「その13 改心の位置」(1)
スーは、何だか眠くなってきたっす。
それは何故かと問いますかい?
そうっす。
何だか話が全然、熱帯魚飼育法講座からかけ離れて、「熱帯魚売り捌き談義」になってるからっす。
よし、もー!
チンクルさんに聞いててもラチあかないっすし。
ラムシゲ様に個人レッスンしてもらうってこともあり得るし♪
さっさと話を終わらせてもらうっすか。
「はい!はい!チンクル先生!質問っす~!」
「はい、どうぞ。そこのネクロマンサー♪」
「そーなるとぉ、結局ぅ、熱帯魚飼い始めるときはどーすればいいんすかぁ?」
ライプニは、ただでさえプニってる両頬を持ち上げて元気に質問する。
「そかそか。そーっちゃね、これから飼い始めるヤツに対する注意点っちゃもんね。オケオケ。わりわり。」
「そーねー。結局、引き取ってくれたり、買い取ってくれたりするショップを確認しておきなさい♪ってことなのかな?」
ラムシゲは、ライプニの意図も分からずに、ライプニとティンクルを交互に見ながら、真面目に答える。
そこがカワイイ。
「ぃゃぃゃ、そりゃまー、そーなんちゃけど、結局、その気になって探せば、手放したくなった後からでも、買取先までいかんくても引取先は見つかるもんっちゃけん。飼い初めのときに注意すべきポイントは、もう少し準備的なもんでええよ。」
ティンクルも普通に答える。
生意気なティンクルでも、そこは可愛いかも。
「じゃー、飼い初めには何を注意すればいいんだろ?」
ラムシゲが、お決まりの芝居のような“思考中”ポーズを見せる。
スーは、分かってても、その姿に釘付けさ♪
「高度に言えば、最初から『買う目的』を明確にしとくこと。ロットで購入して、その中から良い個体だけを選別して残りを手放す予定なのか?一生飼い続けて、自分の子供にも引き継いでもらうんだ~!なんて感じか?それとも、転勤するまで単身赴任が寂しいから、いつまた引っ越しが来るかわからんけど、とりあえず飼っちゃうのか?とかね。」
「まー、でも、普通は『この魚を最後までずっと元気に長生きさせて飼い続けるぞ!』って感じじゃないの?」
「まー、そーっちゃろね。だけん、もーちっと簡略化すると、結局、『この魚をずっと飼い続けるぞ~!』なんて気持ちが、あるいは、それができる環境が、いつまで続くか分からん以上、『最悪の場合、途中で手放すことになる可能性があり得る』ってことを前提として、飼い始めること!ってゆーんがポイントになるんよ。」
ティンクルの説明にラムシゲも納得のようで、コックリ頷いている。
ライプニも、一応は熱帯魚を飼い始めようと思ってる身。
ちょっと質問してみる。
「そーすると、結局、どーすればいーんすか?」
「うむ、結局のとこっちゃね。うむ。よーするに、引取りとか買取りをしてくれるだろーショップのアテをつけておく……。ぃゃ、もちろん友人に引き取ってもらうってゆーんでもいーんよ?まー、いずれにしても、そーいったアテをつけとくんも重要なんかもしれんけど、重要なんは『引き取ってもらいにくい魚種は買わない』ってことっちゃけん。」
「ほほぅ」と言いつつ、嬉しそうに森岡師匠が補足する。
「喰っても美味しくない魚とか、喰う部分が少ない魚とかは買わないってのも重要だっぺ。」
ライプニは、森岡師匠の当該補足を受け流して続ける。
「どーゆー魚が引き取ってもらいにくいとかってあるんすか?」
「ふむふむ。そこ重要っちゃね。『引き取ってもらいにくい魚』三大ポイントを伝授しちゃるけん、よー聞くんよ♪
①成長が速い大型魚。
②値段が安い大型魚。
③獰猛or特殊攻撃系で混泳が難しい大型魚。
これっちゃけん、コレ。」
ティンクルが出席簿を片手に黒縁眼鏡で解説する(嘘)。
「うわっ。なんか分かる気がする~……。」
自分の両腕を抱えてすりすりしながら、ラムシゲが言う。
「なんか、俺が飼ってる魚のことばっか言われてる気がするんだが。」
右手の人差し指でこめかみあたりをポリポリしながら、カトゥーチャが言う。
「ってことは、大型魚って鬼門っすね?」
カトゥーチャに向かって南無南無と合掌した後、ライプニが言う。
「ぃゃぃゃ、基本的に熱帯魚ってゆーんは、大きくなるほど値段が上がるもんなんよ。何でかってゆーと、小さい稚魚なら大量に飼育できるけど、大きな魚になればなるほど、大量に育てるには巨大なスペースと長い時間が必要になるけん、そーゆー投下資本を高い値段で回収せんといかんのよ。」
「えー、でもー、犬とか猫って、大きくなっちゃうと売れなくなるじゃないっすか?」
ライプニが質問する。
「良いところに気が付いたね、大福娘。何故だと思う?」
ティンクルが満足気に質問する。
「う~ん……、なんでっすかね?」
「あれじゃない?犬とか猫って知能が高いから、早いうちから一緒に暮らしたいってゆーか?それに、仔犬とか仔猫のときが一番可愛いし♪」
ライプニの疑問にラムシゲが回答してみる。
「まー、仔犬や仔猫が人間の購買意欲をそそるってゆーんは間違いないっちゃろね。加えて、もーちっとゆーたら、『環境やら飼主やらに対する依存の度合い』とか『環境や飼主の変化・交替に対する順応可能性の度合い』なんよ。逆にゆーと、仮に、熱帯魚が『ある程度の期間、過ごしてしまった水槽の水質やら環境やらから、別の水槽の水質・環境に移動すると、強いストレスを受けたり、健康を害したりする』とゆー傾向が強かったとしたら、ある程度育っちゃった魚なんて買いたくないわな。そーなると売れにくくなるけん、大きくなった魚は値段が下がる。需要と供給っちゃね。」
ティンクル先生、熱弁中。
「熱帯魚は、一般に、犬や猫に比べて、誰に飼われるかとか重要じゃないし、水槽の移動とかにも耐えられる。つまり、変化に対する順応力が高いって言えるっちゃね。逆にゆーと、飼主個人に特別な依存を示すわけでもないし、飼われてる環境……。水槽の置いてある部屋とかね?そーいったもんに依存が少ないっちゅーことやね。だって、多少の時間の『水合わせ』でもしとけば順応してくれるんが普通っちゃけん。」
代書士ティンクル=リロルスター事務所の遙か頭上を、またひとつ、巨岩が静かに飛び去って行った。




