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我らたいあたり検証班  作者: あおいしろくま
セルカと勇者と花の迷宮
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セルカと勇者と花の迷宮①~プロローグ~

これより第二章スタートです!


※しばらくの間は隔日更新となる予定です。

 フレイルは「自由都市」を謳っている、他の国とは一線を画す都市である。

 それは「自由都市」という呼称そのものにも表れている。では他の街は自分たちのことをなんと称しているのか。それは「国」である。

 大きな都市は周りの土地と小さな村を支配下に置き、国を名乗る。

 フレイルと同じ規模の街で「都市」を名乗っているのはフレイルただ一つだけだ。


 そんな中、十分に国を名乗れる程の規模を誇っているにもかかわらず、自由を掲げ、ずっと都市を名乗り続けているフレイルは一際異彩を放っているのだった。


 そして、フレイルの掲げる「自由」はそれだけに留まらない。

 中でも一番大きな「自由」は何か。

 それはおそらく、人の出入りの自由ではないだろうか。

 他の国では入国にかなり厳しい審査があるのが普通だ。しかし、フレイルにおけるそれは簡素なものだ。身分を証明するものすら不要で、あるのは荷物の検査と目的を尋ねられることのみ。

 その目的も「観光」で通ってしまうのだから、ほとんど素通しに等しいと言ってもいいのではないのだろうか。



「は〜い、次の方どうぞ〜」


 番兵の間伸びした声が響く。

 それに合わせてフードを目深に被ったローブ姿の男が前に進み出る。


「え〜、荷物はこちらで間違いありませんか?」


「……はい」


 まだ若いと思われる声が答える。


「では、こちらに来られた目的は何でしょう?」


「……観光と、仕事です」


 そう答えた男の声は微かに震えていた。


「確か冒険者の方でしたね、でしたら必ず気に入っていただけると思いますよ」


 番兵は気遣いの色を含んだ声でそう言って、手元の荷物をローブの男に手渡す。

 無言で荷物を受け取った男は目の前を覆い隠す門をくぐって、一歩足を踏み出す。


「――ようこそ『自由都市フレイル』へ」


 門をくぐった先では、近々開催される祭りに一層活気を増した自由都市フレイルの街が男を待っていた。



「シャアアアア!」


 乾いた叫び声と共に緑色のツタがこちらに向かってくる。

 植物とは思えない素早さで接近してくるツタ。

 しかし、僕は慌てることなく、半身になって身構える。

 そして、僕とツタが接触する直前。突然、一つの人影が僕らの間に割り込んだ。

 割り込んできた人影――アルマースは片手に掲げた大盾で危なげなくツタの攻撃を受け流す。

 自らの攻撃が防がれたとみるや、ツタの主のモンスターは口のようなものを大きく開く。

 僕はその予備動作を確認する前に、アルの前に躍り出た。

 一瞬遅れて、モンスターは大きく開いた口?から粘性の高いゲル状の液体を吐き出した。

 その射角は大きく、避けることは至難の業だ。

 僕はアルをかばうように立ち、両手を顔の前でクロスして液体を受け止める。

 地面に飛び散った液体は毒々しい色の煙を上げている。

 この液体に接触すると毒・麻痺・睡眠の状態異常三点セットを食らってしまうことは既にわかっている。

 しかし、この液体自体にダメージは無いことと、三つの状態異常は僕の耐性で発現しない程度の強度であることも判明している。

 僕は不快な感触を堪えつつ、クロスした両腕の後ろからモンスターを睨みつける。

 その時、どこからか飛んできた二本のナイフが、毒液を吐いた直後で開いたままになっていたモンスターの口に吸い込まれていった。

 当たりどころが良かったのか、そのまま貫通していくナイフ。

 モンスターは一瞬ピクリと痙攣して地面に倒れ伏し、動かなくなった。


 僕が地面に横たわるモンスターに向かってブレイカーを投げつけた所で、姿を隠していたリシアと少し後ろに下がっていたアルも集まってくる。


「やっぱり、まともにやりあうと効率悪いわねぇ」


「まあ、そう言わずに。これも今日の依頼の内なんだから」


「そうは言ってもやっぱりしんどいじゃない!元々私達は攻撃力とかほとんど無いんだから!」


「二人とも言い合ってないで!ほら、またモンスター来てるよ!」


 僕は地面の使用済みブレイカーを回収しながら、道の向こうから来るモンスターを残る二人に知らせる。


「もう!わかってるわよそれくらい!で、セルカ、あいつは普通に倒しちゃってもいいの?それとも、またデータ取らなくちゃいけないの?」


「ちょっと待って」


急いで荷物の中から一枚の紙を取り出して、そこに書かれたリストをチェックする。リストに書かれた名前の上に二重線が引かれているのを確認して、僕は紙を鞄へと戻す。


「……おっけー、あれは倒しちゃっていいやつだよ」


「その言葉を待ってました!セルカ、アル!囮は任せたわよ!」

 

