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「その7 真実とは向き合わないのが信条です」(3)

【登場人物のおさらい】

◇ティンクル・・・所長。吸血鬼の少女。

◇ライプニ・・・ネクロマンサー修行中の人族の少女。熱帯魚初心者。

◇カトゥーチャ・・・事務所勤務の代書士。人族のデカいおっさん。

◇ラムシゲ・・・よく勝手に入って来るエルフの美少女。

◇森岡師匠・・・超ちっさい猫系獣人。


ラムシゲがそんなトラウマを思い出していることには全く気付いてないティンクルは、優しい微笑をたたえながら続ける。

「知ってのとーり、朕はかなりのシクリッド好きっちゃけん。場合によっては、ラムシゲのラミレジィやらディスカスやらを里子として引き取ることもできるやもしれんね。どうっちゃろ?」


思わぬ提案にトラウマのことは忘れて、ラムシゲが答える。

「そっか。あんたシクリッド大好きだもんね。でも、ほんと大丈夫?それだったら、後で届けるから、引き受けてもらっていい? 大丈夫そう?」

ラムシゲは、幾分ほっとしたような顔だ。


そんなラムシゲを他所に、チラリとライプニのほうを見た後、ティンクルがサラリと言い放った。

「ぃぃゃ、嘘だ。朕のとこも水槽の本数が限界に近いけん、ケンカ要素の高いシクリッドをこれ以上、受け容れられる余裕はないっちゃねー。」

「ちょっと、何それ~! 私、ほんとにその気になっちゃったじゃん~!」

ラムシゲの顔のほうはそれほどでもないけど、目のほうは結構真剣じゃん。


ティンクルは、わざとらしく毅然とした表情で言う。

「スマン、ラムシゲよ。だが、愚かなお前たちの教育のために少しでも役に立てばと思い、心を鬼にして嘘ついたけん。」

そんな押しつけがましいセリフに、ラムシゲが返す。

「ちょっと、もう、どゆこと?何でそーなるわけ?」

「お前の本当の気持ちを分かりやすく掘り起こすためっちゃけん。」


ラムシゲは、何か感じたのだろう。素直に言う。

「う~ん……。結局、私の本当の気持ちは、ブルーダイヤモンド・ラミレジィやディスカスを手放したいんだってこと?」

ティンクルは満足気に1回、大きく頷く。

「ただ、とにかく手放したいってわけじゃないけん。ラミレジィやらディスカスやらを十分に誠実に世話してくれるところに引き取って欲しい、ってことっちゃね。そうっちゃろ?」


ラムシゲは、明確な肯定をしないが、否定もしようとしない。

視点の定まらない美しい瞳は、それを認めていいものか迷っている。


「確かに、なんかよく分かるな。」

そんなラムシゲの表情はお構い無しに、カトゥーチャはウンウンと頷いている。


「認めたくないものだっぺー。自分自身の若さ故の過ちというものを。」

猛獣の瞳をパチクリさせながら、森岡師匠は嬉々として嘯いた。

よっぽどこのセリフを言いたかったのだろう。

森岡師匠は、三毛色の猫耳をピクピク動かしつつ、短い両足をバタバタさせながら、2度も3度も同じセリフを繰り返している。



「そーなんよ、そーなんよ、森岡師匠。いいか?ラムシゲにライプニよ。ラムシゲの本当の気持ちの中身それ自体が良いか悪いかってことは、ここでは重要じゃないけん。ポイントは、何故、ラムシゲがその気持ちを言葉に出来なかったのかだ。ラムシゲは、そんな自分の気持ちを認めたくなかったけん、嘘をついたっちゃろか?」

「なになに?私が嘘つきってことー!?」

ラムシゲが突っかかる。

「いや、カトゥーチャさ……じゃなくて、カトゥーチャも言ってたとおり、スーだって、ラムシゲさんがわざと嘘ついてたとは思えないっす。」

ライプニは、ラムシゲの機嫌をとることも考慮して、ちょっと大きめの声で言う。

「そーよ!もっと言ってやって。私は嘘をつくようなエルフじゃないって。」


「あははは。まだ分からんか?わざと嘘をついていたってほーが、まだマシだってことを。実際、朕だって、ラムシゲがわざと嘘をついてたなんて思っとらんし。」

「んん?要するにどーゆーこと?」

素直に不思議顔のラムシゲ。

「わざと嘘をついてたんじゃないんなら、ラムシゲ。お前は、自分自身が本当は何を感じ、何を思っているのかさえ、理解できてなかったっちゅーことになるけん。」

「……私が、私の気持ちを理解できてない?」

「そのとーり。他人の気持ちが分からんとか、自分の肉体的な健康状態が分からんとか、そんなんとちゃうんよ。自分自身の思ってることが分からんゆーっちゃけん、こりゃ、重症よ。」

「……マジ?私、ヤバイ?」

ラムシゲが何気にショボくれる。


「なーんて、嘘よ、嘘。さっきも言ったっちゃろ。人間っちゅーんは、自分の本当の気持ちを思った以上に理解できないもんっちゃけん。かっこ、エルフも同じぃ~、かっこ閉じ。」

