第十三話 普通に戻りたい
日影誘拐事件も無事…無事?解決し、普通の生活に戻る………はずだった。
普通に学校で授業を受け、平安の時を過ごしている時間だったのに。
爆発音がして辺りが騒然となった。
隣の教室では廊下に飛び出す人もいた。下の教室からはガタガタと大きな物音がする。
「何が起きた…?」
「全員落ち着けー!何者かによる攻撃の可能性がある。私と太陽と日影、そしてその他教員で何とかする」
…手稲先生の授業の時だった。嫌な予感がする。
「何で俺達まで…」
「一応立派な戦力だしな」
「…で、何があったの?」
「流石にまだ私にも分からんよ…嫌な予感はするがな」
そして音がした方向へ急ぐ。
そこには黒尽くめの女がいた。気の抜けるような優しい顔つき。本当にこの人がやったのか疑問を呈したくなるほどの外見だ。
「まさか、清田彩伽ともあろう者が直々にここまでやってくるとはな…」
俺らに彼女の名前を教えるように話し出すと、顔を歪ませこう続けた。
「気をつけろ、外見は優しい女だが、中身は悪そのものだ」
「あの組織の上層部の中でも悪名高い。内部では権力を武器に無理矢理部下を従わせ、外部では敵対組織に押し入っては皆殺しし放火、一般人を巻き込むような行為も多数行っており、『少しの犠牲は当たり前』という残念な脳の持ち主さ」
「ここに来た理由は私の偵察かな?最近上層部にかなり怪しまれていたからね」
その説明を聞いた途端、血の気が引いた。あんまりだ。こんな奴が一緒の組織でやっているのか?
「…ご名答。でも、その説明はあんまりじゃないか?誤解を生む」
「どこが誤解だい?あんたがやっていることはただの自己満足じゃないか。言われた事以外にも余計な事を行う」
「相変わらず堅いなあ。何故そんな優しい心を持った人間がこの組織に入ったことを選んだのか、甚だ疑問だがもうそんなことはいい」
「総長の命令だ。今すぐ死ね。吹き飛べ」
いきなり衝撃的な言葉を放つと、銃を取り出し引き金に指をかけ、撃つ準備が整ったような動きを見せる。
「…そうか。ならその総長から私を撃つために受け取った銃で殺してみろ」
先生も衝撃的な言葉を放った。そこまでの覚悟が出来ているのか…。
俺は、ここまでの先生との歩みを走馬灯のように思い出す。
衝撃的な出会い。
家族の死。
先日の日影の誘拐。
その他数々の任務とやらを熟してきた。
短い間ではあったが、それまでの平凡な生活が一変した。
そして、発砲音が響き渡る。しかし、銃から出てきたのは弾などではなかった。
『天水ちゃん、お誕生日おめでとう!…もう三十路か…。早いなぁ。早く彼を連れてきてくれよ!』
何だこれは。
「総長らしいね。こんな物騒な祝い方するんじゃないよ…。大切な仲間達を巻き込んでさ…」
「…何か裏に書いてあるよ…」
ぽつりと日影が放ったその一言。何故陰に隠れているものが見えるのか…『日影』だからか…?
それよりも肝心なのは書いてある内容である。見てみると、
『さいちゃん、今までご苦労様。私の言うことを無視するばかりか、関係のない人々や我々に危害を加える始末。儂の手には負えません。さようなら』
衝撃的な文章だった。まさか死ぬのは先生ではなくこの女だったとは…。
それにしても呆気ない。もっと楽しませてくれよ…。
いつから俺はこんな非日常的なことを楽しいことと位置付けた…!?