 景気のいい一言を残してリシアの気配が消える。きっと今頃、物陰から襲撃する体勢を整えているんだろう。


「セルカ、準備はいいかい?」


「だいじょぶさ……リシアの機嫌を損ねたらあとが怖いしね」


「……違いない」


 軽口を叩き合いながら、僕とアルは迫り来る虫型のモンスターを見つめる。


「いくよ、アル!」


「りょーかい、セルカ」



 ここはフレイルから転移魔法で行くことができる迷宮の一つ、「花の迷宮『フローリア』」。

『フローリア』はフレイル周辺の迷宮の中でも屈指の高難易度の迷宮として名高い、未踏破迷宮・・・・・であった。



 かなり前からこの迷宮の検証を行っていたセルカたち検証班の元に、ある依頼が舞い込んできたのはつい三日ほど前のことだ。


「モンスターの詳細データ調査?」


「はい。それが上からの依頼になります。」


「……ちょっと急すぎませんか?」

 

「……。」


「だって、その依頼が出るってことは完了次第『フローリア』に仮探索許可を出すんでしょう。マップの全域調査もまだなんですよ!?未発見のトラップやモンスターが居るかもしれないじゃないですか!危険すぎます!!」


 仮探索許可は踏破宣言の一段階前に出される宣言で、検証を行うチームが一応の探索を終えた時に出されるものだ。

 この宣言が出されると、他の検証向きではないが実力の高い冒険者も当該の迷宮の探索を行うことができるようになる。


 踏破宣言ほどの安全面における保障はないものの、迷宮はこの段階に至って初めて、一般的に『探索可能な迷宮』と扱われるようになるのだ。


 が、しかし、今回は少し事情が違う。

 セルカたち検証班も最後まで探索しきっていないのだ。当然、危険度も高くなる。

 特にまだ探索が終わっていないエリアでは何が起こるかわからないのだ。

 客観的に見ても、セルカの主張は的を射ていると言えた。


「……セルカ様、近々行われる凱旋祭はご存知ですよね?」


「え、はい。まあ」


「その凱旋祭の影響で、フローリア関係の一般依頼の数が増加しているのです。現状、フローリア以外では入手困難な素材も多くありますから。事実、セルカ様方への依頼も捌ききるのが不可能な量になってきています。」


「だからって……!」


「……この凱旋祭にはフレイルの面子もかかっていますから。新素材の準備も念入りに、ということのようで、そこのところの事情も鑑みた上での特例的な措置(・・・・・・)ということだそうです。セルカ様の懸念につきましても、おそらくですが、未踏破区域は探索禁止にするという形で対処することになるかと思われます。」



 ……あの時は、ジト目さんに押し切られてしまって、結局依頼を受けることになってしまった。

 今でも若干納得はいってないけど、依頼を受けたからには手を抜くわけにはいかない。僕たちも「プロ」なんだしね。

 優先度が最大だということで、この三日の間ほとんどかかりっきりだった依頼。

 

 フローリアに生息しているモンスターの行動パターン・攻撃方法・弱点を正面戦闘であぶり出す。


 この手の正面戦闘が苦手な僕らからしてみれば、正直しんどい依頼。


 フローリアで通常遭遇(エンカウント)するモンスターは植物系が多く、その数は三十二種類。内、他の迷宮でも見かけるモンスターが十一種。


「これで、終わったー!」


 目の前で光の粒子となって虚空へと溶けていくモンスターの成れの果て。

 その残り二十一種全てのデータ収集が、今終わった。


「辛く厳しい一週間だったわ……」


「リシア……、一週間じゃなくて三日だよ」


「それくらい長く感じたってことよ!」


「まあまあ、とにかく今は依頼が終わったことを喜ぼうじゃないか」


「そうよそうよ!早速帰ってお祝いしましょ、お祝い!」


 はしゃぐリシア。僕もリシアほどじゃないものの気分がいいのは間違いない。アルの顔もいつもと比べると少し緩んでいる。

 リシアの言葉に反論する人は誰もおらず、僕たち検証班は少し早い帰路についた。



 

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