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「その6 ライプニはたいて捕まえて」

【登場人物のおさらい】

◇ティンクル・・・所長。吸血鬼の少女。

◇ライプニ・・・近所のクリル神社でネクロマンサー修行中の人族の少女。熱帯魚初心者。

◇カトゥーチャ・・・事務所勤務の代書士。人族のデカいおっさん。

◇ラムシゲ・・・よく勝手に入って来るエルフの美少女。

◇森岡師匠・・・超ちっさい猫系獣人。ティンクルの熱帯魚仲間?


都会の隠れ家、カーミラクス=ロープ街の休日の昼下がり。

買い物客夫婦やらちょっとした観光客(散歩客?)やらが行き交い、通りには店先から溢れた芳しいフードたちの香が流れている。

普通、腹減るよな、これ。


そんなのどかな休日の町を他所に、代書士ティンクル=リロルスター事務所では、熱帯魚談義……、ぃゃ、単なる“だべり”が気怠く続いている。


あー、外はこんなに良い天気なのに。

風はこんなに暖かいのに。

どうして、狭い部屋に閉じ籠って、わけのわからん話を続けてるんだろね♪

クスリ。



ティンクルは、教師か何かのような態度で、ライプニに質問を続けた。

「さて、覚えておけってゆーといたさっきの2つのシチュエーション(※)。何がいけなくて、何をどうするべきなんちゃろね?」

<<※「その4 退屈に逆襲する」(2)参照。>>


ライプニ:「う~ん……、困ったっすね……。質問が抽象的過ぎて……。」

森岡:「若造、まだ気付かないっぺ?このエルフは顔が残念なんだっぺ。考えるんじゃないっぺ、感じろ。」

ティンクル:「そのとーり。」

ライプニ:「ぃゃぃゃ、絶対そんなことないっす!スーってば、こんな美しいお顔を拝見したことはないっす!ラムシゲさんの残念なところなんてバストくらいっす、ほんとに!」

ラム:「なっ……!?」

カトゥ:「ぐわははは!」

ラム:「ライプニちゃん、あなた、自分が我が儘ボディだからって、結構言うこと言っちゃったり……?」(with ヒキツリ笑顔でピクピク)

ライプニ:「はっ……!? そっか!? あぅ、すんません!ぃゃ、そーゆー意味じゃないっすから!ホント、他の部分が完璧過ぎってだけで……!! いやもう、バストなんて小さくても、男性にもいろいろと趣味・趣向があるから全然大丈夫っていうか……、もちろん女性だって好きな形状とかそれぞれ……!? ぃゃ、何てゆーか、その、スーってば全然悪気はなくって……!!!」

ティン:「ぷーっ!!」(笑&口から何か噴射)

ラム:「悪気がないとか、かえってグサっとくるんですけどぉ! なんかこの子、ちょいちょいボディブロウ攻撃してくるわね……。はっ……!?これが死霊魔術!?」

カトゥ:「ぐははは!」

ラム:「笑うなってゆってるでしょ、この人間風情が!」

森岡:「せめてもの弔いに笑ってやってほしいっぺ、この人間風情よ。」

カトゥ:「ぐわはは!」

ライプニ:「ほんと、すんません、すんません!こんな綺麗な人に、ほんとスーってば何言ってんだろ!?ホント、この事務所のことは嫌いになっても、スーのことは嫌いにならないで下さいっす!」

ラム:「この子、なんかちょいちょいダークサイドが見え隠れしてる気がするんですけど?常に師と二人組で行動してそーなんですけどぉ?」


ティンクルは、どこかから噴き出されたと思われる、机上のカラフルなコンニャク菓子の欠片を紙でふきふきしながら、笑いをこらえつつ、話を元に戻す。

「ラムシゲ、お前はほんとにいいヤツっちゃけん、その胸を勇気と希望で膨らませろ。さておき、まー、そうっちゃね、ライプニも間違ってはいないっちゃけど……、」(ラムシゲがティンクルを睨む)

「ゴホン。えー、うんうん。別の質問の仕方に変えたほうがよさそうっちゃね。あー、話の方向を整理するために、まずは前提となるポイントから確認していくけん。ライプニ、さっきの話で、結局、ラムシゲは何をどう思ってるんだと思う?」


「えっ? さっきの話っすか? う~ん……、そうっすね……、もっとバスト大きくならないかなとか、この世界が貧乳好きで満たされますよーにとか、貧乳はステータス異常だとか……、そんな感じっすか?」

「ななっ……!?」

ラムシゲが得意のオッタマゲーション・リアクション・ナウ。


ライプニは、「この人、なんで残念リアクションもカワイイんすか?」と一通り感動した後、ふと我に返り青ざめる。

「はぅっ……!? ぃゃ、ほんと違うんす!これ、チンクルさんの罠なんす!スーはただ乗せられてるだけっす!操られてるんっす!!これ、洗脳っていうんすよね?ですよね!?」


ティンクルとカトゥーチャが爆笑。


「ぃゃ、これ、もう絶対わざとだから。初めて会ったその日に、友情を通り越して故意まで行っちゃったからね!! つーか、この子、おっぱい無双ですか? 俺TUEEEE!!!的なアレですか!?」

