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我らたいあたり検証班  作者: あおいしろくま
セルカと勇者と花の迷宮
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セルカと勇者と花の迷宮⑨

「うう、何だったんでしょう……アレ……」


 人通りも増してきた町の大通りで、勇者は下腹部をさすりながらつぶやく。


「ははははは……」


 原因を知っている……どころか自分の身で体験したことさえある僕は苦笑いで返すしかない。


「いちいち気にしていては身が持たないわよ?」


 平然とそう言い放つリシアと内心で冷や汗をかきながらもやはり苦笑いするしかないアル。

 僕たちは危うくも崩れないバランスを保ちながら次なる目的地へと歩いていった。



 今日の朝、最後の目的地、薬屋『ヒヤシンス』へと僕たちはたどり着いた。


 たどり着いたんだけど……。


「……」


 思わず、店内へと続く扉の前で手が止まってしまう。

 理由はわかっている。

 今日続けて襲い掛かってきたハプニングのせいだ。

 あまりにもハプニングが続きすぎて、次も何かあるんじゃないかって疑ってしまっているのだ。ましてや、ここにいるのはことあるごとに僕を実験台(モルモット)にしようとしてくるオーリエさん。警戒してしまうのも致し方ない。

 しかし、そうしている間にも後ろからせっつく声がきこえてくる。


「なに怖がってんのよ?早く開けなさいよ」


「(お前が言うなっ!)」


 リシアに一言物申したいのはやまやまだけど、勇者がいる手前、言い返すこともできない。

 ……はぁ。ここで固まっていても仕方がない。どうせ行かなきゃいけないんだ。

 僕は頭を巡る嫌な予感を抑えて扉へと手をかける。


「いらっしゃいませ~」


 扉を開けると、正面からこの薬屋の店主オーリエさんが笑顔で出迎えてくれた。

 ……良かった。とりあえずは大丈夫みたいだ。

 僕はホッと胸をなでおろす。

 そうだ、嫌なことがあったからって少し疑心暗鬼になりすぎていたかもしれない。


「お、おはよう」


「おはよう〜」


「おはようございます」


 オーリエさんの挨拶に僕らも三者三様の挨拶を返す。


「あら、珍しいわね。全員で来てくれるなんて」


 そのまま、オーリエさんは笑顔で陳列棚の向こうから立ち上がってこちらに向かって歩いてくる。


「今日はちょっと事情がありまして」


 僕たちにはもったいないほどの満面の笑みを保ったまま、オーリエさんはどんどんと近づいてきている。

 本当にいい笑顔だ。でも、僕は以前の実験の記憶が蘇ってきて条件反射的に一瞬身をこわばらせてしまう。

 しかし、僕はその記憶を首を振って振り払う。

 オーリエさんは僕らを歓迎してくれているんだ。なのにその本人を恐れてしまうなんて失礼だ。

 僕はすくんでしまった体を奮い立たせるように再びオーリエさんの方を見つめる。

 その時、ふと僕は気づいた。一緒に店に入ったはずのリシアとアルの姿が隣になかったのだ。


「そうなんですの。で、そちらが件のゆうし――」


 瞬間、僕の隣を一陣の風となった白い布が飛んでいった。

 白い布は店内を駆け抜けてオーリエさんの顔へと張り付き、オーリエさんの言葉を遮った。

 そういえばあの布、どこかで見たような……?


「(はっ!)」


 その布の正体を思い出した僕は斜め後ろに振り向く。

 そこには軽く腰を落として何かを振り切ったような姿勢のリシアがいた。

 ……間違いない。あの布は今朝四代目をノックアウトさせたあの布だ。

 そして、もしアレが四代目相手に使ったものと完全に同じものなら、すぐに状態異常にかかって意識がなくなるはず。


 あれ?そういえばなんでそんなものをリシアはオーリエさんに?

 まさかこんなところでいつもの悪ふざけをしたわけじゃないだろうし。

 ……待てよ、さっきオーリエさんは何を言おうとした?

