「その7 真実とは向き合わないのが信条です」(1)
【登場人物のおさらい】
◇ティンクル・・・所長。吸血鬼の少女。
◇ライプニ・・・近所のクリル神社でネクロマンサー修行中の人族の少女。熱帯魚初心者。
◇カトゥーチャ・・・事務所勤務の代書士。人族のデカいおっさん。
◇ラムシゲ・・・よく勝手に入って来るエルフの美少女。
◇森岡師匠・・・超ちっさい猫系獣人。ティンクルの熱帯魚仲間?
「しっかし、何だかよくわかんない質問ね……。自分の気持ちを言葉にね~。 大袈裟なこと言ってるけど、要するに思ってることを口に出すってだけなんじゃないの?」
ラムシゲは、ティンクルの瞳をストレートに見つめて、小首を傾げながら探るような表情で尋ねる。
ティンクルは、このエルフの顔を見飽きているはずだが、こうしてまっすぐに視線が合ったりすると、何というか本当に浮世離れした生命体だなと思う。
前後に立体的で「強い風の日でも真正面からは風圧受けにくいんじゃね?」と感じさせる美しいフォルム。
その肌は、ライプニのそれのような触り心地の良さを思わせるものではないんだけど、アンタッチャブルというか、何というか。
きっと、触ろうとしたら、そのままこの手がすり抜けていって、後ろの水色のポニーテールをつかまえることになるんだ。
朕だって、ぶっちゃけ世間的には相当カワイイんだと思うっちゃけど、こいつの美しさは質が異なる。
どっちが男にモテるかじゃない。
この世界にイデア的な美というものがあるのなら、こいつは朕なんかよりも何倍かそれに近いっちゃろ。
ところが、このエルフは、こんな顔で、子供のように懐いてくる。
よー分からんアホなことばっかゆーとっちゃけど、元気で、明るくて、飾らない性格だな。
こんなものを近くに置いておいて、いつもじゃれついて来てくれるなら。
このエルフが、何に喜び、何に怒り、何に笑って、何に悲しむのか。
そんな移ろいゆく四季のような姿を眺めていられるなら。
自分とゆー存在がこの世界にあることの意味を感じられるはずっちゃね。
朕は別に女が好きなわけじゃないけん。
もちろん、誰かと付き合うとか結婚するとかも考えたことがない。
(記憶にも残ってない遠い昔の話を除く。)
でも、こいつにメロメロになる男どもの気持ちも分かるような気がするけん。
不思議なヤツよ。
グニュグニュ……、グニュグニュ。
メロン色のコンニャク菓子をくちゃくちゃと噛み続けながら、ティンクルは、虚ろな瞳でラムシゲの瞳を見つめ返していた。
「な、なによー……?」
ラムシゲがちょっとだけ顔を赤くしてティンクルに問う。
「そんとーりっちゃ、そんとーりやね。自分の気持ちや感情、考えていることや感じていることを言葉にして口に出す。まさにそんとーり。ただ、重要なのは、自分が内心で本当に思ってることを分析し、認識するところにあるけん。それは、『うん、それ、確かにそれ!』とか素直に思える言葉を探し当てる作業に近いっちゃね、うんうん。」
「チンクル。あんた、だいじょーぶ? 厨二病臭くて聞いてらんないんだけど? あー、いたたた……♪」、
ティンクルは、先ほど、心の内でラムシゲに対して思っていたこと、感じていたことをすべて消去した。
「ちょっと真面目に話すとスカしてくるっちゃねー。まぁ、いいけん。何でもいいから、さっきの話の関係で、お前が何を思っているのか言ってみって。あー、もう、なんか要するにお前が何したいのか?みたいなことっちゃね。」
ティンクルの厨二的問答が思った以上にしつこくなってきたため、ラムシゲは「めんどくせー」とか思いつつ、やむなく答える。
「まー、要するに、ブルーダイヤモンド・ラミレジィには、他のタンクメイトを追っかけ回してほしくないし、ディスカスには餌をモリモリ食べて、ちゃんと成長してほしいし。って感じだけど?」
「お前が思っとーのは、本当にそーゆーことなん?」
「えー!?別に嘘偽りはないよ、ほんとに。」
