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我らたいあたり検証班  作者: あおいしろくま
セルカと指輪と伝染する悪夢
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セルカと指輪と伝染する悪夢⑤

 ようやく、迷宮へと到着した僕たち「検証班」。

 幸先が良いのか悪いのか、到着早々に三匹のモンスターとエンカウントしてしまい、特に危なげなくこれを撃退。現在は戦利品の回収をしていた。


 「ドロップは無しかぁ」


 少し残念そうにつぶやくセルカ。


 「まあ、確率的にはそんなに高くないわけだし、仕方ないさ」


 気落ちするセルカを励ますアル。


 「私としては今日は十分な成果ネタも上がったし、構わないけっどね~」


 そして、鼻歌まじりにそれをぶち壊すリシア。

 ……今日も「検証班」は平和である。


 

 「ーーっ、せっかく人が忘れようとしてたのにぃー」


 「そんなことを私が許すと思うてかっ!!このとおり、現物もきっちり確保してあるわっ!!」


 そう言って、リシアは懐から写真を取り出し、セルカに見せつけるように前へ突き出す。


 「ぐわぁー、目がっ、目がぁー」


 「ふふっ、あの受付の子もいい仕事をしてくれたわ。こんなに素晴らしいプレゼントを贈ってくれるなんてねっ!」


 例の写真に視線を落とし、リシアは再び欲望にまみれた笑みを浮かべる。


 「ううっ……っていうかよく考えたら、僕の背中に貼り付いてたんだし、その写真僕のなんじゃないの?」


 危険物を回収できる可能性に気づいたセルカ。すぐさま復活してリシアに反撃を試みる。


 「何を勘違いしてるのよ?よく見てみなさいよ」


 そう言って写真を裏返すリシア。


 「なになに……『リシアさんへ』って、おいっ!」


 「そう、この写真は元々私に献上するために、あの受付の子が撮影して送ってくれたものなんだから!ぜーったいにセルカには渡さないんだからねっ!これを手放すのは――複製して街中にばら撒くときだけなんだからっ!」


 「萌えないっ、まったく萌えないよリシア!確かにジト目さんもそんなこと言ってたけども!でも、そんなものが街中にばら撒かれてしまったら、それは僕への社会的死刑宣告と同義なんだけど!」


 なぜか謎の液体まみれで投獄されているカラフルな男。……たしかに犯罪の匂いがする。

 というか、そもそも集合場所まで背中に貼り付けたまま歩いてきている以上、死刑は免れないような気がするのだがそれはいいのだろうか。


 「回収終わったし、そろそろ行くよー」


 唯一の戦利品である「結晶」を回収したアルが二人に声をかける。


 「はーい」

              

 セルカとリシアも激しい舌戦――に見せかけた一方的な虐殺を中断し、迷宮の奥へ向かって歩き出す。


 「えっ、ばら撒かないよね?ね?」


 「……」


 彼の受難は続く……。


                        

 

 今日の朝、

 

 かなり早くに起きる。というか起こされる。

 

 そこそこ早くに依頼窓口を出る。

 

 ちょっと早くに迷宮に着く。

 

 それから早くも十分あまりが経過。現在地点は、まだまだ迷宮の最初も最初。入り口の門をくぐってすぐの所。

 

 ……世の中うまくいかないもんですよねー(自分が予定を遅らせている事実から目を背けつつ)。

 

 ともあれ、巡回依頼と言うからには、浅い所だけ回って帰るわけにもいかない。

 というわけで、僕は回収した戦利品をアルから受け取り、迷宮の奥へと進んでいく。受け取ったのはメタリックな三個の球体。名前は「ブレイカー」。倒したモンスターから必要なものを回収する専用の道具で、迷宮探索を生業とする冒険者必携の一品だ。


 モンスターがほかの生き物と区別される理由はズバリ「体がマナでできている」ことと「結晶を持っている」という二点に尽きるだろう。

 結晶はいわばモンスターの設計図みたいなもので、それに従ってマナが寄り集まり肉体を構成する。ゆえに常にマナが濃い迷宮では、モンスターは体に少々傷をつけたくらいなら時を置かずに修復してしまうし、生命活動を完全に停止させても、核となる結晶が無事なら、マナを取り込むことでまた新たなモンスターがそう遠くないうちに出現してしまう。

 さらに結晶自体の自己復元力も凄まじく、ただ真っ二つにするくらいではすぐにくっついてしまう。となると、あとは結晶ごと粉々に砕くぐらいしか無いわけで……。(実際、普及する前はそうしていたらしいんだけど。)

 でも、結晶はその高い自己復元力から利用価値も高くて、出来る限り破壊せずに持って帰りたい。そんな中、開発されたのがこの「ブレイカー」。生命活動を停止させたモンスターに接触させるか、露出した結晶に直接打ち込むことで、不安定化したマナを剥ぎ取り、裸となった結晶を隙間なく覆って周囲のマナと隔離する。

