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繋がる物語

始まりの物語

作者: 空汰

これはあの日の幸せな家族の物語


桜が咲き始める4月





あかりと遼は、すっかり大きくなった12歳と10歳の息子達を連れて懐かしい公園に来た


「わあ…この桜、大きくなったねぇ」


久しぶりに来てみると小さかった桜の木が、もう遼の身長を超えて綺麗な花を咲かせている


「俺たちが子供の頃に植えられたから…もう10何年、ここにいるんだな」


あかりの隣に立つ遼も、感慨深げに桜の木を眺めている


「歳取ったね、私達も」


ぽろっと、自分の口から漏れるつぶやき

それを聞いた遼が不機嫌そうな顔をする


「…お前はまだ30だろ、俺はもう35だぞ?」

「あれ、そんなに離れてたっけ?」

「まぁな」


ちょっと気にしていたのか、複雑な顔になる遼

それをからかって遊ぼうとあかりはにこにこしながら「やーい、おじさん」と繰り返した


「やーい、おじさ…んっ」

「……仕置き」

「……うわー変態、公衆の面前でこんなことしちゃいけないんだぁ」

「春樹と夏樹しかいないから良い」


繰り返すこと3回目

仕置きと言って口をふさがれてしまった

…全く、公序良俗に反する

(作者はこの言葉の意味を分かっておりませんので意味全く違ったらすみません)

仕返ししてすっきりした遼に、至極迷惑そうな顔をした春樹と夏樹が文句を言う


「お父さん、変態」

「お母さん、逃げて今すぐ逃げて」


それが結構きたのか、遼は少し…いやかなり悲しそうな顔をする

いい大人が気持ち悪いのでやめてほしい









「あ、」


しばらく公園で花見したり持ってきていたお弁当を食べたりしていると、

あかりが小さく声をもらした

そのままお腹を押さえて固まるあかりに心配した男3人は声をかける


「あかり、どうした?」

「うーんと…」


「うーんと…何?」

「えっとー…」


「お母さん、伝わりませんよ?」

「うん、あのー…」



「だから、何?」


ずっと曖昧な返事しかしない母に痺れを切らした夏樹がちょっと強くデコピンする

それでようやく硬直状態から脱したあかりは…ちょっと苦笑いしながら-----












「…やっばーい、生まれるかもー」















一番最初に我に返ったのは遼ではなく春樹だった



「お父さん、車を公園の前に直づけしてっ!

 夏樹、お前は近所の人からお願いしてタオルを貰ってこい!」


すぐにこうして指示ができるのは、一種の才能かもしれない

春樹の声にはっとした遼と夏樹は言われたことをこなそうと動き出す


「わ、分かった」

「お兄ちゃんの方がお父さんよりもしっかりしてるね!」

「う゛…」


夏樹の言葉にダメージを受ける遼

だが、今はそんな場合ではない


「夏樹、今そんな事言わない!

 ほらあなた、さっさと車持ってきて頂戴」

「うん…ぐすっ」


ダメージが抜けない遼はぐすぐす言いながら車に向かっていく

その後ろ姿をみて、


「いい歳した大人が…」

「「こら、夏樹!」」

「ごめんなさい!」


辛口コメントしか出てこない夏樹だった







「おい遼兄、あかり姉は!?」

「待て蒼、走るなよ!」


あかりが分娩室に入ったことを遼たちのことを姉、兄と慕ってくれる友人夫妻に知らせると、自身もつい3日ほど前に赤ちゃんを産んだばかりの蒼が走ってやってきた

その後ろからは夫である圭介が息子を抱きながら小走りでこちらに来る姿が見える


「落ち着いて下さい、お母さんはさっき分娩室に入ったばっかりです」

「そう、なのか…」


春樹が蒼に落ち着くように促す

入ったばかりだと言う春樹の言葉を聞いて、蒼の体から力が抜ける

廊下にへたり込みそうになる蒼を赤ちゃん片手に危なげなく抱き留める圭介


「大丈夫だって、蒼」

「でも、圭介…」

「もしかしたら外れるかもしれないだろ」

「そう、だけど…」


春樹と夏樹は、何故蒼が不安そうな顔をするのか分からない

そして圭介が言った、外れるの意味が理解できなかった


「…蒼、何か視たんだね?」


突然、病院の廊下に普段とは違う父親の静かな声が響く

蒼は遼に声をかけられ、少し目を泳がせる

そして小さな声で遼だけに聞こえるように何かを口にした


「…そうか、分かったよ」

「外れるかも…しれないけど」

「当たったことの方が多いんだろ?」

「…はい」


蒼の言葉を聞き終えて、少しの間目をつむる父

何を聞いたのか聞きたい気持ちがあるが…とても聞いていい雰囲気ではなさそうだ

そこらへんの分別はある春樹と夏樹は大人の話が聞き取れないところで母の出産を待つ







「…あ、」

「どうした、夏樹」


母の出産を待つこと2時間少々

不意に声を出した弟に問う

だが、答えないこと十数秒


「お父さーん、生まれたよー」

「え、マジ?」

「うん、なんか今生まれたって中の人が言ってる

 声上げてないみたいだけど」

「…そんなに耳良かった?」

「んー、ここの上の階の患者のうなっている声が聞こえるくらいには」

「それ、苦しんでるってこと?」

「うん、ナースコールを押す前に床に落とした音もしたよ?」

「…そこにいる看護師に言ってくる」

「あ、あとね…」





分娩室のドアが開かれる

出てきた看護師は笑顔で言った


「ご主人、生まれましたよ、女の子です」



「妹が、生まれてきたよ」








目が覚めると、優しそうな主人の顔があった


「頑張ったねあかり、偉い偉い」


子供をねぎらうように頭を撫でては偉いと言う夫に、あかりは笑みを返す

隣を見ると真っ白の髪と肌をした可愛らしい女の子

その風貌はまるで天使のようだ

純日本人の黒目黒髪な遼と、茶色の髪に黒目のあかりからなぜこんなにアルビノでもない色の薄い子供が、と不思議に思うかもしれないが、2人は全く驚かない

…一番上の春樹は茶髪に緑の目だし、夏樹は黒髪に金のメッシュが入ってたりするからだ

これも全部、あかりの祖先がいろんなところの血を引いてるからだ

きっとその中の誰かが持っていた色なんだろう


「ようやく生まれてきてくれたのね」


眠りについた赤ちゃんに抱き上げ頬ずりをし、あかりは呟いた











「貴女の名前は唯、私達の…たった1人の女の子よ」





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