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「その4 退屈に逆襲する」(2)

【登場人物のおさらい】

◇ティンクル・・・所長。吸血鬼の少女。

◇ライプニ・・・近所のクリル神社でネクロマンサー修行中の人族の少女。熱帯魚初心者。

◇カトゥーチャ・・・事務所勤務の代書士。人族のデカいおっさん。

◇ラムシゲ・・・よく勝手に入って来るエルフの美少女。


ラムシゲの一方的なモルミルス(←熱帯魚の種類の1つ)談義を遮るべく、ティンクルは話題の変更を試みる。

「そーいえば、お前。あれは買ったん、ブルーダイヤモンド・ラム?」


ティンクルからの突然の質問に、ラムシゲはちょっと慌て気味。

「あ、アレね、ラミレジィね。今、うちの混泳水槽にいるわよ。輝く青がほんとに綺麗だよね!」

「青いラムは本当にキレイだな。あの色は凄い。」

とカトゥーチャが相槌。


「ただ、何気に気が荒くて、ちょっと大変。おとなしめの種類と言っても、気の荒いシクリッドの血は争えないみたいね。ピグミーグラミーとか突っつかれちゃって、ほんと可哀想。混泳に絶対はないっていうけど……、ショップの水槽で散々観察して、他の魚に反応しなそうなヤツを掬ってきたんだけどなー。ふぅ。」

ラムシゲは、わざとらしく腰に手をやって困ったような仕草をする。

スラリとした長身と長い手足が、まるで作り物のマネキンか何かのように見える。


応じて、カトゥーチャも困った顔で言う。

「それは気の毒だなー。」

ティンクルのほうは、独り言のように「ほほぅ」とか言いながら何やら考えてる様子だ。


ラム:「やっぱり、魚はモルミルスに限るわね。派手な魚はキレイで華やかだけど、何て言うか、それだけなのよね。」

カトゥ:「ふむ、そんなものかー。」

ラム:「でも、何にしても、何か対策しないと……。標的を定められないくらい数を入れて喧嘩を解消するなんて方法はあんまり好きじゃないんだけど……、いずれにしても、何か水槽内のパワーバランスを考える必要があるわね。」

カトゥ:「隔離したほうが早いんじゃないか?」

ラム:「そーなんだけど……。ほら、私の家、広くないじゃない?さすがに水槽増設も限界があるわよね……」

カトゥ:「都会に住む者のサガってやつか。」

ラム:「そうね……。……。」



「ライプニ。この様子をよく覚えておくんよ。」

ちょっとした沈黙を静かに破って、ティンクルが起伏のない声で言った。

透明感と邪悪さが調和した顔に、強引な感情コントロールでも隠し切れてない不敵な嘲笑が滲んでいる。


「ちょっとなによ、それー。なんか気になるんですけどー。ねえ?」

ラムシゲがカトゥーチャに同調を求めるが、カトゥーチャは「何だろうなー」とか言いながら笑ってるだけである。


ライプニのほうは、何だかよくわからんといった表情でキョトンと座ってるままだ。



ティン:「まー、いいけん。そうそう、あと、この前買ったって言ってた、あのちっこいディスカスはどんな感じなん?」

ラム:「微妙ねー。何て言うか、最初は少し食べてたんだけど、ちょっと餌食いが細いなーって感じしてたんだよね。でも、なんか隠れてることも多いし。私、嫌われてんのかな!?でさー、そしたら、やっぱり拒食になっちゃって……、もうけっこう食べてないんだー。ディスカスハンバーグも買ってるのに、反応してくれないし。やっぱり、本当にディスカスって難しいのかなー。」

ティン:「冷凍アカムシもダメなん?」

ラム:「当然やってるよー。でもダメ。少し反応するけど、それだけ。」

ティン:「そかそか。まー、ストレスとかかけんようにしとけば、そのうち喰うよーになるっちゃろ。」

ラム:「そうだといーんだけど……。」

カトゥ:「なんだ根性のない魚だな。魚はいつ何どき、どんな餌でも貪り喰うようでなくちゃならん。」

ラム:「やっぱり、私なんかみたいなディスカスマニアでもないヤツが、気易く手を出しちゃいけなかったのかなー、反省。」


ティンクルは、腕を組みながら「ふむふむ」と頷いている。


カトゥ:「そんなこともあるまいに。根性ないのはけしからんが、やっぱり魚のほうもいろいろ事情があるんだろ。なぁに、手がかかる子ほど可愛いっていうしな!」

ラム:「まぁね♪あの泳ぎ方が可愛くてしょーがないの♪優雅な感じっていうのかな、ススーって感じがさ♪」

カトゥ:「ディスカスは、デカくなるとそこそこ貫禄も出てきて良いよな!」

ラム:「そうね♪ただー……、ちゃんと大きくなってくれればいいんだけど……。なんか、このまま拒食が続くと“目デカ”になっちゃうんじゃないかって心配で……。はぁー、見てらんないよー。」

ライプニ:「目デカ?」

ティン:「あー、栄養が悪いと目ばっか大きくなるっちゅー、あれっちゃね。ほんとか知らんけど。」

ラム:「ほかの魚でも拒食を経験して来なかったわけじゃないけど、ディスカスのって何てゆーかこう、回復の兆しを感じさせないとゆーか……。なんか重症な感じがするんだよね。もっと数入れて多頭飼育にしないとダメなのかなー。」