 「ブレイカー」の登場で、モンスターの発生ペースの安定と結晶の供給が可能となった。

 それ以来「ブレイカー」は、冒険者たちの手荷物圧迫度ランキングのトップの座を維持し続けている。

 

 で、さっきも言ったんだけど、これが凄いかさばるんだよね。これでもかなり小型化されてるらしいんだけど、倒したモンスターの数だけ必要なだけあってとにかく数が要る。パーティーの誰でも文字通りの最後の一撃を叩き込めるように全員で分割して持っているんだけど……やっぱり比較的邪魔になりづらい僕に、使用済み分は優先的に回されちゃうんだよねぇ。

 

 っていうか、言えないよ!「邪魔だし荷物持っててくれない?」とか!

 

 右側のアルは、でっかい盾持って、超重そうな、いかにも金属製ですって感じの白い鎧とか着けてるし。

 かといって左側のリシアも、全身真っ黒の回避命!みたいな軽装だし。

 

 ……だから、決して、パーティー内のヒエラルキーが低いから荷物持ちさせられてるってわけじゃないんだよ!

 そう、あくまでこれは当然の帰結。方や重装、方や軽装……というより防御力ほぼ皆無。どっちが余分な荷物を持ってても戦闘や探索に差し障る。だから僕が持ってるだけ。

 まったく他意はない!他意はないんだよ!

 ――たとえ僕だけ鞄を二つ持たされていたとしても、そして実は他の二人の鞄には微妙に余裕があるとしても!

 ないったらないんだい!


 うわーん!


 「なに俯いてんのよ!」


 いつの間にか、前を歩いていたはずのリシアが隣に並んでいた。


 「……(心の中で泣いてました。ただの荷物持ちと化している現実について)」


 「……もしかして、怒ってる?心配しないでよ~さっきの写真ばら撒くって話なら冗談よ」


 「えっ、マジで?」


 正直、全く別のこと考えてたんだけど……。でも、処刑が中止されるのは嬉しい。

 いや、ちょっと待てよ……相手はあのリシアだぞ?そう簡単に僕を弄ぶ権利を放棄するとは思えない……。つまり……上げてから落とす作戦ということか!ぬか喜びしたところを背後からバッサリ行く気なんだな!なんて卑劣なっ……!

 でも、僕だってバカじゃない。そんな見え見えの作戦には引っかからないっ!

 僕は猜疑心に満ちた眼差しでリシアを見つめ返す。


 「そう睨まなくってもマジよ、マジ。私からばら撒いたりはしないわよ。自分でアルバムに入れて鑑賞するだけだから(どうせ私がばら撒かなくたって、そのうち勝手に広まるでしょうしね。ネガは受付の子が持ってるわけだし)」


 「それもできれば勘弁して欲しいんだけど……それでも極刑に処されるよりはずっとマシだよ!お願いだよリシア!公開だけは……公開処刑だけは勘弁してください!」


 「もちろんよ、私は(・・)この写真を一生手放さないと誓うわ!」


 「う、う……ん?なんかそれはそれで引っかかるような……」


 まあでも、これだけ言えば流石に約束は守ってくれるはず!なんか不穏な単語を聞いてしまった気がするけど!そこはあえて触れない方向で!


 「(顔にデカデカと『一安心』って書いてあるわね……なんて単純……まあ、そのほうが弄り甲斐があって楽しいんだけどねっ!)」


 リシアは何故かこっちを見て少し含み笑いをすると、また前の方へと戻っていった。

 うーん、謎だ。あれだけ表情に変化のないジト目さんの心の内も完璧に理解できているというのに、リシアの考えてることは全く分からん。

 まあ、理解できたらできたでこっちの頭がやばい気がするし、いいっちゃいいんだけどね。


 ふぅ。チームメイトにしてある意味僕の天敵であるリシアが去ったことで、微妙に心にゆとりが生まれたわけなんだけど……。

 お仕事の方は……このままだと昼前くらいにはここのボスまで行けそうな感じかな?いつもよりちょっとペース早い気がするし。

 

 つまり、何もなければ昼過ぎに帰れる!

 ……これはっ!きっと「今日は昼寝でもするが良いぞ。ふぉっふぉっふぉ」みたいな感じの天の思し召しに違いない!

 いろいろあったけど、やっぱり今日はいい日だったんだよ!そもそも、こんなにあったかくて気持ちいい日が悪い日なわけないんだよ!!


 


 っていうわけで

               第一章「僕と写真と優雅な微睡み」完!!

 


 


 

明後日公開、第二章「私と下僕と不幸の写真」お楽しみに!!

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