「その4 退屈に逆襲する」(1)
【登場人物のおさらい】
◇ティンクル・・・所長。吸血鬼の少女。
◇ライプニ・・・近所のクリル神社でネクロマンサー修行中の人族の少女。熱帯魚初心者。
◇カトゥーチャ・・・事務所勤務の代書士。人族のデカいおっさん。
◇ラムシゲ・・・????
そのエルフの少女は、水色の美しいポニテをサラリと揺らしながら、女神に初めて会ったかのようにポカーンとしているネクロマンサーの少女に、優しく微笑んだ。
「この事務所をいつもお世話してあげてるラムシゲよ。よろしくね!」
ティン:「なにバカ言っとんの。いつも勝手に上がり込んでくるだけっちゃろ。いっつも何しに来とるん?」
ラム:「あら、恩知らずだなー。」
ティン:「知らんし。……だけん、貧乏神でも来ちゃったもんは仕方ないけん、やむを得ず、諸君に紹介しよう。あー……、このエルフはアレだ。近所の何か。」
ラム:「何かって何よ!?」
ライプニ:「ども。スーはライプニⅡ・ケイ・スーっていうっす。チンクルさんにはお世話になってます。」
ティン:「チンクルじゃないけん、ティンクルっちゃろ。」
ラム:「チンクルだって……。こりゃ傑作だ♪グシシシ……」
ライプニ:「すまんす。チンクルさん。」
ティン:「……。まー、いいけん。あー、こっちのツインテールは大家の孫娘。イジュカイルネ地方の高等寺院で勉強してたんだけど、最近、こっちに戻ってきたけん。今はクリル神社でネクロマンサー修行中。」
ラム:「……マジ?クリル神社ってネクロマンサーなんか育成してんだ……、なんかスゴいわね……。」
ライプニ:「そーなんす。よろしくお願いしまっす!」
「まいっか♪とにかく、よろしくね!」
ラムシゲがスラリと伸びたその手を差し出すべく歩み寄ると、突然、室内に鈍い打撃音“ゴツン”が響き渡った。
「うわッつつつ……!?何これ!?もう、超痛いんだけど!?この低い天井、何とかならないわけ!?ここ、ミニチュアハウスなの?子供のお城なの?」
「だーけん、入ってくんなち言うとろーもん。」
「あー、もう!!今度、ここにスポンジ貼り付けるからね!ふかふかして触り続けたくなっちゃうくらい貼り付けるからね!」
「エルフも歩けば梁に当たるっちゃね。」
「チンクルさん、それ、全然上手いこと言ってないからね!恥ずかしいレベルだからね!」
「プププ」
「笑うな、もう!最悪だー。ムチャクチャ痛いんですど。目から火花散ったんですけど。あー、ちょっと瘤になってない!?逆に凹んでない?」
「うーん……、まぁ大丈夫そうっす。」
頭を近づけられると、なんかとってもいい香がした。
ライプニは、こんな女性が男からしこたまモテるんだろうなと素直に感心した。
だって、スーですら、なんか抱き付きたくなっちゃうもん。
「で、何しに来たと~?」
ティンクルはラムシゲを見下げるような顔で問う。
「まぁいいじゃない、そんなこと。あー、頭痛い。はいはい、それより、なになに?アクアリウムの話?」
「そーだが、お前には関係ないけん。」
「もう、つれないなー。」
ラムシゲはわざとらしく膨れた表情をしてから、すぐに元の笑顔に戻る。
右手はまだ頭を擦ってるわけだが。
ラム:「アクアリウムと言えば私よね!アクアリウムは奥が深~いから、私に何でも聞いてくれていいよ♪」
ライプニ:「はぁ……」
カトゥ:「そういや、ラムシゲも飼ってたな、熱帯魚。ウチの所長の影響か?」
ラム:「そんなわけないじゃない。そのチンチクリンのバンパイアとは全く関係ないから。むしろ逆を行ってるから。」
ティン:「ケッ。にわかアクアリストがよく言うっちゃね。」
ラム:「ふん。あんたなんか、エセ○○弁とエセ××弁が入り雑じったよーな意味不明なしゃべり方のクセに!一体、どこ出身のバンパイアよ!?」
ティン:「はうっ!?それはその、造物主たる至高の御方が……。いやもちろん……、その、あの、えーと……、ごにょごにょ……ごにょ……。」
ラム:「さ、あんなヤツほっといて、こっちで話そっか♪変な口調が伝染ったら大変だもんね。うん、何でも私が教えてあげるから。うんうん、そうね、まずはモルミルスから……。あー、ごめんごめん。マニアック過ぎてわかんないよね!えー、じゃなくって、エレファントノーズを飼うのがいいわね♪ほら、知ってるでしょ?黒くて、なんかスペードみたいな形のヤツ。魚とは思えないフォルムが、こうマニア心をくすぐるっていうか。うん、これはもう愛ね!うん、そんな感じ♪」
ティン:「コラコラ。ま~た変な魚を初心者に薦めんな~」
ラム:「変じゃないって!モルミルスは全部の魚の中で最も頭が良い魚なの!魚のクセにボールで遊んだりするんだから。海外の動画とか観たことある?あれ、どう見てもイルカだから。完全に哺乳類だから。」
ティン:「じゃ、もうイルカを飼え、イルカを。」
ティンクルのツッコミが聞こえてないかの様子でラムシゲは語る。
「モルミルスはね、身体の中に発電器官を持っててね。微弱な電流で周囲に電磁場領域を形成して、まわりの物体の存在を知覚するとゆー、スゴい魚なの。この能力をマスターするために脳がすっごく発達していて……」
「あー、もういいけん、黙っといてー!モルミルスなんて知らんし。」
たまらずティンクルが、手をバタバタさせて止めに入った。
ラムシゲは、まだまだ話し足りないようにむくれている。
【登場人物】
◇『ティンクル=リロルスター』(ティンクル/チンクル/朕)
所長。吸血鬼の少女。一人称は「朕」。エセ××弁(「~ちゃけん」とか)。黒髪ロングヘアー。棒状のコンニャク菓子(=こんにゃくゼリー)が好物で、よくグニュグニュ噛んでいる。
◇『ライプニⅡ・ケイ・スー』(ライプニ/スー)
人族の少女。事務所の近所のクリル神社でネクロマンサー修行中。一人称は「スー」。前髪パッツンプリンセスでツインテール(銀色)。ムチムチ大福系。事務所の大家さんの孫娘。熱帯魚飼育歴なし。
◇『カトゥーチャ』(カトゥ)
デカい人族のおっさん(青年!?)。事務所に勤務する代書士。バツイチ独身。痛風。一人称は「俺」。ティンクルとは熱帯魚談義仲間。
◇『ラムシゲ』(ラム)
エルフの超美少女。水色の髪のポニテ。何故か事務所に勝手によく顔を出す。一人称は「私」。好きな魚種は「モルミルス」。
【その他の用語】
◇『カーミラクス=ロープ街』
「代書士ティンクル=リロルスター事務所」がある街。首都「6メガシャイン・シティ」から近い都会。隠れ家的お洒落町。坂が多い。
◇『クリムゾン=キャッスル神社』(クリル神社)
ライプニがネクロマンサー修行している神社。事務所からすぐ近く。
◇『天守球』
要するに太陽。その光は「天守光」。