カトゥ:「ディスカスは沢山で“群れ”にしてやんないと、寂しくて餌喰わなくなるとか言うからな。よっ!大金持ち!ぐゎははは!」

ラム:「笑い事じゃないよー。」

ライプニ:「ディスカスってすっごく高いんすよね?」

ラム:「まぁ、ピンキリだけどねー。でも、数を増やすと、濾過のパワーアップとかいろいろ大変なの~。さらに拒食の子が増えたり、イジメが発生したりしたら、ガックリを通り越して悲劇ね……。」

カトゥ:「なるほど。悩みの尽きないアクアリストってわけだ。」

ラム:「そんな感じ……。やっぱ、慣れないものに手を出しちゃダメなのかな。とにかくもう少し様子を見てみるよ……。……。」



「はい、ライプニ君。この様子も覚えとくよーに。」

ティンクルは、うんうんと頷くようにしながら、マンガに出てくる教師のような仕草で言った。

ライプニは不思議顔で「はぁ……」と答える。


「ちょっとなに、またそれー?なになに?私がなんかしたってことー!?なんか気持ち悪いんですけどー!」

「ぃゃぃゃ、そう荒ぶるでない♪大したことじゃないっちゃけん。それに、お前に悪いところはないけんね。マジで。うん、本当に。多分。」

「多分って何、多分って!ていうか、どーせ私はダメダメ・アクアリストですよー。はいはい、これで満足ですか。チンクル様の心は晴れやかな青空ですか。」

ラムシゲは、ポニテの先っぽを右手でクルクルしながら、ブスっとしてる。

そんな態度のこの人もスゲー可愛いなとか考えつつ、ライプニはそれを横目で眺める。



ティン:「だーけん、そんなんやないって、ゆーとっちゃろ。これだから男は歳をとるといやっちゃね、何でも自分の悪口言われとーと思い込むけんね~。」

ラム:「そんな年齢じゃないって!私、若いからね!生まれたてのエルフちゃんだからね!てゆっか、男じゃないから!オカマからもっとも遠い存在だから!」

ライプニ:「オカマから最も遠い存在って……」

ティン:「その両胸に手を当ててもそう言えると?」

ラム:「なっ……!?」

カトゥ:「ぐゎははは!」

ラム:「あー!もう、人間風情が笑わうな!こっちは何年生きてると思ってるわけ!?大先輩だからね、雲の上の人だからね!?」

ライプニ:「プッ……」

ラム:「今、そこのネクロマンサー、笑ったよね?根暗な職業のくせに笑ったよね!?」

ティン:「ラムシゲ、お前、面白いっちゃね……」

ラム:「キーッ!!もぅ、あんたたち、絶対許さないんだから!江戸の敵を長崎で討つんだから!あんたたち、全員、明日、落武者だから!」

ティン:「キャハハハ……!あー、すまんすまん。笑えるから、からかっただけっちゃけん、許してくれ~。」

ラム:「その『からかった』ってゆーのが既に許せないんですけどー!」


笑い涙を拭いつつ、ティンクルはわざとらしくシリアスな表情を作る。

「ぃゃぃゃ、大いに興味深かったけんね。お前のゆーとることは、このアクアリウムのひとつの真実を指し示しとるけん。」

「何が真実よー!?」

突っ掛かってくるラムシゲを他所に、ティンクルはライプニに語りかける。

「ライプニ。お前、コイツの話をどう思った?」

悪戯好きの少年のような表情と裏腹に、人の心の奥まで見透かすような黒い視線を投げ掛けられ、ライプニはちょっとドキドキした。

「ラムシゲさんの話っすか?」

「そうそう。まぁ、バカらしい話っちゃけど。」

ピクピク反応してるラムシゲを尻目に、ライプニは考え込む。

「どーって言われても……。何か熱帯魚って結構大変なんすねー、とか……」



――――― ドドーン!あいや、待たれい!



自ら効果音を口にして、その超ちっさい少女は、威風堂々とそこに仁王立ちしていた。

あまりにちっさくて、カトゥーチャのとこからは机の陰になってしまい、その姿を確認出来なかったが。


ライプニは、何事!?という表情で瞳をパチクリしている。



「その少女は、獣人という種族だと聞いたけれども、だとしたら、何てちっさい種族なんだとスーは思う。」

誰も聞いてなかったが、ティンクルは独り囁いた。



【登場人物】


◇『ティンクル=リロルスター』(ティンクル/チンクル/朕)

所長。吸血鬼の少女。一人称は「朕」。エセ××弁(「~ちゃけん」とか)。黒髪ロングヘアー。棒状のコンニャク菓子(=こんにゃくゼリー)が好物で、よくグニュグニュ噛んでいる。


◇『ライプニⅡ・ケイ・スー』(ライプニ/スー)

人族の少女。事務所の近所のクリル神社でネクロマンサー修行中。一人称は「スー」。前髪パッツンプリンセスでツインテール(銀色)。ムチムチ大福系。事務所の大家さんの孫娘。熱帯魚飼育歴なし。


◇『カトゥーチャ』(カトゥ)

デカい人族のおっさん(青年!?)。事務所に勤務する代書士。バツイチ独身。痛風。一人称は「俺」。ティンクルとは熱帯魚談義仲間。


◇『ラムシゲ』(ラム)

エルフの超美少女。水色の髪のポニテ。何故か事務所に勝手によく顔を出す。一人称は「私」。好きな魚種は「モルミルス」。


◇ 超ちっさい少女?

獣人????



【その他の用語】


◇『カーミラクス=ロープ街』

「代書士ティンクル=リロルスター事務所」がある街。首都「6メガシャイン・シティ」から近い都会。隠れ家的お洒落町。坂が多い。


◇『クリムゾン=キャッスル神社』(クリル神社)

ライプニがネクロマンサー修行している神社。事務所からすぐ近く。


◇『天守球』

要するに太陽。その光は「天守光」。


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