「そかそか。」
しつこく聞いてきた割には引き際の早いティンクルに、ラムシゲは逆にビックリしたようだ。
ティン:「じゃ、カトゥーチャはどう思う?」
カトゥ:「ラムシゲの言ってることに嘘はないと思うぞ。」
ティン:「ライプニは?」
ライプニ:「スーもそう思うっす。」
ティン:「だが、ラムシゲが言ってるような、思ってるような解決が実現するかも分からん状況で……、ぃゃ、むしろ、ラムシゲ自身、実現しない可能性のほうを強く予想している様子だったっちゃろ? そんな状況をちゃんと理解しとんのに、あいつは『ケンカがなくなって、拒食もなくなったらいいな♪』なんてことを思ってるだけなん?」
ティンクルがラムシゲの顔をニヤリと見つめて、逃がさんぞ!との勢いで問い詰める。
「お前らが口にした言葉は、お前の気持ちをしっかりと表現したもんとは言えん。もっと『そのとおり!』と感じられるような的確な言葉が、他にあるっちゃろ!??」
ラムシゲは、ティンクルの言ってるニュアンスがちょっとだけ分かるような気がして、自信なさげに答える。
「確かにそうね……。もっとこう重い気持ちとか、別の何かがあるように感じるよーな気も……。確かに『ケンカがなくなって、拒食もなくなって欲しいな♪』っていう言葉だけじゃ、『そうそう、私の気持ちは確かにそれ~!』なんて、手放しで言えないなー。」
それを聞いたティンクルは、ちょいと嬉しそうな声で言う。
「ほほぅ。お前も少しずつ自分自身の気持ちを知ることができるよーに……、うむ、分析できるよーになってきたみたいっちゃね。」
「なんか、そーやって上から目線で言われると腹立つわね。」
ラムシゲは少しむくれてみたけれど、すぐに思考を再開させ、それに集中し直した。
ティン:「どうだ、カトゥーチャやライプニは?なんか思うところはないか?」
カトゥ:「うーむ、俺にはよくわからんな。」
ライプニ:「そのほかに何かあるっすかね?熱帯魚なんて飼わなきゃ良かったな~とか?」
ティン:「ほうほう、そういう思いも十分混ざり込んでるかもしれんちゃね。だが、あれでもあいつはかなりの熱帯魚好きっちゃけんね。けど、議論の流れは良い方向と思うけん。で、森岡師匠はどうよ?」
森岡:「師はすべてを知ってるっぺ。だから多くを語らないっぺよ。」
ライプニは、いつか、本当に、この小さい獣人と打ち解けることができる日が来るのかな?と思った。
【登場人物】
◇『ティンクル=リロルスター』(ティンクル/チンクル/朕)
所長。吸血鬼の少女。一人称は「朕」。エセ××弁(「~ちゃけん」とか)。黒髪ロングヘアー。棒状のコンニャク菓子(=こんにゃくゼリー)が好物で、よくグニュグニュ噛んでいる。
◇『ライプニⅡ・ケイ・スー』(ライプニ/スー)
人族の少女。事務所の近所のクリル神社でネクロマンサー修行中。一人称は「スー」。前髪パッツンプリンセスでツインテール(銀色)。ムチムチ大福系。事務所の大家さんの孫娘。熱帯魚飼育歴なし。
◇『カトゥーチャ』(カトゥ)
デカい人族のおっさん(青年!?)。事務所に勤務する代書士。バツイチ独身。痛風。一人称は「俺」。ティンクルとは熱帯魚談義仲間。
◇『ラムシゲ』(ラム)
エルフの超美少女。水色の髪のポニテ。何故か事務所に勝手によく顔を出す。一人称は「私」。好きな魚種は「モルミルス」。
◇『森岡師匠』(森岡)
ネコ科の獣人のちっさい少女。ブラウンのショートヘアーに三毛色の猫耳。猛獣だか爬虫類だかのような瞳孔。ティンクルの熱帯魚仲間?
【その他の用語】
◇『カーミラクス=ロープ街』
「代書士ティンクル=リロルスター事務所」がある街。首都「6メガシャイン・シティ」から近い都会。隠れ家的お洒落町。坂が多い。
◇『クリムゾン=キャッスル神社』(クリル神社)
ライプニがネクロマンサー修行している神社。事務所からすぐ近く。
◇『天守球』
要するに太陽。その光は「天守光」。