 僕の聞き間違いじゃなければ『勇者』と、そう言おうとしていたんじゃないのか。


 僕がおぼろげながらも現状を理解し始めたちょうどその時、オーリエさんは自分の手で顔にへばりついていた布をはがした。


「私とて薬師の端くれ。そこのセルカ(プロ)ほどではありませんが、多少の耐性程度は持っているのですよ。その程度の状態異常が効くと思ったら大間違いです!私を倒したいのならもっと強烈なものを持って来るのですわ!」


 そして、自らも腰を落として戦闘態勢へと入る。その視線の先にいるのは、同じく腰を落としたままの姿勢を保っているリシア。

 二人はともにうっすらと笑い顔を浮かべながらにらみ合っている。


 ……え、何この空気。全く意味がわかんないんですけど……。

 おいてけぼりの観衆をよそに、一触即発の空気がオーリエさんとリシアの間に流れている。

 二人の瞳には、明らかに勇者のことだけではない何かへの闘志の炎が燃えていた。


「いずれ、あなたとは決着をつけないといけないと思っていましたわ」


「奇遇ね、私もよ」


『どっちがセルカ(モルモット)の扱いが上か!』


『――いざ、勝負!!』


 二人の唇の端が同時につりあがり、互いに向かって突進する。

 二つの影は交錯した地点で甲高い破砕音を響かせる。

 しかし、それはお互いの体を直接傷つけて出ている音ではない。

 甲高い破砕音はガラスの小瓶と細い管が割れる音。

 何かの意地なのだろうか、二人はお互いに毒薬と思しき薬品を掛け合って戦っていた。

  

 最早どう見ても勇者のことなど眼中にはない。


 そうしている間にもどんどんと白熱していく二人の争い。

 ……とりあえずこう言っておいたほうがいいのだろうか。


「きゃー。ぼくのためにあらそわないでー」


 パリィーン。

 僕が言った瞬間、二つ同時に飛んでくる瓶と管。

 管と瓶は正確な投擲で見事僕の体に当たって、音を立てて割れその中身を撒き散らす。

 僕の胸当てと腰のあたりを汚す毒薬たち。

 ……それからは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 何かを吹っ切ってしまったのか、それまでは一応周りに被害を及ぼさないようにと配られていたと思われる遠慮が綺麗に消え去って、(陳列棚を除く)店内のいたるところでガラスの破片と色とりどりの液体が舞い踊る。

 その原因たちは店内を所狭しと駆け回り、攻防はより激しさを増していく。


 ……結局、薬屋『ヒヤシンス』の店内が静かになったのはそれから五分ほど後になってからのことだった。



「ほら、起きたか?」


『うう~』


 僕は床にのびている三人(・・)に向かって強力な気付け薬をぶっかける。

 あれからさらに激しい争いが繰り広げられ、結果、倒れることになったのはリシアとオーリエさんの両方……プラス巻き添えを食った勇者の三人だった。

 オーリエさんに関して言えば、どうやらリシアも能力(・・)は抑えて手加減をしていたみたいだったけど、それでも冒険者でもないのにあのリシアと相討ちに持ち込むなんて流石と言うほかない。

 勇者に関しては……僕の中で、これから一緒に迷宮へ潜る事への不安が増してきているとだけは言っておこう。


「私はさっきまでこのリシアさんと戦っていて……そうですわ!結局どっちが勝ったんですの!?」


「引き分けだよ。ひ・き・わ・け」


「それ、本当なんでしょうね?全く同時だったの?秒単位で?」


「……秒単位の差でのびたんなら十分引き分けだよ」


「しょうがないですわね。今日のところは勝負は預けておいて差し上げますわ。決着はまた次の機会に」


「ええ、首を洗って待ってなさいよ」


 ……僕としてはこんな争いは金輪際やめていただきたいんですが。


「はぁ……。で、そこにのびてるゆう――方なんですが」


「別に隠さなくていいですわよ。勇者様なんでしょう、彼」


「一応、秘密ってことになってるんですけど……」


 ……本人が自爆しまくってるので、本当に一応だけど。いや、半分位はリシアのせいでもあるか?


「話には聞いておりましたので、すぐにわかりましたわ。なんでも、とても怪しい格好をしていると」


「いや、誰からその話を……あ、もしかして」


 僕の頭の中に浮かぶ、オーリエさんに勇者のことを喋ってしまったかもしれない人物の顔。

 まさか……。


「あの子が私に隠し事なんて十年早いですわ!」


 ジト目さーん!何やってんですかー!

 確かに勇者のことを知ってて、かつオーリエさんと接点gありそうな人はジト目さんくらいしか思い付きませんけども!


「で、よろしいのかしら?」


「はい?なんのことですか?」


「……その勇者様、そこで痙攣してますわよ?」


 僕が目を向けてみば、床に仰向けに倒れてピクピクと手足を痙攣させている勇者がいた。


「あ、ああ、手当てを早急に手当てをお願いしますぅ!


アレっ?と思った方いらっしゃるかもしれませんが、改稿前からオーリエさんの口調が変わっております。

第一章の当該部分も変わっております。あしからず。

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