後半
細長い何かが首元に触れ、痛みが走り、そのまま体が段々と持ち上がります。少しずつ呼吸が出来なくなります。自分の体が自分ではないような気がしてきます。自分のことなのに、他人事のような感覚で、なんとなく首を締められていると理解しました。手先が床から離れ、膝立ちくらいの高さまで体が持ち上がっているようです。言葉にならない声が口から漏れます。
-殺される
そう思いました。酸素がどんどん薄くなり、呼吸をしようとしますがままならず、意識が遠くなりつつあります。約束…ではありませんが、あの幼子に言われたことを破り、目を開けてしまいました。
と、同時に落下の衝撃。…どうやら、そのまま床に落とされたようです。拘束具の重さもあってか、色々と痛いです。
首を絞められて足りなくなっていた酸素を取り込むかのように乱れた浅い呼吸が続きます。酸欠のせいか、先程から頭痛がします。段々と考えるのが億劫になりそうです。
「起きましたか?」
低めの声をかけられます。思考が上手くまとまりません。呼吸することに必死な私としては何も言えません。顔面床ダイブをしたせいか、顔が痛いです。また、先程から酷くなる頭痛のせいで、声の方向を向く元気もありません。目を開けているのも辛くなります。
「起きてますよね?口があるのにだんまりはありませんよね。」
髪を引っ張られ、無理やり上を向かされます。はっきりと目を開けることは出来ませんでしたが、少しだけ見える視界の中に捉えた人影は、見覚えのある顔でした。
「……父……さ…ん?」
私の父は、2年前に行方不明になりました。兄は5年前に就職して家から出ていたため、今は母と2人で暮らしています。
ただ、記憶の父よりも随分若いです。どこで見たかと言うと、玄関に飾ってある両親の結婚式の時の写真のような顔立ちでした。私の記憶の父は40代なので、20代頃と言えばわかりやすいでしょうか。
…考えるのが段々と億劫になってきました。
「驚きましたか?感動の再会とかしたかったでしょうけど、残念ながら貴方の父ではありません。血縁関係があることは認めますがね」
両親から聞きましたが、私たち家族の親戚は大半が私の小さいときに亡くなられているので、血縁関係といわれてもピンと来ません。
「気になりますか?しかし、そろそろ今の貴方も限界でしょう。長話は途中で眠くなってしまうと思うんですけどね」
その人は私に聞かせる気かそうでないのかわかりませんがブツブツと言っています。
「不老不死って永遠のテーマですよね。細胞の分裂も限界があるんですよ。普通では最高でも150年しか生きられない。ただ普通ではない方法があれば、問題なく生きることができる。…長く生きてどうするかって?1度は世界征服って憧れませんか?ただ恐怖で支配するのでは無く、じわじわと僕がいないと機能しなくなるように世界を変えていく。ワクワクしませんか。たった1人の人間がいなくなるだけで世界が壊れるまでぐちゃぐちゃにしたいんですよ。そこに老化なんてあってジジイの姿でなんて僕は嫌ですからね。不老はなんとかなっても不死は中々に難しくてね。ほら人の体って脆いですから。どんな偉大な人物も呆気なく死ぬもんですよ。……おっと、まだ説明が途中なんですが、そろそろ次の段階に進めそうですね。」
半分くらい何を言っているのか理解出来ませんでした。というより、頭痛も酷いし、体も重いです。目を開けてるのもつらいです。
「やはり血縁関係者はやりやすい。男よりも女の方が成果が出やすそうですね。自分でうまく行くから後回しにしてたんだけどな」
手足から冷たい金属の感覚が無くなり、視界が床から空中へと移動します。かかえられているようです。
収まる気配のない頭痛と、抗いがたい眠気に、開けているのが辛い目。
少しずつ揺らぐ視界の端に床に蹲った姿勢で顔だけをあげこちらを見ている先ほどの幼子。何かの意図を感じるようにまぶたは重くなり深い闇の中へと意識は沈んでいきます。
--守れなくてごめん
狭くなる視界の中、彼の口はそう動いた気がしました。
-----
「人は脆いと言っても多分今の状態であればしばらく何があっても死ぬことはないでしょうから。生きていれさえいればいつかまた会う時が来るでしょう。では、その時までお別れです」
ぼそぼそと喋る声は強い雨音にかき消されて殆ど聞き取ることはできない。
冷たい雨が体温を奪っていく。
「………。……?…………!」
どのくらいの時間が経ったか分からないが声が聞こえる。
雨の当たる感覚はいつの間にか無くなっていた。
かなり昔に書いたメモを元にリメイクしました。
なんとなく今後も思いついてはいますが一度ここで一区切りとします。ここまで読んでいただきありがとうございました。 y