ティンクルは、悪戯好きな黒い瞳の中にちょっとだけ優しさを浮かべて、ラムシゲに微笑んだ。

「よーするに、お前だけじゃないけん。むしろ、自分の本当に思っていること、感じていることを理解できないヤツのほうが圧倒的に多数派だ。朕だって例外じゃない。だけん、朕は、日頃から、何か困ったことや悩ましいことに出くわした際には、他人のことやら難しいことやらを考え込む前に、まずは自分の本当の気持ちを分析してみるよーにしとーけん。それで何でも解決するぜよーなんてことは全然ないっちゃけど、自分自身は本当はどうなん?みたいなとこがハッキリするけん。意外と物事が見えるようになることもあるっちゃよ♪」


「俺は何かに悩んだりすることすらないぞ!ぐわははは!」

満足気に笑い立てるカトゥーチャに、ティンクルは肩を竦める。

「朕もお前のように能天気なヤツに生まれたかったっちゃねー。」



「で、で……、私が本当は『ラミレジィやディスカスをちゃんと世話してくれるところに引き取って欲しい』って思ってるってことと、熱帯魚飼育法と、どう関係するの?」

ラムシゲが素直に質問する。

「うむうむ。重要なのは、お前が本当はそー思ってるのに、何故、自分の気持ちが分からなくなってしまっていたのか?とゆーことっちゃけん。分かるか?」

ティンクルが再び質問で返す。


「う~ん……、何でだろ?やっぱり、そーゆーのって、あまり他の人には言い難いことだったからじゃない?」

ラムシゲは、もはや他人事のように回答する。

「ほうほう。で、ライプニは、どー思う?」

「えっと……、言い難いからって理由なら、わざと嘘をついたってことになりそーっす。そうじゃなくって、わざと嘘をついたわけじゃないんなら、なんていうか、こう、もっと深い理由な気がするっす。」


「ライプニ。お前、なかなか賢いっちゃね。」

ティンクルは嬉しそうに言うと、ピンク色の棒状のコンニャク菓子をライプニに向かって投げ与えた。

ライプニは、それをキャッチし損ねて、床の上に落としてしまったが。


「そーなんよ、ここがポイントなんよ。つまりだ。ラムシゲは、『生き物を飼ったら、責任を持って最後まで飼わなくちゃならん』とかゆー倫理観に、自分では意識できないレベルで影響されてるってことっちゃけん。その倫理観が良いか悪いかは別としても、自分の本当の気持ちさえ分からなくなるほどに、頭ごなしに押さえつけられているという事実は、無視できるもんじゃないけん。どーゆーことかわかるか?」

「どーゆーことっすか?」

ライプニは「なんのこっちゃ?」とゆー顔だ。


「ふむ。仮にラムシゲがその倫理観にきっちりと身も心も染め上げられているなら、ラムシゲの本当の気持ちも熱帯魚を手放す方向には傾かんはずっちゃろ? よーするに、この倫理観が、ラムシゲを苦しめてると思わんちゃろか?本人さえ気付いてないレベルで。」

「確かに、そーっすね。」

「ちゃろ?これは結構怖いことなんよ。なんせ本人が気付いてないっちゃけん。」


ティンクルの言うことは、ラムシゲにとって肩の荷を下ろしてくれるような言葉に聞こえた。

大したことのない話。

それは確かにそーだったが、周囲に愛されてすくすくと育ってきた心優しいこのエルフにとっては、不思議な力を持った救いの言葉のように感じられた。



「これで少しは分かってきたっちゃろ? 朕のティンクル=リロルスター流飼育術が。飼育の極意其の一。『熱帯魚飼育は、まず、魚を手放す方法から学べ!』だ!」



「よくぞ、その境地に達したっぺ!師は嬉しいっぺよー……。」

森岡師匠は、誰も聞いてないのに誇らしげに言った。



一方、ライプニは、「障子」が開いたスペースから、また1つ巨岩が飛んで行った美しい空を眺めて思う。

あー、やっと本題に入って来たんだな、と。



天守球は、まだまだ青空の真中あたりに浮かんでいた。



【登場人物】


◇『ティンクル=リロルスター』(ティンクル/チンクル/朕)

所長。吸血鬼の少女。一人称は「朕」。エセ××弁(「~ちゃけん」とか)。黒髪ロングヘアー。棒状のコンニャク菓子(=こんにゃくゼリー)が好物で、よくグニュグニュ噛んでいる。


◇『ライプニⅡ・ケイ・スー』(ライプニ/スー)

人族の少女。事務所の近所のクリル神社でネクロマンサー修行中。一人称は「スー」。前髪パッツンプリンセスでツインテール(銀色)。ムチムチ大福系。事務所の大家さんの孫娘。熱帯魚飼育歴なし。


◇『カトゥーチャ』(カトゥ)

デカい人族のおっさん(青年!?)。事務所に勤務する代書士。バツイチ独身。痛風。一人称は「俺」。ティンクルとは熱帯魚談義仲間。


◇『ラムシゲ』(ラム)

エルフの超美少女。水色の髪のポニテ。何故か事務所に勝手によく顔を出す。一人称は「私」。好きな魚種は「モルミルス」。


◇『森岡師匠』(森岡)

ネコ科の獣人のちっさい少女。ブラウンのショートヘアーに三毛色の猫耳。猛獣だか爬虫類だかのような瞳孔。ティンクルの熱帯魚仲間?



【その他の用語】

◇『カーミラクス=ロープ街』

「代書士ティンクル=リロルスター事務所」がある街。首都「6メガシャイン・シティ」から近い都会。隠れ家的お洒落町。坂が多い。

◇『クリムゾン=キャッスル神社』(クリル神社)

ライプニがネクロマンサー修行している神社。事務所からすぐ近く。

◇『天守球』

要するに太陽。その光は「天守光」。


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