「その13 改心の位置」(2)
森岡師匠はルンルン気分のようだ。
理由は分からない。
だが、「水合わせ~♪水合わせ~♪」とハスキーボイスで口ずさんでいる。
相変わらず両足をぷらぷらさせて。
ライプニが問う。
「その『水合わせ』ってなんすか?」
「買って来た魚を新しい水槽に導入するときに、水温とか水質とかの急激な変化により生体にダメージを与えないよう、徐々に新しい水質に慣らさせていく退屈な作業っちゃね。」
「水質の変化?なんすか、それ?」
引き続き、不思議顔のライプニ。
「あー、朕もよー知らんけん。なんだ、あの、pH(=ペーハー)とか硬度とか、何とかいろいろあるみたいやん? ほれ、ミネラルウオーターとか買ってくると、なんや硬水とか軟水とか書いてあるヤツとか、なんかそんな感じのヤツよ。水温だって、寒い冬にいきなり熱い風呂に入ると心臓やられる~!みたいなヤツ? そのほか水質にもいろいろあるらしーんけど、朕は知らん。興味がないけん。グニュグニュグニュ……。」
めんどくせーと言わんばかりに、再び毒々しい色のコンニャク菓子を食べ始めるティンクル。
「あら、あんた、そーゆーのには興味ないのね?水合わせはとっても重要なんだよ?私は、シリコンチューブの点滴で、少しず~つ、少しず~つ、半日はかけるわね。水合わせをきっちりやったかどーかで、その後の生存率が全然違うんだから!」
「えー!?点滴で1滴ずつ水を入れ替えていくんすか?」
「入れ替えるってゆーか、新しい水槽の水を、買って来た魚の袋の中に少しずつ入れていくわけ。もちろん、袋を新しい水槽の中に浮かべておいて、水温も合わせた状態でよ♪」
ライプニの質問に得意げに答えるラムシゲ。
ライプニも、ラムシゲを喜ばせられたようなので、なんか嬉しそう。
「まー、朕も全くやらんとゆーわけじゃないが……。正直、長々とした水合わせが必要などとゆーヤワな魚なんぞに興味はないし、そもそも、アレってほんとに効果あるん? グニュグニュ……。ウマい。これ何味? ……。あー、アレね。で、なんだっけ?あれか。あー、なんか、みんな、生存率が違うとかグチグチ言っとーよーっちゃけど、実のところ、朕は半信半疑っちゃけんね。自然の中でだって、川が合流して水温やら水質やらが変化するとことか、雨が大量に降って水質が一気に変わったりとか、いろいろあるっちゃろ? 朕も、海とか泳いでると突然水温がぐっと変わったりとかしょっちゅうっちゃけん。魚って、ほんとにそんなに水温とか水質とかの変化に順応できんちゃろか?って思うよ。まぁ、超軟水から超硬水とか、極端な場合はさておいてもさー。」
「あんた、ほんとに分かってないわね。私の実際の経験で生存率の差を実感してるんだから。ほんとに全然違うのよ?見せてやりたいよ。」
ラムシゲは、引き続き自信満々の得意顔。
「おー、見せてくれ、見せてくれ。実際、どっかの科学者でもリアルに研究やら実験やらやってほしーもんちゃね。どこまでの水合わせが必要で、どんな方法がいーのかとか。だいたい、いつまでもバケツやら袋やらに入れっぱなしのほうがストレスかかったりすることもあるんちゃうん?導入初期の死亡を何でも水合わせの失敗なんてもののせいにする輩が多いが、実際んとこ、ほんとに『水合わせ』そのもののせーなんか、朕は大いに疑問ちゃね。」
「随分とムキになるのね?」
「朕は、めんどっちー作業が大嫌いっちゃけん♪」
「……。あんたって、ほんとに熱帯魚に冷たいよね……。」
ほんとに呆れた様子のラムシゲに、ティンクルはてへぺろ~♪
「まー、話は逸れたが、よーするに、大型魚の全部が『引き取ってもらいにくい』とゆーわけではないけん。かえって、大型のほうが高く売れることも多いくらいっちゃね。たとえば、シクリッドで言えばギベローサとか、1年かけても数cmしか成長しないことも少なくないけん。大型個体は価値があるっちゃね。ラムシゲが激押ししてたモルミルスも、ムチャクチャ成長遅いけん、大型個体になれば値段が数十倍になることもあるんよ。」
「エヘン♪」
何故か得意気なラムシゲにティンクルが舌打ち。
「お前がスゴイわけじゃないけん。」
「とはいえ。まずは①成長が速い大型魚。これは、立派な個体に仕上げるまで時間が必要ないので、そんなに費用がかからんのよね。しかも、大型個体が市場に沢山出回るわけだから、必然的に価値も下がるし、在庫もダブつく。そーなっちゃうと、大型個体のストックのコスト……。大きな水槽とかスペースとかっちゃね。そーいったコストを抱えてまで買い取ったり、引き取ったりしてくれないショップも出て来るってわけよ。」
ライプニもラムシゲも、「フムフム」と頷く。
「それから②値段が安い大型魚。これも、大型個体にかかるストックのためのコストを回収できないような状況だと、ショップのほうだって、無料でも引き取らんわな。最後に③獰猛or特殊攻撃系で混泳が難しい大型魚。単に気が荒くて喧嘩っ早いくらいなら、ラムシゲが言ってたよーに、攻撃対象となる標的を絞れないくらいに多数ストックにしちゃうとかの対応策があるんちゃけど、大型フグとか肺魚とかジムナーカスとか。歯が強烈とか、顎の力がヤバイとか、普通の魚と違っていつまでもしつこく攻撃してくるとか……。場合によっては混泳できることもあるかもしれんけど、お客さんに売ることを前提に沢山の魚をストックしてるショップとしては、他の売り物を傷物にしちゃうよーな魚を混泳させたくないのは当然っちゃけんね。無限に大型水槽があるわけでもないけん、単独飼育できる水槽が空いてない限り、引取りさえも断られる可能性が出てくるわけよ。」
「俺の愛する肺魚をお荷物扱いするなよ~。」
と横槍を入れるカトゥーチャ。
ティンクルはへへへと苦笑い。
あら可愛い。




