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エルフさんです。

耳が長い美少女、明らかに人間とは違うだろう。

金色の長髪は空色のリボンで一つにまとめられており、長い耳には赤と蒼のイヤリングがぶら下がっていた。全体的に白い肌なのに不健康さは感じさせず、人とはまた違った美を醸し出している。

緑を基調とした全体的に落ち着いた服だ。ミニスカートに黄色のフリルと、金色の花の刺繍のあしらわれている。黒色のニーハイソックスと、茶色のブーツ。

腰に下げられている細長い剣が異質感を放っている。

まだ幼い顔つきの少女だった。


「#kUr;fksmeicgcy?jdvxuskebxke+8%。」


少女が口を開くが、聞こえる言語は日本語ではない。可能性として考えていたことだが、言語が通じないとなると意思疎通は難しい。


「……英語…じゃないよね。」

「聞いたことないな…」


成績優秀の幸太も聞き覚えがない言語らしい。女神様、どうせならちゃんとコミュニケーション取れるようにしておいて欲しかったです。と、詮無き事を思ってしまう。


「J3nzka?-diwbco。」


身振り手振りで話しかけてくるのだが、言葉がわからないのでこちらは動けない。少女は僕たちのリアクションから、言語が通じていないことが分かったのだろう。

納得したように頷くと、僕達に向かって手を突き出した。


「え……ちょっと…」


引き気味の僕。まさかいきなり攻撃されるということはないと思うが、それでもよくわからない行動をされると身構えてしまう。

逃げるべきかと、足を引く。幸太も同じ様に警戒心マックスだった。

エルフの少女は、そんな僕の心情に気がついたのか、安心させるかのように微笑んだ。


「K3kzia;xosna[#_fh。」


バチン、と目の前ので火花が飛んだ気がする。そして気がつくと、少女がもう1度話しかけてくる。だが次は何を言っているか分かった。


「これで言葉がわかりますか?」

「え…わかるね。」

「なんで?魔法ってやつか?」

「ええ。私はリリン、エルフです。お2人は人族ですよね?」


予想通り本当にエルフだったと、痛む頭。本当に異世界に飛ばされたのだと否応にも実感させられる。


「人族っていう言葉に聞き覚えはねぇけれど……人間だよ。俺は幸太。」

「僕は翼。」

「コウタとツバサですね。どうしてココへ?ココは立入禁止区域ですよ。」

「「……」」


恐らくリリンからしたら当たり前の質問だろう。だけど僕達がリリンの求めている答えを返せるかと言われると、恐らく否だ。僕達はここが立ち入り禁止区域だと知らなかったし、好きでここに来たわけでもない。


「……不可抗力?」

「事の成り行きで?」


と、自分たちでも曖昧な答えを返すしかない。仕方がないじゃないか。あの女神(笑)のせいなのだから。断じて僕たちが望んだ訳じゃない。


「事の成り行き?」


リリンも反応に困っているのか、微妙そうな顔をしている。いや、意味がわからないのかもしれない。どうやったら成り行きで立入禁止区域に入り込めるのだろう。

国会議事堂に特に理由もなく平日に入り込んでしまったようなものだろう。謎だし、怪しむなという方が無理。


「んー……えっと。取り敢えず街へ行きませんか?」


リリンは困った末に出した回答、それは僕達を街まで連れていくことだった。それは願ったり叶ったりなのだが、不安な点もある。


「…まだ俺達は自分たちのことを何も話してないんだけど、そんな怪しい人間を街につれていっていいのか?」


幸太はそう聞く。僕も同じことを思ったから良かった。だがリリンは微笑み、頷いた。


「貴方達は悪い人族では無いでしょう?悪人ならば、精霊たちは楽しそうに周りに集まっていませんよ。平和と優しさを好む精霊に好かれている時点で、貴方々は悪人ではないと判断します。だからいいのですよ。

誰にだって知られたくないことはあります。無理やり聞くなど野暮でしょう?」


リリンの心の広さに感服した。

そしてこんな状況だが、ツッコミどころは沢山ある。精霊って何だろうか。この子は電波ちゃんか?いや、エルフという異世界の特権のような存在である以上、精霊がいてもなんの不思議もないことはわかっているが、少なくとも僕らには見えないため、現実味がない。


「ちょっと待ってくれ。リリン…だってか?ここが立ち入り禁止区域だというのなら、なんでアンタはここに居るんだ?」

「幸太っ!」

「落ち着け翼。警戒するなって方が無理だ。」


慎重で疑い深い幸太は、僕の前に立ち塞がりながらリリンを威嚇する。僕が乙女だったらときめくのだろうが、残念ながら僕は男。男色のケはないのでこれっぽっちもときめかない。もちろんかっこいいとは思うのだが、どこまでいっても恋愛感情からはほど遠い。

リリンは警戒している幸太に、落ち着くようにと声をかける。決して距離は縮めず、身振り手振りで悪意はないのだと主張する。


「私は冒険家ギルドの者です。この遺跡の調査をしていました。

確かに私はエルフですが、人族に危害を加えるつもりはありません。神、ミルティナアリエスに誓いましょう。」


リリンはそう言うと、左手で剣を鞘ごと腰から外しトンと鞘の先で地面を軽く叩く。瞳を閉じて右手を胸の前に添えた。

芝居がかったその動作は、誓いのなにかであろうと予想をつける。


「…どうする?」

「どうするって言われても。警戒するに越したことはないだろうけれど、ここに留まっていても仕方がない思う。信じてもいいかなとは思うよ。」

「翼がそう言うなら、信じることにする。」

「僕のカン当てにしないでよ!?」


信じられるのは互いだけだと分かっているので、ダメだった時は連帯責任な!と釘をさしておく。そもそも僕に決定権を渡さないでほしい。責任逃れと言われるかもしれないが、本当に僕では荷が重すぎるのだ。


