「その10 今夜あなたに里帰り」
ライプニもラムシゲも何とか説得できたと感じたティンクルは、機嫌が超良さそうだ。
特に理由もなく、首だけでカトゥーチャのほうを向くと、スイカのお化けのようにニヤリと笑っている。
鋭い犬歯が見えただけでなく、その瞬間、たまたま光の角度がそうさせたのか。
ゼリービーンズだかバナナだかのような、いわゆる“エロ目”形状の目が、赤目補正前の写真の如く真紅の光を反射した。
カトゥーチャは、ティンクルがこちらを向いている意味がよく分からんかったが……、てゆっか、意味がないことが分かっていたが、いずれにせよ、「所長、マジこえ~からあっち向いてくれ」と心の中で願っていた。
「そかそか。よしよし。朕の可愛い子供たち。それじゃー、困ったときに熱帯魚を手放す方法のポイントはなんだと思う?」
ティンクルが同席者全員に偉そうに問う。
ラムシゲがスラリと伸びた右手の人差し指をピンッと立てて、答える。
「やっぱり、引き取ってくれるショップを見つけることじゃない?」
「そうだろな。俺らみたいに、周囲に熱帯魚仲間が多少なりともいればいいが、普通はいないだろーから。」
カトゥーチャもラムシゲに同調する。
「そーっちゃね。熱帯魚飼育はそこまでメジャーな趣味じゃないけん、周囲に魚を引き取ってくれる熱帯魚仲間がいるほうがレア・ケースっちゃね。それに、田舎のほうなら部屋にもスペースがあって、友達が引き取ってくれるケースも少なくないっちゃろけど、都会となるとスペース的な問題でなかなか引き取ってもらえんけん。」
ティンクルが、コンニャク菓子を再び噛み噛みしながら気怠く駄弁る。
「そーなると、グニュグニュ……、やっぱりショップに頼るほかない。最近じゃ、ネットで『熱帯魚 買取り』とか『熱帯魚 引取り』とかでチョチョイと検索すれば、かなり大量のショップを見つけることができるけんね。」
「でも、逆に、田舎のほうだとそーゆーショップも見つかり難いんじゃないの?」
ラムシゲの質問にティンクルが答える。
「その傾向は否定できんちゃね。ただ、ネットとかで明確に『不要魚、引き取ります』とかうたってなくても、『引取り』お願いします~とかお願いすれば、引き取ってくれるショップは少なくないけん。ただ、あれよ、『買取り』は難しいんよ。『買い取ります』とか明確に表示してるショップじゃないと、まず受け付けてくれんけん。」
「えっと、『買取り』と『引取り』って違うんすか?」
ライプニが、前髪パッツンのオデコに右手の人差し指を突き立てながら、ティンクルに問う。
「うん。この業界じゃ、現金やらショップ限定で使える金券やらと交換してくれることを『買取り』。完全に無料で引き取ってもらうか、場合によっては料金を支払って引き取ってもらうことを『引取り』。それから、グニュグニュ……、他の熱帯魚とかと交換してもらうことを『交換』とかって呼ぶことが多いけん。」
「なるほどっす。」
「同じ『買取り』やら『引取り』でも、わざわざ自宅まで自動牛車で来てくれて、部屋の中で魚のパッキングまでやってくれる業者もいるんよ。熱帯魚と併せて、飼育器具とかも不要な場合は、こちらで掃除したり洗ったりしなくても、全部そのままの状態で持って行ってくれるけん。プロの仕事は早いっちゃよ~。1回、実際に見てみるといいかも。どっか、見学させてくれる業者とかないっちゃろか?」
ティンクルは、白目をむく一歩手前まで瞳を上に持って行きながら、考えてるよーな仕草をして後、説明を続ける。
「ただ、出張買取り・出張引取りの場合、ショップからの距離制限があったり、出張料金がかかる場合が多いから、しっかり確認しとくといいっちゃね。イメージ的には数千~五千ゼニー程度っちゃろか?」
「あ、チンクル先生!いいっすか?」
触り心地が特上そうな二の腕を惜し気もなく見せながら、ライプニが右手を真っ直ぐに上げる。
「あの、パッキングってなんすか?」
オデコに人差し指を立てて考えるとか、手を上げて質問するとか。
この子、天然なのかわざとなのか分からないけど、ちょっとカワイイとか思わされちゃうのよね。
などとラムシゲは考える。
やっぱり我が儘ボディが原因?
それとも、銀色の髪が原因?
銀色の睫毛?
いやいや、違うよ、ラムシゲ姉さん。
大福っぽいぷにぷにだからだよ。
そんなことはさておき、ティンクルがパッキングについて説明する。
「生きてる熱帯魚を袋詰めすることっちゃね。丈夫なビニール袋に3分の1位の水を入れて、残りを空気で満たして、水風船状態でキッチリ封する。輪ゴムでキツ~く縛る場合が多いかな。熱帯魚を運搬するときの定石っちゃね。ショップで熱帯魚を買ったら、必ずやってくれるっちゃろ?」
「あれって、自分でやろーとすると意外と難しいよね?ちょうど良い感じのビニール袋がなかったり、空気が上手に入れられなかったり……。」
ラムシゲの感想に、ティンクルがコメントする。
「そーっちゃね。まー、自分でパッキングしてショップに持ち込んだり、引っ越しのときに運搬したりする場合には、自動牛車で運ぶことが多いだろし、まぁ、パッキングもテキトーでいいけん。グニュグニュ……、バケツに3分の1くらい水入れて、サランラップでフタして、大きい輪ゴムかなんかでパチッと周囲をとめとく程度でもそんなに水漏れとかせんけんね。あれよ、あれ。出前のラーメンみたいな感じ? ただ、寒い時季にエアコンなしで長距離運んだり、宅配便とかで郵送する場合は、断熱材の意味で、新聞紙で分厚く包んだり、発泡スチロールの箱に入れたり、使い捨てカイロを貼りつけたり、なんて高度な技術もあるけん。このあたりは、多少の経験と慣れも必要っちゃね。 あー、暑い時季は厳しいんよ。高温にならんよー、ちょー気をつかわんといかんけん。」
ライプニは、ティンクルが主婦の知恵を語ってるみたいな感じで、なんか少しババくさいなと思った。




