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「その7 真実とは向き合わないのが信条です」(2)

【登場人物のおさらい】

◇ティンクル・・・所長。吸血鬼の少女。

◇ライプニ・・・ネクロマンサー修行中の人族の少女。熱帯魚初心者。

◇カトゥーチャ・・・事務所勤務の代書士。人族のデカいおっさん。

◇ラムシゲ・・・よく勝手に入って来るエルフの美少女。

◇森岡師匠・・・超ちっさい猫系獣人。


「よし、諸君が良い方向に進んでる様子っちゃけん、ここで少々、助け船を出そうじゃないか。」

調子ノリ気味に語る ティンクルに、渋い顔のラムシゲが言い返す。

「なんかこう、この上から喋られてるシチュエーションに納得いかないのよね……。」

「グニュグニュ……。まぁ、そーゆーなち。」

コンニャク菓子の着色料で緑色に染まった舌を軽く見せながら、ティンクルはパチリとラムシゲにウィンクして見せた。


異様なグリーンの舌とチラリと見えた鋭い犬歯が、ティンクルが吸血鬼であることを思い出させる。



ティンクルは吸血鬼であるため、当然に人の血を吸う。

より正確には、人族の血液も人族以外の血液も吸う。

むしろ、エルフなんかはエグみが少なく、人族よりもかなり美味しく感じる。

もちろん、その吸血鬼の個体ごとに好みがあるが。

ちなみに、ティンクルはエルフの血液が好物だ。



まだ1年も経たない前、カーミラクス=ロープ街のメインストリート沿いにある、この街にしては逆に珍しい雑然とした廉価な居酒屋で、ティンクル、ラムシゲ、カトゥーチャの3名で一杯やっていたときの話。

その日は、ラムシゲが、知人から「SAKE」と呼ばれる米から作られたワインのような酒を貰ったのだが、一人じゃ呑みきれないとゆーことで、夕刻、「代書士 ティンクル=リロルスター事務所」に持って来た。

まぁ、要するに、ラムシゲにメロメロの男(ドワーフと人族の混血とか何とか)から、どっかの土産かなんか知らんが、なかなか高級なものをプレゼントされたとからしい。


ほほぅ高級品かね、とゆーことで、ティンクルが受け取ったその場で開封し、味見だ何だと呑み初めてしまい、ティンクルとラムシゲと、一緒にいたカトゥーチャとで、結構な速さで空っぽにしてしまった。

