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我らたいあたり検証班  作者: あおいしろくま
セルカと指輪と伝染する悪夢
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セルカと指輪と伝染する悪夢⑫

ジト目さんのターンは一回で終わる……そう思っていた時期が私にもありました。

というわけでジト目さんののターンは2ターン目へ!

※活動報告に詳しく書きましたが、既投稿の誤植を一部修正しました。

 「……では私はどうすればいいのか教えてください。」


 「急に乗り気になりましたわね……。まぁいいですわ、教えてあげます。と言ってもやってもらうことは簡単ですわ。前にここの床下につけてあげた落とし穴があったでしょう?そこにセルカを落としてくれればいいのですわ」


 「っ……。はぁ……あの落とし穴ですか……。」


 「そう。その底に試作品を溜めておきますので。あとはボタン一つでお手軽に――って、あれ?どうかしたのです?」


 「いえ、つい一週間ほど前、セルカ様をあそこに落としてしまったもので。」


 今度はオーリエが固まっています。私とは違って表情筋がしっかり動いているので、驚愕がよく顔に出ていますね。……ちょっと羨ましいです。

 たっぷり十秒ほどのフリーズの後に再起動するオーリエ。かなりの剣幕でまくし立ててきます。


 「はあ!?どういうことですの!!どうしてそういうことになるのですか!確かに多機能性落とし穴だと説明はしましたわよ?でも、まさか自分の担当の冒険者を落とすなんて夢にも思いませんでしたわ!!」


 「ちょっといろいろありまして。理由を一言で表すのは難しいですが、そうですね……、強いて言うなら成り行きといったところでしょうか」


 「全然意味わからないのですが……。まったく、あなたはそういうところが非常識なのですわ……」


 「そして、こちらがその時の写真になります。」


 「ん?写真?それってどういう……」


 カウンターの上に裏返して置いた二枚の写真。オーリエは疑問符を浮かべながらも、例の写真たちを手に取って裏返しました。


 ……崩れ落ちるまで約三秒。オーリエはよくもったほうでした。



 「どうしてこんな面白いもの黙ってましたの!!」


 オーリエは目尻に涙を浮かべたまま、笑顔で詰めよってきます。


 「耳ざといオーリエなら、とっくにご存知かと思っていました。」


 「この一週間ずっと調薬でこもりっきりだったのですわ!」


 「それでは、どちらにしても伝えるなんて無理じゃないですか。昔『調薬の邪魔だけはしないでちょうだいね』って言ってましたよね?」


 「それはそれ、これはこれですわ!」


 「……そうですか。」


 「とりあえずこの写真は頂いていきますわ。いいですわよね?それと、一回落としていましてもプランに変更はありません。さっき言ったように落としてくれればかまいません」


 「……。」


 「そんなに不安そうにしないでくださいまし。……大丈夫。セルカなら一週間前に引っ掛かったトラップなんて気にしてはおりませんわ」


 それはそれでいろいろと心配なのですが……。

 オーリエは、未だ微妙な心境の私を脇に置いて、作業を始めてしまいました。


 「はぁ……。」


大きくため息を一つ。その動作で気持ちを入れかえます。

たとえ全てに納得しきれなかったとしても、それでも、やる限りはきっちりと仕事をこなすべきです。つまらないミスが元でセルカ様を傷つけるわけにはいきませんから。



 準備を終えたらしいオーリエ。「しばらく裏で寝させていただきますわ~。うまくいって時間計測まで終わったら起こしてくださいね~」と言い残して、建物の奥へ消えていきました。堂々と役所の中で仮眠を取ろうとしているあたり、すごいというか呆れるというか……。咎めない職員も職員ですけど――私を含めて。


 では私も動き出すとしましょう。セルカ様を呼びに行かなくてはいけません。今日はセルカ様は非番。行き先もわかっています。あとは呼びに行くだけの状態です。……流石にここまで都合がいいというのは出来すぎな気がしますが。もしかするとオーリエもセルカ様の予定を知っていたのかもしれません。


 ギギィィィー

 受付の席から腰をあげようとしたちょうどその時、建物の入り口の扉が重い音をたてて開きました。もう朝のラッシュの時間帯は過ぎましたし、扉を開けた方がただでさえ少ない私担当の冒険者である可能性はかなり低いのですが、それでも誰であるかの確認はしなければなりません。もし不審者とかだったら大変ですし。そこには、なぜか見た者をイラっとさせる笑顔を張り付けたセルカ様が立っていました。


