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「その3 侵入者は静かに笑う」(2)

◇ティンクル・・・所長。吸血鬼の少女。

◇ライプニ・・・近所のクリル神社でネクロマンサー修行中の人族の少女。熱帯魚初心者。

◇カトゥーチャ・・・事務所勤務の代書士。人族のデカいおっさん。


「で、今日は何の相談で?」

カトゥーチャが、バカみたいに重そうな革鞄から分厚い書類を取り出しつつ、二人に尋ねる。

「そうだった、そうだった。こっちのライプニは、ここの大家のババアの孫娘なんよ。イジュカイルネ地方の有名な高等寺院で死霊・生命魔術を勉強してたんだけど、最近、こっちに戻ってきたけん。今はクリル神社でネクロマンサーの修行中だって。」

「おー、ネクロマンサーとはまた、ど偉い職種だな。」

「いえいえ、スーなんか、まだまだ全然で。お恥ずかしいっす。」

大福のような頬を赤らめながらも、嬉しそうなライプニ。


「いやいや、謙遜なさるな、お嬢ちゃん。本当に凄いぞ、誇りにするといい。俺もなれるなら、なりたいもんだ。さて、それで、今日はウチの所長に魔術かなんかの相談か?」

「いえいえ!そんな大層なことじゃないっす。ていうか、言うのも恥ずかしい……」

「いやなに、ライプニが一人暮らしの新居で熱帯魚飼いたいってゆーけんね。熱帯魚マスターの朕に相談に来たってわけよ。」

ティンクルが、相変わらず棒状のコンニャク菓子をグニャグニャ噛みながらフォローする。


ライプニはさらに頬を赤らめながら弁解する。

「いえいえ、相談なんて、そんな大袈裟なもんじゃないっすが……」

「おー!熱帯魚、良いじゃないか!大いに結構!熱帯魚はいいぞー!」

「え?カチューシャさんも……」

「カトゥーチャっちゃけん。」

「別にカチューシャでもいいぞ♪可愛いし。」

何故か本当に照れてる感じのカトゥーチャ。


ティン:「カトゥーチャ。お前、そんな柄じゃないっちゃろ。」

ライプニ:「わ~!すんません、スーったら人の名前覚えんの苦手で……。で、カトゥーチャさんも熱帯魚、飼ってるんすか?」

カトゥ:「カトゥーチャでいいぞ。」

ライプニ:「いや、でもちょっと……」

カトゥ:「いや、マジで。呼び捨てのほうが良いじゃないか、なあ!」

ティン:「お前なんぞ、呼び捨てで十分だ。」

カトゥ:「ほらな!」

ライプニ:「う~ん……。ま、じゃ、カトゥーチャ……」

カトゥ:「うむ!飼ってるぞ、熱帯魚。熱帯魚はいいぞ~!是非とも飼うがいい♪」


ノリノリのカトゥーチャに肩を竦めつつ、ティンクルが続ける。

「コイツとは熱帯魚話で盛り上がって、うちで働いてもらうことになったようなもんちゃけん。」

「ぐわはは、そーだったか?覚えとらんな~。まー、なに。熱帯魚なんざ、難しいことは何もない。容器に水溜めて魚入れときゃいいんだぜ♪簡単だろ?」

「そんなもんすか。」

「あー、そんなもんだ。でも、熱帯魚っていうんだから、ヒーターぐらいは入れないと、単なる魚飼育になっちまうか?ぐわはは!」

なんか知らんがよく笑うオッサンだな、とライプニは思う。

「まー、なんかわからんことがあったら、俺に遠慮なく聞いてくれ。わかることなら、何でも教えるぜ。」

「ちーっす。」

と頭を下げるライプニ。


「ぉぃぉぃ、師匠は朕ちゃろ。ったく……。グニュグニュ……。さ、講義を続けるぞー。」

ティンクルは未だに水色のコンニャク菓子をくにゃくにゃと噛んでいる。


ライプニ:「しかし、よく噛んでるっすねー。」

ティン:「あー、これか?たまらんちゃけん、これ。」

カトゥ:「ティンクルの犬歯はコンニャクを噛み切れないのだ。」


カトゥーチャの解説に被せてティンクルが続ける。


ティン:「朕の凶悪な牙は何でも切り裂くっちゃけど、このコンニャクっちゅうのはダメっちゃね。」

ライプニ:「なんか、斬鉄剣みたいっすね……」

カトゥ:「お、それ知ってるぞ!そのとーりだな!」

ティン:「なんちゅーか、朕はその噛み切れない感が堪らんちゃね、新鮮な感覚で。」

ライプニ:「そんなもんすか……?」

ティン:「そんなもんちゃろ。」



やっと菓子を飲み込んで、ティンクルが話を続ける。

「まー、そんなんで、熱帯魚飼育なんざ、取り敢えずそこいらの飼育本とかネットとかグー○ル先生に聞いときゃいいんだけど……、ただね。けっこう『それ、そうっちゃろか?』ってツッコミたくなるよーなんも、けっこうあるんよ。」

