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やはり僕はティッシュです。

「何アンタ巻き込まれたの?駅前で配られているティッシュ並みの役にしか立てない分際で、何勝手についてきてんのよ。」


僕が異世界に召喚されて聞かされた第一声が『それ』でした。


「……え?」


思考が追いつかず、ポカンと間抜けな声を上げてしまった僕の名は一ノ瀬翼(いちのせつばさ)。16歳の、ファンタジーとは全く縁もゆかりもない平凡な人間だ。男子校高校生という肩書きを持ち見た目も成績も中の下と、普通という言葉が似合いすぎる…いわゆる『モブ』。


しかし…『駅前で配られているティッシュ』か、なんで的確な表現なのだろうと、自身のことなのに全面的に同意をしてしまった。むしろ妥当な表現に、彼女に賞賛を送ろうとまで考えていた。


「ちょ……なんだよアンタ。初対面の相手に向かって『ティッシュ』は無いだろ!?」

「幸太、多分反応するところが違う。」


新木幸太(あらきこうた)。ザ平凡の僕とはかけ離れた超イケメンな親友だ。容姿端麗成績優秀、芸能プロダクションに何度もスカウトされた経歴を持っている。俗に言う"勝ち組"の人間。


そして人をティシュと呼んだのは二人の目の前で偉そうに腕を組んでいる彼女。銀髪でアメジストの瞳をもつ美少女である。氷のように凍てつく表情と第一声の高飛車な口調はまさしくクール系女子。古代ギリシャの人々が来ていたような服装は、ただの一般人だとは到底思えない。


「なによ、私は事実しか言ってないじゃない。」

「酷いな!?何様だよアンタは!!」

「私?神様だけど。」

「紙?」

「紙じゃない神!時空の女神ベロニカよ!!バカにしてるの!?」


神様という言葉を聞いて、胡散臭いと思う反面心配になった幸太。


「おいおい、厨二病かよ。今時流行んねぇからやめとけ。将来痛い目見るだけだぜ?」

「誰が厨二病ですって!?この神々しい姿を見て疑うとかアンタどこに目をつけてるのよ。」

「ここですけど?見えないのかよ?」


いきなり喧嘩を始めてしまった2人。完全に僕は居ないものとされているようだ。存在感が薄い為仕方が無いと言えるのだが。


「あのー……」

「「アンタ(翼)は黙ってろ(なさい)!」」

「はい…」


鳥肌が立つ程の剣幕で睨まれ、鼓膜が痛くなるほどの大声で怒鳴られたので反射的に口をつぐんでしまった。


「大体何だよ『巻き込まれた』って。まさか自称女神様(笑)は俺達を召喚しましたーとか言うのかよ。」

「その通りよ。」

「なんて非科学的な。信じられるかっての、証拠でも出してみやがれ。」


ここは何処なのか。

つい先程まで僕達は、共にファミレスへ向かっていたはずなのだ。信号待ちをしていてそれから……それから?何があったのだろうか。その部分だけ霞みがかったようにぼやけて思い出せない事に気づく。

気がついた時にはこの真っ白で何も調度品がない空間に二人は倒れていた。どうやら気絶していたようで、幸太も隣で四肢を床に投げ出していたのだ。


「証拠?ならこれでいいかしら。」


ベロニカが腕を掲げ、指を鳴らした。その瞬間真っ白だった空間が変化した。状況を理解しようと頭をフル回転させていたが、周りの景色を見て思考を放棄した。いや、放棄せざるを得なかった。

宇宙空間。シンプル且つストレートに言うならばこの言葉が一番適切だ。暗闇に輝く無数の光。それは星々だ。


「……翼ぁ。」

「…………」

「俺立ったまま夢見てるわ。」

「それは奇遇だね。僕も同じことを思い始めたところだよ。」

「だって俺ら凍ってないもんな。」

「なんかそれデマらしいよ?というか判断要素そこなの!?」


人間とは予想外なことが起こると冷静になれるようだ。呆然としながらもパニックを起こすことは無く、ギャグをかます事が出来る程度には頭は冴えていた。


「どう?信じてもらえたかしら。まったく、なぜたかが人間ごときに力を使わなければならないのかしら。」


見下すように上から目線で愚痴を垂れるベロニカ。

僕達の反応がつまらなかったのか、興を削がれたこのような顔をすると淡々と話し始めた。


「アンタ達はこれから異世界まで飛んでもらう。役立たずがいるけど、もう片方は私たちに匹敵するほどの魔力を持ってるみたいだしまぁいいわ。」

「ちょっと待て!」


そのタイミングで幸太が待ったをかけた。このままではこの非現実的な出来事をさらりと流されてしまいそうだと思ったのだろうか。


「何よ。」


話の端を折られベロニカの眉間にシワがよった。不機嫌さを隠そうとしない声に若干萎縮しながらも、幸太は問いかける。


「アンタが人間じゃないってのは分かった。だがそっからが分からねぇ。俺達を召喚した理由は?」

「魔王を倒してもらうためよ。」

「拒否権は?」

「まさかあるとでも思っているの?人間ごときが、思い上がるのも大概にしなさい。」


"人間ごとき"という言葉に反応を示してしまった僕と幸太。だが決定的に違うのは、僕は『人間と思われていたことに驚愕した』ということであり、幸太は『人間と見下さられることにムカついた』ということである。もちろん僕は人間ではないと思っているわけではない。母親がいて父親もいる生粋の人間だ。だが周りの人間が普通ではないので劣っている人間と思っている。


「これ以上の問答は無用ね。だから……さっさと行きなさいな。」


その瞬間足元の床が消えた。急に襲ってくる浮遊感に頭がパニックを起こす。


「あ、言い忘れてたけど元の世界に戻るには魔王を倒すしかないから。帰りたかったらせいぜい頑張ることね。」


「「はぁ!?それは聞いてないけどォォ!?」」


宇宙空間らしき場所に放り出され、呆気なくまた僕達は意識を飛ばした。


『ああ、召喚された時もこんな感じだったなぁ』


と現実逃避をしながら。


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