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「その9 深淵に触れたいとか言われてもね」(2)

ジンジンしている頭頂部を押さえて激痛に耐えながらも、何とかティンクルが話を再開する。

「いぢぢぢ……。あ~……、ラムシゲ君も一応は折れてくれたみたいっちゃけん、ライプニのためにも話を先に進めよか。」

「え?あ、はい。スーのためにどもっす。」


「うむ。さて、これまでの議論を踏まえた上で、それでは、『一度飼い始めたら、最後まで飼い続けるべき』ってのはどうかね?」

やっと痛みが少しだけ落ち着いてきたティンクルは、別に冷たくもないコンニャク菓子でぶつけた頭を冷やそうとしつつ、ライプニに質問する。


なお、森岡師匠が猛獣の瞳をパチクリさせつつ、可愛いハスキーボイスで「それ冷たくないっぺ。」と複数回に渡って連呼しているが、誰も聞く耳を持たない。

もちろん、森岡師匠もそれを気にしない。


「う~ん……。結局、飼われてる魚側からの意見とかは分かんないからってことで、飼う側にとって楽しめるかって考えると……。『一度飼い始めたら、最後まで飼い続けるべき』ってのは、何だか意味が分かんない格言だと思うっす。だって、飼い続けるのが難しくなっちゃったり、つまんなくなっちゃったりしたら、手放しちゃったほうが楽しめるっすから。」

ライプニの意見に、ティンクルはうんうんと頷いて続ける。

「ライプニ。お前、ほんとに頭いいっちゃね!そんとーりよ。熱帯魚のほうからしてみれば、本当に最後までその飼育者に飼ってもらいたいのかどうかなんて、誰にも分からんし、一方で、飼育者のほうも状況的に無理だったり、楽しくなかったり、なんてことになるんやったら、趣味としてわざわざ飼ってる意味がない。本末転倒だけん。それに、そんな嫌々で飼育されてたら、飼われてる熱帯魚のほうも不幸ってもんちゃけん。……あ。魚の気持ちは考えないんだった。」

「なるほどねー。」

とラムシゲ。



「熱帯魚の気持ちは別としても、飼育者が嫌々で飼育してたら、段々、手抜きが進行して、最後は長期間放置された挙句、悲惨な汚水槽になる可能性もある。いずれにせよ、そー考えると、『一度飼い始めたら、最後まで飼い続けるべき』なんて命題は、実に意味が分からんちゃろ?」

「確かに、そうっすね。」

とライプニ。



「朕から言わせてもらえば、魚を手放す方法を学ばずにアクアリウムを始めるってのは、転び方を学ばずにスキーするよーなもんっちゃろ。安全に転ぶ方法を覚えておかんと、いざ転んだときに、骨折とか大惨事になるけんね。非常に危険ちゃろ?考えただけでも。」

「スキーという例えが、年代を感じさせるっぺ。」

と森岡師匠。



「スキーだって、一度も転ばないで滑り続けるなんて不可能だ。それは熱帯魚飼育も同じ。どんなに頑張ったって転ぶことはあるさ。初心者だからこそ、最初に転び方を身に付けておくべきっちゃろ?さて、そんなわけで、転び方のコツ。つまり、飼ってる熱帯魚が飼えなくなったり、飼っててもつまんなくなったりした場合に手放す方法について、教えておくけん。」



ティンクルの議論には、なかなか説得力があった。

確かに大したことを言ってるわけではない。

ある意味、当たり前の議論だとも言い得る。

でも、それが故に説得力があるのだ。



実際、ラムシゲの今の状況は……?


(1)買って来たブルーダイヤモンド・ラミレジィが、その水槽にもともと入ってた他の熱帯魚(←ピグミーグラミーとか)を追い回してしまい、見ていて辛い気持ちになるのに、そのラミレジィを隔離する新たな水槽を設置すべきスペースがない。


(2)ディスカスを買ってみたものの餌を全く食べない状況が続いている。多頭飼育にすると餌を食べる可能性があるが、多頭飼育にした場合、イジメ(突つき合い)が発生したり、拒食の個体をもっと沢山抱え込む可能性があったりするし、そもそも、それだけの多頭飼育ができるほどの水槽施設ではない(広さ・水量が足らない、濾過設備が弱い、等)。


こんな状況って、まさに、スキーで言うところの“転倒”の、アクアリウム版に他ならないんじゃないだろか?



ラムシゲは、今、まさに転びかけてる状況だ。

だけど、上手な転び方を知らない。

もちろん、最初から転ばないことが一番良いのは当たり前だ。

だけど、人間(エルフ?)だもの。

どうしても転んじゃうこともあるじゃん?

だから、そんなときでも大丈夫なように、ケガの少ない転び方を覚えておこう、というのだ。



「なんか良く分かったっす。どもっす。」

ライプニがぺこりとお辞儀すると、シルバーの前髪ぱっつんが軽く揺れる。



「う~ん……、私も……。自分が今、そーゆー状況にいるからかな。悔しいけど、分かるよーな気がするよ。」


「障子」の開かれた窓際に立っていたラムシゲが、考え事をするよーな表情でゆっくり歩いて、それから、ライプニの座ってる中央のテーブルの隅っこに、ちょこんと腰を下ろした。

その横顔は、鼻から口にかけて、雲形定規のような美しい曲線を描きながら、前に張り出している。

このまま影絵にでもしてみようか?

そんな気にさせられちゃう。



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