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我らたいあたり検証班  作者: あおいしろくま
セルカと指輪と伝染する悪夢
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セルカと指輪と伝染する悪夢⑮

 ゴールデンウィーク3本目投下。

 感想・コメント・評価の三拍子。お待ちしております。おだてられたら木に登っちゃうタイプの作者ですので。

 僕が実験台にさせられてから二日目。


 今日も寝覚めは最悪。……またも僕は寝坊した。なんでも、また六人全員が寝坊していたらしい。

 でも、オーリエさんの提案通り、全員が誰かに起こしてくれるよう頼んでいたおかげで、仕事に支障は無かった。

 余談だけど、ジト目さん曰く、通信結晶の振動くらいでは起きられなかったらしい。……これは明日も目覚ましを頼まないといけないなぁ。



 三日目。


 相変わらず朝は気だるい。当然のように起きられなかった。

 さらに、なんと今日は、昨日頼んでいた知り合いまでもが寝坊していた。

 ……幸運にも、頼んでいた人たちのうち一人が早期に家族に発見されて、そこから伝言ゲームみたいに 次々と誰かが誰かを起こしたらしくて、なんとか間に合ったし良かったんけどね。

 それと、この事態に、オーリエさんも店を閉めて原因の究明をしてくれているらしい。……あんまり無理してないといいんだけど。



 そして四日目。


 薄々感づいてはいたけど、どうやらこの異変『感染』するらしい。

 ……ついに知り合いの家族まで朝起きられなくなってしまった。

 そのせいで、今日も仕事ができなかった。仕事ができなかったのは今週に入って二度目だ。予定外の休日も、一日ぐらいなら「ラッキー」程度に考えられるんだけど、流石に二日もあると喜びよりも不安が募ってしまう。


 太陽は中天よりもやや西側に傾き、街の人々もにわかに活気を帯びている。もう少しでお祭りということもあって、その準備に追われている人や、気の早い大道芸人とかの姿も目立つ。フレイル全体がいつもより賑わっているはずなのに、少し物足りなく感じてしまうのは僕自身が気落ちしているからなのかもしれない。


 いつもなら三人で迷宮に潜っている時間、僕はフレイルの街中を歩き回っていた。何て言うか、じっとしていられなかったんだ。

 僕の右手と左手には一つずつ指輪がはめられている。右手の指輪は未だ正体不明の「毛玉の指輪(仮)」。左手の指輪は最上級の「気絶の指輪」。仕事が出来ないならせめて訓練くらいはしたいと思って、今日リシアから借りてきたものだ。


 状態異常を防ぐ方法は基本的(・・・)には二つ。でも、僕の行う訓練は三つ目の方法にあたる。つまりは、あまり一般的ではない方法だ。

 その方法とは「状態異常に慣れる」というもの。やること自体は分かりやすい。呪いのかかった装備品や、毒薬を使って自分に状態異常をかける。それを繰り返して自分の体を状態異常に慣らしていくのだ。

 誰でも思い付きそうで原始的な方法。それだけに効果もありそうで。


 しかしこの方法、一般的じゃないだけあって、効率的とは言いがたい。

 結局のところ、この訓練の行き着く先は精神論だからだ。「呪いなんて気合いでどうにかしてみせろ!!」なんて言ってみても、今どき流行らないのは明らかでしょ?他に実効的な対策も存在しているとなれば尚更だ。


 それじゃあ、なんで僕がそんな非効率的な訓練をやっているのかって?


 ………………。

 …………。

 ……そういや、何でだろ?


 いやいや、きかっけは覚えてるんですよ?

 たしか、昔の文献からこの方法を見つけ出してきたリシアに無理やりやらされたのが始まりだったはず。

 いやまあそれはいいんだ。いつもの通りのリシアだし。

 それはいいんだけど、問題なのは、何で今に至るまでずっと続けてるのかってことなわけで。

 ぶっちゃけこの訓練、痛いし苦しいし、とても進んでやりたいようなものじゃない。最悪なときなんか、マジで部屋で吐いたことさえあるし。

 でもって、実際効果があるのかって言われたら分からない。もはや、他にやってる人がいるかどうかも分からないような方法だ。本当にやる意味があるのだろうか。


 でも、今、僕はこうしてわざわざリシアに頼み込んでまで準備をして、苦しいだけかもしれない訓練をやろうとしている。僕の意思でやろうとしている。

 矛盾しているかもしれない。自分でもうまく説明できないけど、心のどこかが、あくまで前向きに「やらなくちゃいけない」って思ってるんだ。

 今起こっている事態の原因があの薬にあるのか、それとも別の何かにあるのかは分からない。でも、オーリエさんはプロとして、懸命にそれを解明して手を打とうとしている。それを思うと、「やらなくちゃいけないな」って、そう思うんだ。


 もしかしたら、この気持ちが、僕にほんのちょっとだけ残っている「矜持」ってやつなのかもしれない。


 とはいったものの……この訓練、僕の耐性が高すぎるせいもあって、指輪をつけた途端に気絶するみたいなことにならないんだよなぁ。だから、指輪のチェックタイミングで運良く(運悪く?)状態異常に掛かるまで待たなきゃいけないんだけど……。どのタイミングでその瞬間が訪れるか分からない以上、家でじっと待ってなんていられない。