~受付嬢side end~


 セルカ=フリントは状態異常のプロフェッショナルだ。と評されることがある。


 状態異常。呪いとも呼ばれているその現象は、多くの冒険者たちにとって目の上のたんこぶ的な存在である。自分たちは状態異常に一回かかるだけで大きなリスクを負ってしまうのに、逆にこちらがかけようとするには成功率が低すぎて実用性は低い。いわゆる「敵が使う分には厄介なのに、自分が使うと弱い」の典型的な例であり、冒険者たちが嫌うのもある意味当然と言えた。

 状態異常には対応する属性が存在する。例えば、雷属性の状態異常には麻痺・気絶などがある。だいたい、属性攻撃の追加効果として、対応する属性の状態異常を引き起こすことが多い。

 その厄介な状態異常に対抗する一般的な方法は二つ、属性値を上げるか、専用の耐性系装備品を身につけるかの二択。

 後者は直接状態異常を防げるので速効性が高い。その代わり、装備品一つにつき防げる状態異常は一種類のみ。

 前者は同じ属性の状態異常をまとめてかかり辛くなる。しかし、そもそも属性値の調整自体が難しい。と、それぞれ長所と短所が存在する。


 セルカは前者の方法における第一人者である。その秘密は、彼の冒険者としては(・・・・・・・)珍しいクラスと、二つ名の由来にもなった防具にあった。


 セルカのクラスは「アゲート」。そのクラス自体は現在でも世界で百人単位で所持者が報告されており、一人しか存在が確認されていないクラスなんてものもあることも考えれば、希少性という点において特筆に値するほどのものではない。しかし冒険者というくくりで見ると事情は変わってくる。アゲートのクラス持ちで冒険者をやっている人となると、おそらく一人しかいない。

 アゲートというクラスの特徴、それは高い属性値。属性値とは対応する魔法の適正とその属性への抵抗に関わるステータスである。例えば風の属性値が高ければ、うまく風魔法を扱え、風属性の攻撃が効きにくく、そして睡眠等の風属性の状(・・・・・・・・・・)態異常になりにくい(・・・・・・・・)


 これだけ聞くと、アゲートがとんでもなく強いクラスであるかのように聞こえるかもしれない。だが現実はそこまで甘くはなかった。

 アゲートのクラスを持つ者は、どう頑張っても日常生活でしか使えないような初級魔法までしか魔法を使えなかったのだ。そのくせ、他の魔法系のクラスと同じように武器に使用制限がかかっていた。魔法が使えないならと、属性付きの武器スキルを使用することもできなかったのである。かつては、それでも諦めずに、魔法を使う研究がなされたこともあったらしいがそれも頓挫。


 『魔法の使えない魔法使い』それが現在の冒険者たちの間でのアゲートというクラスの評価だった。


 代わりと言ってはなんだが、実は、アゲートというクラスは冒険者以外の道を志す人にとっての憧れのクラスである。

 なぜなら、全属性の初級魔法に適性のあるクラスは他にないからである。初級魔法でも使えると使えないでは大違い。明かり・水回り等の単一属性の魔法で事足りるものもさることながら、掃除・料理等の複数属性の魔法が使えると飛躍的に便利になることも多い。日常生活だけでなく、仕事においてもそれは同じ。いわば、アゲートは冒険者以外の様々な職業に適性のあるクラスなのである。

 したがって、アゲートのクラスを持つ人のほとんど全員が、冒険者以外の何らかの仕事で活躍している。

 しかし、セルカ=フリントという男は一味違った。元々冒険者に憧れていた彼は、周囲の反対をものともせずに今の職についてしまったのだ。今となっては、それが英断だったのか、単に頭のネジがちょっと緩んでいただけだったのかは分からないが。


 ともあれ、冒険者となったセルカ。そのクラス性能の差からくる苦労も多かったが、幸運なこともあった。

 今のメンバーとパーティを組む以前のある日、セルカは初級の迷宮で一つの鎧を手に入れる。今も彼が愛用している虹色の軽鎧「賢者の虹套」。それは、名前のイメージとは逆に見た目がカラフルな鎧な点、「全属性値微上昇」とかいう微妙な加護が付いている点、あげくの果てに微妙にレアな点などからネタ装備扱いされている代物だった。

 しかし、その変にレアなネタ装備との出会いが彼の冒険者人生を大きく変えることになる。非冒険者向けクラスの補正、プラス、ネタネタしい加護。その相乗効果によって非常識なレベルまで上昇した属性値。彼はそれによって全ての冒険者の中でも最高の状態異常耐性を得ることとなった。


 それから数年後、現在セルカ=フリントの名は状態異常のプロとして街中に知れ渡っている。

ジト目さんのターンに見せかけた説明回でした。

そろそろ第一章の核心の話に近づいてきた……はず。

予定より大幅に伸びてしまいましたが。

初めはこれくらいの話数で第一章終わると思ってたんだぜ……(遠い目)。

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