ラムシゲが残念な負のオーラを撒き散らす。


「ホント!ホント!ごめんなさいっす!!」

ライプニが前髪ぱっつんのデコを畳に擦り付けて土下座している。


せっかくいろいろと拭き取ったはずなのに、ティンクルの目の前の机は、再び、輝かしいぷるんぷるんの無数の欠片で彩られてる状態だ。



ティンクルは、その机上の星々を拭き取り直しつつ、もう一度、話を元に戻す。

「ぃゃぃゃ、そっちの話じゃないけん。熱帯魚の話っちゃけん。もう忘れたと?」

「あー! ラムシゲさんの熱帯魚がケンカして大変とか、餌を食べなくなっちゃったとか……。もちろん覚えてるっす。」

ライプニが、恐る恐る脇目でラムシゲの顔色を窺いながら答える。


「それよ、それ。で、その件で、ラムシゲは結局んとこ、何についてどう思ってるんちゃろね?」

ティンクルの質問にライプニがさらに答える。

「えー……? 『失敗しちゃって反省~』みたいな感じっすかね? あと、飼ってる熱帯魚を幸せにしてあげたい的な感じっすか?」


ラムシゲは、やっとまともな回答を耳にして、苦笑いしながらも「まぁ、そんな感じよね」といった様子だ。

「ラムシゲは優しいヤツだからな。そうだろうさ。」

とカトゥーチャ。


ティンクルは続ける。

「それは、多分そーなんちゃろね、本当に。ただ、それはラムシゲも自分自身で自覚してるだろう感情っちゃけん、置いとくとしよか。それよっか、ちゃんと考える必要があるんは、ラムシゲが明確に言葉にして自覚できてない気持ちっちゅーか、感情っちゅーか……。人間っちゅーんは、自分の本当の気持ちを思った以上に理解できてない生き物っちゃけん。 まぁ、あいつ、エルフっちゃけど。」


「え~……!? ラムシゲさんが他にもなんか思ってるってことっすか?」

「なんか、他の人たちに自分の本心とか分析されると、妙に落ち着かないわね……。」

ラムシゲがボヤく。


「そうだな、うん。思ってる。ラムシゲは他のことも思ってる。そー言っていいっちゃろね。むしろ、そっちのほうが本当の気持ちってゆーべきもんなんちゃうんかな。」

ティンクルが思考しながら話を整えていく。

だが、周囲の全員、イマイチ掴みきれてない様子で不思議顔だ。


「え~!? じゃぁ、私が性格悪いブルーダイヤモンド・ラムを憎んでるとかってこと? 拒食のディスカスなんて死んじゃえって思ってるってこと?」

ラムシゲが、ちょっと不満そうにティンクルに問い返す。


「そーじゃない、そーじゃない。朕でもさすがにお前がそこまでのアークデーモンだとか思ってないけん。」

とティンクル。


「じゃー、どゆこと? つーか、『朕でもさすがにお前が』ってとこも、ちょいちょい引っ掛かるんだけど……。」

ラムシゲのボヤきには反応せず、ティンクルがニヤリとして言う。

「議論はいい方向に向かってるけん。その調子であと一歩、自分で何を思ってるのか、言葉にしてみ♪ 言語化して1つの文章、1つの命題にしてみるのは、結構、思わぬ効果を生むことがあるっちゃけん。」


いつの間にか、ライプニよりもラムシゲのほうが、真剣な顔で考え出していた。



【登場人物】


◇『ティンクル=リロルスター』(ティンクル/チンクル/朕)

所長。吸血鬼の少女。一人称は「朕」。エセ××弁(「~ちゃけん」とか)。黒髪ロングヘアー。棒状のコンニャク菓子(=こんにゃくゼリー)が好物で、よくグニュグニュ噛んでいる。


◇『ライプニⅡ・ケイ・スー』(ライプニ/スー)

人族の少女。事務所の近所のクリル神社でネクロマンサー修行中。一人称は「スー」。前髪パッツンプリンセスでツインテール(銀色)。ムチムチ大福系。事務所の大家さんの孫娘。熱帯魚飼育歴なし。


◇『カトゥーチャ』(カトゥ)

デカい人族のおっさん(青年!?)。事務所に勤務する代書士。バツイチ独身。痛風。一人称は「俺」。ティンクルとは熱帯魚談義仲間。


◇『ラムシゲ』(ラム)

エルフの超美少女。水色の髪のポニテ。何故か事務所に勝手によく顔を出す。一人称は「私」。好きな魚種は「モルミルス」。


◇『森岡師匠』(森岡)

ネコ科の獣人のちっさい少女。ブラウンのショートヘアーに三毛色の猫耳。猛獣だか爬虫類だかのような瞳孔。ティンクルの熱帯魚仲間?



【その他の用語】

◇『カーミラクス=ロープ街』

「代書士ティンクル=リロルスター事務所」がある街。首都「6メガシャイン・シティ」から近い都会。隠れ家的お洒落町。坂が多い。

◇『クリムゾン=キャッスル神社』(クリル神社)

ライプニがネクロマンサー修行している神社。事務所からすぐ近く。

◇『天守球』

要するに太陽。その光は「天守光」。


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