「オッケ。じゃあリリン、悪いんだけど案内してもらっていいか?」

「ええ。構いませんよ。」


ニコリと笑うリリンの笑顔が眩しくて、僕は目を細めた。ヘタレ?なんとでも言ってくれ。

リリンにの後をついていくこと数分。遺跡から出た僕達は、目の前に広がる緑の木々に気が遠くなりそうだった。


「なぁ聞いていいか?」

「何ですか?」

「この遺跡?は何なんだ。」

「まさか、知らずにいたのですか?此処は昔、神殿だった場所です。この森が活性化してから、危険だと判断した神殿側の神官たちが別の場所に移動してから破棄されていたのですが、たまに私のような冒険家ギルドの人間が様子を見に来ているのです。」

「冒険家ギルド?」


リリンは驚いたように目を見開くと首を傾げる。


「ギルドを知らないのですか?今はどこにでもギルドの支部があるはずので、よほどの田舎から来た訳では無い限り常識なのですが……」


心底不思議そうに言われても、そもそもこの世界の人間ではない僕達に分かるはずがない。


「ギルドは何種類もあるのですが、代表的なのが"冒険家ギルド"と"商業家ギルド"、"魔術師ギルド"の三つですね。」


冒険家ギルドとは、実力主義の組織のこと。地域の治安維持や護衛、魔物討伐の前衛など剣や弓を使って最前線で戦う。また、危険な場所の調査なども仕事の一つ。


商業家ギルドは、街の商売についてほぼすべての全権を持つ組織。街で商売をしたい時はまず、商業家ギルドに話を通さなければならない。物販施設はおろか、食事処や宿屋、露店まで手広く対応している。


魔術師ギルドは、魔法使いが属するギルド。冒険家ギルドと手を合わせて、魔物退治や治安維持も行う。魔法の改良や開発といったことも魔術師ギルドが国から全権を得ているとか。魔法使いは全員この組織に属する。


「といっても、すべての生物が大なり小なり魔力はあるので、ギルドの者は、ごく一部を除いて全員魔術師ギルドに属することが決まりとなっています。かくいう私も、魔術師ギルドではAランクなんですよ。」

「うわぁ、ファンタジーだ。」

「この国は魔術至上主義気味なので、魔力が少ない者は専ら籍だけ置いておいて、他のギルドに属します。」

「へぇ、」


という事は、魔力がない人間は生きづらい国という事か。人種差別のようで気分が悪いな、と思っていたら幸太に頭を撫でられた。びっくりして幸太をみると、微笑んでいた。

幸太は僕の性別を間違えてはいないだろうか。僕は男なんだが。


不機嫌になった僕に気づいたのか、宥めるようにより撫でてきた。逆効果なのだが教えてやるのも癪なので、何も言わず幸太の手を振り払う。


「もしかして、コウタとツバサは身分証を持っていないのでしょうか?見たことのない格好ですから、旅人なのかと判断したのですが…」


違いました?と聞いてくるリリン。まさか異世界人だとはいえないので、肯定することにした。旅人という表現は間違っていないのだ。正解でもないが。


「だったらまず門番に銀貨二枚を払う必要があります。一人銀貨一枚ですから。私はギルドカードがありますので、普通に通れますが…コウタとツバサは街に入ったらどうするつもりですか?身分証明書を作るのならば、どこかのギルドに属することを勧めますが。」

「ちょ、ちょっと待って」


リリンが一気に情報を出したので、僕は大半を聞き流してしまった。幸太はちゃんと聞いていたのか、眉間に皺を寄せている。


「幸太?」

「翼、困った。」

「?」

「銀貨ってやつ俺ら持ってねぇぞ。」

「おぅふ」


そう、もう耳がタコになるほど言ったが、僕らは異世界人だ。学校帰りだったのでカバンと日本円は持っているが、この世界では使えないだろう。

そもそも銀貨とは、日本円でいくらに当たるのだろうか。この世界は物価も違うだろうから、僕達の常識はあてにならない。


「手持ちのもの売ったらなんとかなるかな。」

「それしか方法がねぇが、それだとまず前提が"街に入っていること"だぞ。リリン、質屋みたいなところで買い取ってもらうのにも、商業家ギルドを通さなければならないのか?」

「いいえ。アイテムの買取は、その店の自己判断ですから、ギルドが関与することではありません。市場の物価がひっくり返るほどのものを持ち込まない限りは、基本は無関心ですね。」

「じゃあその点は問題なし、か。となると最大の問題点は」


どうやって街に入るかの一つ。身分証明書など、学生証しかない僕達。しかも異世界では使えないだろう。お金もない。これは本格的に詰んだか?

二人で頭を抱えて唸っていると、リリンが助け舟を出してくれた。


「私でよければお貸ししましょうか?」

「……嬉しいが、リリンがそこまでする理由はないだろう?」

「仮に街に入れたとしても、どこに何があるかわからないでしょう?私が案内してもいいですよ。お金はその時に返してもらえれば十分です。」


僕たちには美味しい話なのだが、リリンに利点が一つもない。リリンは悪い子ではないと思うのだが、うまい話には裏があるともいうし、その辺ははっきりさせておくべきかもしれない。


「君の利点は?」

「精霊に好かれている人族をほかって置くのは気が引けますし、何より…」


声が小さくなり、顔を赤くして顔を背けてしまう。それで事情を察した僕は遠い目をする。分かっていない幸太はオロオロとしていた。

幸太ってホント勝ち組。羨ましいという感情さえ浮かばない。モブの僕とは人種が違うのだ。そんな悟りを開いた瞬間だった。

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