチ肉と化した人々を設置していく。
「減ってきたことだし、楽しく甚振ってあげ…へぶっ」
案の定引っ掛かって転ぶ。
「…アン・インストール」
そこに最強の呪文を唱える。
「んっ!こっこれはっ…!!!!!」
そして、光って消えた。
正直、こんな可愛い子を殺したくなかった。俺はお持ち帰りしてしっかり調教して………
「あの子に見蕩れちゃった?相変わらず浮気性だね」
「!!!!!!」
そんなんじゃないです二人とも。日影さん、そんな悲しい目しないで下さい。
「そんなんじゃないよ…ちょっとお持ち帰りしてビシバシ調きょ…」
鉄拳を食らった。それ以降の記憶はない。
気が付くと、家にいた。
「まったく、下らない事を言って…」
「これだから貴方は一生童貞なのよ」
「決めつけないで」
さらっと酷いことを言う日影。相変わらずきついです。
「………太陽、蕩れ……」
あまりの小声で聞こえなかったが、何かツッコまなければいけないことを言っていた気がする。
そんなことより、やはりこの組織は謎が多い。
まず、名前が分からない。誰一人として名前を出すことはない。
そして、先生について。夫がいることは分かったが、その夫が何なのか分からない。また、組織の中ではトップに近いようだが、一体どんな地位にあるのか分からない。組織についてどの範囲まで知っているのか…。今後問い質していく必要がある。
そして様々な点を踏まえて、良い組織か、悪い組織かと言うところ。ここが分からなければ何も出来ないのだ。俺たちがもしも悪行を働いているのだとしたら、それは恐ろしい事である。今すぐ反逆を起こさなければならない。
色々あるが、何と言っても、俺はこれだけ、切に思う。
普通の日常に戻りたいと。
しかし、こんな生活が続くと、普通の日常というものが、よくわからなくなる。
これが普通の日常と思うことになる前に、何とかしなければならない。