 ……というわけで、一応金目のものを家に置いて外出。そのついでにオーリエさんを手伝うべく、徒歩で『ヒヤシンス』へ向かっている、というわけなのさ。このために、用意できる状態異常の中でも比較的症状の軽い「気絶」を選んだんだし。


 いつもだったらこんな時間、しかも平日に街中を歩いてるなんて考えられない。道行きすれ違う人たち。騒がしくて、活気にあふれている。この空気、新鮮で、少しだけ懐かしい。

 もう受付窓口前も通り過ぎて、目的地まであと少し。

 ……あっ!そうだ!どうせオーリエさんのことだ、ろくに食事なんてとってないだろう。手土産として果物でも買っていこう。幸いにも露天もいっぱい出てるみたいだし。……ちなみにだけど、材料買って行って向こうで手料理を振舞うって選択はなしだ。もし作っても食べるの拒否されそうだし。だから、決して僕が料理ができないってわけじゃないからね?そこは誤解しないでね。

 立ち止まって、露天の多い方へ向かうために振り返る。



 ――その瞬間、僕を襲う立ちくらみ。とても立っていられなくなって、路傍へと倒れこむ。地面についた時に全身を駆けるわずかなしびれ。その感覚とともに僕の意識は闇へと沈んでいった……。



 僕が目覚めたのは、真っ暗な部屋の中だった。……こんな展開、前にもあった気がする。

 寝かせられていたベッドから抜け出して、部屋を見回してみる。なんか見覚えがあるんだよなぁこの部屋。とりあえず4日ほど前のあの部屋ではないみたいだけど……。

 まあ、こんな事態も、今週に入って二度目ともなれば慣れてもくる。ここで落ち着いてもう一度状況を確認しよう。

 少し大きめの窓からは光は差し込んできていない。おそらく夜なのだろう。こんなに部屋も暗いんだしね。そして、この窓の大きさと僕が寝かせられていたベッドの存在から、ここは民家の寝室だと推測できる。

 ……冴えてるぞ僕の推理!これはなかなかイケてるんじゃないか?これからは名探偵を名乗ってもいいかもしれない。

 この調子でどんどんいこう!


 窓から目線を下に向けると、木製の机があった。……やっぱり!ここはどこかの寝室なんだよ!寝室と言えば、ベット+窓際の机!これは鉄板だもんね!

 状況確認に戻ろう。その机だけど、なんかやたらと散らかってるように見える。暗いから確証はないけど。どうもこの部屋の主はあまり整理整頓が得意ではないようだ。

 ……の割にフリフリした布団だったような気が。女子力が高いのか低いのか分からん。

ん?男かもしれないじゃないかって?……察してくれよ。もしそうだったら、普段からフリフリの布団付きのベッドに寝てる男の部屋、そのベッドに意識不明のまま寝かされてたってことになるんだぞ。なんというか、別の危険が生じちゃうじゃないか。その可能性は考えたくない。僕を助けてくれたのは優しい女の子。そういうことにしとくんだよ。いいね?

 でも、そうなったらそうで、僕は現在進行形で助けてくれた女の子の部屋を家探ししてるってことに……。


 ……。冷や汗が頰をつたう。ここにきてすごい罪悪感が僕を襲う。いや、いきなり気がついたらよくわからない場所に居たんだ、状況確認くらいは許される……はず。

 とは言っても、一度気づいてしまったものはどうしようもないわけで。緊張感と罪悪感150%増しで周囲の確認に戻っていく。


 あ、ちょっとだけど目も慣れてきた。これでさっきの机の上の確認ができそうだ。抜き足差し足で窓際の机へと近づく。

 そこに置かれていたのは……


 20個はありそうなちょっとアレなデザインの指輪や腕輪、それと、小瓶やフラスコに入れられた色とりどりの謎の液体×19。


 ……どういうこと!?あまりの衝撃に、女子力云々のくだりとかふっとんだわ!むしろさっきとは違う意味で震えが止まらないわ!!

 えっ、なに、もしかして僕また何かの実験台になるところだったの!?というかリシアとオーリエさん以外にもこんな怪しいことをやってる奴がいるなんて……。フレイルもなかなかヤバいな。そして、そんな奴に連続で捕まってる僕も運がないというかなんというか……。


 ともかく、ここに居たらヤバい。早く脱出しなくちゃ――


 「ガチャッ――」


 うそっ!脱出の決意を固めたまさにその瞬間、あまりにも出来すぎたタイミングで部屋の入り口が開く。

 その扉の先にいたのは――リシアだった。


 ……は?混乱する思考のまま、もう一度目の前の人物を見る。

 やっぱりそこにいるのはリシア(ドヤ顔)。部屋の中を振り返る。女物の部屋、怪しい装備品の数々、液体の入った容れ物、そして――部屋全体から感じる既視感。よく考えたらそりゃそうだよね。三日前に来てるんだから。


 「……は、ははは」


 相変わらずドヤ顔で嬉しそうに僕を見つめるリシア。


 この後も、悪い意味で寝られなかったのは言うまでもない。


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