「そうか?大体どれもおんなじようなこと書いてあるし、どれでもいいから、なんかテキトーに読んどきゃいいだろうぜ?」

とカトゥーチャ。

「ふむ。まー、飼育法に絶対はないけん、いいんだけど、なんかピンと来ない感じのも少なくないんよ。」

「ほほう。さすが所長!こだわりの女だな!うん、うん。」

「茶化すな~」

ティンクルは、既にデスクに戻って、次に喰らうべきコンニャク菓子の選択に注力しつつ、半ば上の空で喋っている。


そんなティンクルを見て、まだ食べるのかこの人は?とか思いつつ、ライプニが話を進める。

「世間の熱帯魚飼育法って、そんなに間違いだらけなんすか?」

「いんや、全然間違ってないんちゃけど、なんかズレてるとゆーか。内容自体はいいんちゃけど、印象に違和感があるちゅーか……。わからんかな、こう……。表現すんのはムズいっちゃね。」

「はぁ……。」

「所長は難しい話が得意だな!俺には全然わからんぞ~。水槽、ヒーター、濾過器、水温計。これだけあれば良い。あとは水に魚に餌にハイポ。ア~ンド水換えグッズの灯油ポンプとバケツだけだ。簡単、簡単♪」

カトゥーチャは常に話がはやい。

ティンクルは、確かにと頷きながらも続ける。

「そーなんよ。ほんと、それだけの話なんよ。それなんに、なんか変な思想が混じっとうときがあるっちゅーか……。」

そんな話をしながらも、ティンクルは、何だか入り口の外のほうへ意識が向いてるようだ。

「まぁいいけん、そんなんやったら、この朕がティンクル=リロルスター流飼育術、じっくり語ってやるんが早いっちゃろ♪」

「あーざーっす、師匠!」




――――― あらあら、誰に許可を得て熱帯魚を語っているのかしら?



そこには、いつの間にか、それはそれは美しいエルフの少女が立っていた。


「だーけん、勝手に入ってくるなっちゅーとるやん!もう!」

「いいじゃない、減るもんじゃないし。」

「減るわ!酸素とスペースと朕の幸せが減るわ!」

ティンクルはそっぽを向いたまま、そのエルフの少女に"アッチいけ"のジェスチャーをした。


「おー、今日もご機嫌だな、ラムシゲ!」

「ハイ♪ カトゥーチャさん。」



【登場人物】


◇『ティンクル=リロルスター』(ティンクル/チンクル/朕)

所長。吸血鬼の少女。一人称は「朕」。エセ××弁(「~ちゃけん」とか)。黒髪ロングヘアー。棒状のコンニャク菓子(=こんにゃくゼリー)が好物で、よくグニュグニュ噛んでいる。


◇『ライプニⅡ・ケイ・スー』(ライプニ/スー)

人族の少女。事務所の近所のクリル神社でネクロマンサー修行中。一人称は「スー」。前髪パッツンプリンセスでツインテール(銀色)。ムチムチ大福系。事務所の大家さんの孫娘。熱帯魚飼育歴なし。


◇『カトゥーチャ』(カトゥ)

デカい人族のおっさん(青年!?)。事務所に勤務する代書士。バツイチ独身。痛風。一人称は「俺」。ティンクルとは熱帯魚談義仲間。


◇『ラムシゲ』

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【その他の用語】


◇『カーミラクス=ロープ街』

「代書士ティンクル=リロルスター事務所」がある街。首都「6メガシャイン・シティ」から近い都会。隠れ家的お洒落町。坂が多い。


◇『クリムゾン=キャッスル神社』(クリル神社)

ライプニがネクロマンサー修行している神社。事務所からすぐ近く。


◇『天守球』

要するに太陽。その光は「天守光」。


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