「ふっふっふ…。でもねでもね!!私にはこれがあるのよ!お前ら全員皆殺しDA☆」
調子が狂った女はまるで中二病が格好つけるような言い方で発言しコートを剥ぐと、大量の小さい箱が沢山服から吊り下げられていた」
「おい!その開発中のアン・インストールボックスを使うつもりか!私は兎も角、他の人に危害を及ぼすのは…!」
「アン・インストールボックス?」
「…アン・インストールボックス。それは箱を開けば半径10mの人を全てアン・インストールできる代物さ。ただ、今のままでは投擲しない限りは自爆テロ用のようなものだから、改良が必要なアイテムさ」
「だが、お前を消すことにより私は地位が大きく上がることだろう。殉職したということで退職金もガッポリだ」
「戯言は終わりだ。組織の為にはこれしかない。さあ消えろ!」
あまりにも衝撃的過ぎて何も出来なかった。
女を止められなかった。
そして、先生を守れなか……。
「あれ…?何故何も起こらない?」
「やっぱり開発途中の品は動作不良を起こすか」
そして女が箱の中を覗いた瞬間、箱が光を放ちながら女を飲み込む。
「!!!!!!!!!!!!!!何故だ!!!!!!!!!!!!!何故だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
女は箱の中へと消えていった。そしてその箱は勝手に蓋が閉じる。
「これは面白い。少し調べてみる価値がありそうだな」
「そんなことより、これで終わったの?」
「あぁ、今回の件は何とかなったな」
「…先生…私、先生がいないと淋しい…」
「まったく…日影はこれだから面倒の看甲斐があるな」
「ずるい!日影、俺にもしてくれよ」
「今は無理」
「即答するなよ。淋しくなるのはこっちだわ!」
「仲いいねぇ」
「ああ、高校時代に戻りたい」
色んな先生がそんなことを言っている。恥ずかしいので逃げてもいいですか!?
終わった時には既に6時限目の授業も終わる時間だった。
心配ないと聞かされ安心する級友達。でも俺らは全く安心できないんだよ!
いつになったら普通に授業を受けて普通に友達と話せて真面な彼女ができ世間一般的な付き合いができるんですか!?
「先生、そろそろ私疲れた…。色々あり過ぎて大変」
「そうだな…。お前たちは高校生。大切な勉強の時間を削る訳にはいかないからな。一寸相談しに行くか…」
「それができるなら早くしてくれや!!」
「太陽…お前そんなに普通に過ごしたかったのか」
「当たり前でしょう。高校生だし、勉強できなかったせいで点とれないし」
「…それは元からじゃ?」
「あーあー真面な勉強もせず学年一位とか羨ましいなー!」
家に帰る。
先生の家。今日はいつもと少し違っていた。
男がいた。その男とは随分と親しく話している様子。
『勉強してなさい』と言われ俺も日影も部屋へ連れていかれたが、出て来てみたのだ。
「ちょっと待ってて」
「…何で出てくるの。来るなって言ったでしょ」
「夫いたんだ」
「そうよ!悪い!?…あっ」
「何で今まで隠していたの」
「組織の人間だからよ」
「総長とか?」
「そうだったら私は組織を裏切るような思考を許すはずないでしょ」
「そういうものか…」
日影の部屋に行って報告しなければ…。
「おーいひか…」
すやすやと寝息を立てていた。すっげー可愛い!!写真撮りたい!!
すると突然目を開き、俺がいることに気付くと林檎のように顔面が赤く染まっていく。
「…見た…?」
「うん。」
部屋の空気は凍り付いた。何故俺は肯定の返事をしてしまったのか。
突然口を開くと、急に途轍もない罵詈雑言を浴びせる。
「変態!ド変態!エロ犬!鬼k」
「それ以上言うなよ、絶対にだ」
「はい」
どうしてこんな素直なの?何この小動物。
「そうだ、日影。一緒に寝」
「ません」
「何でさ!」
「そういうのは…もごもご…」
「よく聞こえないなぁ」
「うるさいよ!出てって!」
こんな楽しい時間を過ごしていたら…。
「飯だぞー」
先生が組織の人物を夫に持っていてそれを隠していたことを伝え忘れた…。まぁ、どうでもいいか。
日影とのやり取りは楽しいし、良いのだが、その他の点は普通に戻ってほしい。切に思った。