この時点で、あまり酒に強くないラムシゲは、いつもは笑ったり怒ったり忙しい顔が、なんだか虚ろな目のアルカイックスマイルに固定されていた。

現実感のない両頬は薄く桜色に染まり、少しだけ親しみやすい生命感を帯びている。


すっかり良い気分になった3人は、そのまま「夕飯でも喰おー!」とゆーことで、近所の安くて騒がしい居酒屋に入ったとゆーわけざんす。

多分、夕刻で空腹な状況に酒が入り、3人ともアルコールの回りが早かったんだと思う。

そこの店でも、なんやかんやと結構呑んでしまい。

ラムシゲは、周囲の男どものチラチラした視線を全身に集めながら、テーブルに突っ伏して眠り初めてしまったのである。


そんなシチュエーションを、このティンクル様が許すはずはない。

アルコールのせいっちゃろか?この何とも心地よい興奮は……。

ティンクルは、このエルフの少女に不思議な胸の高まりを感じていた。


カトゥーチャがトイレに行った隙。

テーブル上に無造作に投げ出された、繊細な飴細工の如きラムシゲの左腕。

その美しい造形に目掛けて、恍惚な酔っ払いとなったティンクル様がカプリとひと咬み牙を立てたのは、その直後である。


吸血鬼にもいろいろあるが、ティンクルは黒目がちのその瞳で、多少の幻術のよーなものを施すことができる。

これにより、餌となる生命体の痛覚を低減し、鋭い犬歯を突き立てても暴れないようにするのだ。


だが、この日のラムシゲは、眠ってしまって目を閉じたままである。

ティンクルの幻術は効いてない。


犬歯がぷすっと刺さった瞬間。

「あんっ!!!痛ーいッッッ!!!」

と甲高い悲鳴を上げて、ラムシゲが左腕を引っ込めた。

当然ながら、ティンクルの何でも切り裂くとゆー鋭い犬歯が、ラムシゲの美しい肌を数センチ以上、スパッとやってくれた。


近くの席にいたプリーステスが回復系統魔法で治癒してくれたのと、エルフの人族を越えた回復力のおかげで、特段の傷跡が残らなかったのは、世のラムシゲ・ファンの男どもには幸いであった。


その時に、治療までの間、そこそこの量の鮮血が溢れ出し、たまたま置いてあったテーブル上の木製の枡の中に、つつー、つつーと流れ落ちていた。

ティンクル様は、荒い鼻息とともに、恍惚な表情でその枡の中の液体をチュウチュウと吸い始める。

顎を引いて斜め下45度に俯き、赤い頬と伏せた瞳で升の中を愛おしそうに眺めながら液体を啜るその様は、幼い少女が残り少ない秘蔵の苺ジュースを大事に大事に飲んでいるようだった。

枡の中の透明な液体は、ラムシゲの鮮血と混ざりあい、美しい薄紅色の美酒となっていたのだ。


実に妖艶でシュール。

このヴァンパイアは、私から流れ出たこの血液で、何をしてるんだろ……?


プリーステスからの治療を受けながら、その様子を目にしたラムシゲは、その光景のおぞましさと自分の鮮血が美味しそうに吸われて行く様に、怒りを通り越して、卒倒しそうになったものである。


あの光景は、ラムシゲにとって、ちょっとしたトラウマだ。



コンニャク菓子で染まった異様なグリーンの舌とチラリと見えた鋭い犬歯が、その夜のトラウマを思い出させて、ラムシゲは、左腕を中心に、ゾクッと鳥肌が立つ感覚を覚えた。


「あー、もう!怖いから、そんな顔でこっち見んなー!!」

ラムシゲは、たまらずティンクルのウィンクを両手で遮る。

そして、ラムシゲは、何をこのヴァンパイアはそんなに上機嫌なのか?と渋い顔をした。



【登場人物】


◇『ティンクル=リロルスター』(ティンクル/チンクル/朕)

所長。吸血鬼の少女。一人称は「朕」。エセ××弁(「~ちゃけん」とか)。黒髪ロングヘアー。棒状のコンニャク菓子(=こんにゃくゼリー)が好物で、よくグニュグニュ噛んでいる。


◇『ライプニⅡ・ケイ・スー』(ライプニ/スー)

人族の少女。事務所の近所のクリル神社でネクロマンサー修行中。一人称は「スー」。前髪パッツンプリンセスでツインテール(銀色)。ムチムチ大福系。事務所の大家さんの孫娘。熱帯魚飼育歴なし。


◇『カトゥーチャ』(カトゥ)

デカい人族のおっさん(青年!?)。事務所に勤務する代書士。バツイチ独身。痛風。一人称は「俺」。ティンクルとは熱帯魚談義仲間。


◇『ラムシゲ』(ラム)

エルフの超美少女。水色の髪のポニテ。何故か事務所に勝手によく顔を出す。一人称は「私」。好きな魚種は「モルミルス」。


◇『森岡師匠』(森岡)

ネコ科の獣人のちっさい少女。ブラウンのショートヘアーに三毛色の猫耳。猛獣だか爬虫類だかのような瞳孔。ティンクルの熱帯魚仲間?



【その他の用語】

◇『カーミラクス=ロープ街』

「代書士ティンクル=リロルスター事務所」がある街。首都「6メガシャイン・シティ」から近い都会。隠れ家的お洒落町。坂が多い。

◇『クリムゾン=キャッスル神社』(クリル神社)

ライプニがネクロマンサー修行している神社。事務所からすぐ近く。

◇『天守球』

要するに太陽。その光は「天守光」。


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