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邂逅

登場人物


清和邑弥せいわさとみ 40歳

保田修一ほだしゅういち 40歳

東条孝とうじょうたかし 15歳

犬懸智美いぬがけさとみ 15歳

館山仁たてやまじん 15歳

山王大学附属病院の駐車場。

車の中から病棟を見上げる邑弥。

「何か思い出せそう?」

運転席で尋ねる修一に頭を振る。

目覚めてから4日目の日曜日、父の墓参りを済ませた後。

「気晴らしに海にでも行くか。昔みたいに」

そう誘われたが、ここに連れて来て貰っていた。

「中には入らない方がいいかもね」

自分を知る人がいたら不審に思われるだろう。

妹や他人の空似とでも思ってくれれば幸いだが、騒ぎにでもなったら困る。

話を蒸し返しても、喜ぶ人はいないのだから。

「修一さん、旦開野に行って貰えますか?」

軽く頷くと、車を発進させる修一。

次の目的地は稲村市旦開野町。

何故かはわからない。

だけど、会わなければならない気がしてならない。

遠くから見るだけでも良い。

結城高校1年の彼に。


一昨日あの後、修一から聞かされた奇妙な顛末。

「そうそう、あの夜の事件にはおかしなことがあってね」

静かに語り出した修一。

「当時山王警察署の番記者やってた先輩から聞いたんだけど、打ち切りどころか捜査本部も出来なかったとか」

重要参考人だったのなら行った方が良いのではないか、丁度そう思っていた時であった。

「事件が無かったことになったらしくてね」

未来ある赤ん坊が死んだのに?

訝しがる邑弥。

両親は当然告訴するだろうし、殺人……いや、変死事件で警察が動かないわけが無い。

「で、独自に調べた結果……」

例のスクラップを引っ張り出す。

「ひとつの結果に辿りついた。警察だけじゃない、関係者全てが口を噤んだ理由があったんだ」

「?」

一体どんな理由が?

「司法解剖前に赤ん坊が生き返った」

目を丸くする邑弥。

「両親にしてみれば穏便に済ませたかっただろうし、病院側も院内でのゴタゴタなんて勘弁して欲しかっただろうし……」

冷めたコーヒーを一口啜り、続ける修一。

「殺人事件ではない、未遂って証拠も無い。告訴も無い。周りは穏便に済ませたい……それだけで警察が動く理由はなくなる」

そして、少し悔しそうな表情で締めくくる。

「マスコミが馬鹿騒ぎしてた頃には、事件は収束しつつあったわけだ」

父のことを思い、また泣き出しそうになって来た。

「何もかもが有耶無耶になってしまったし、確証は無いけど……俺が調べ続けて出した結論……」

ノートをパラパラ捲りながら言う。

「生き返った赤ん坊。それが、この子だ」

ノートに殴り書きされた住所と名前。

そこには館山仁と記されていた。


病院を出て数分後、交差点で信号待ちをする車。

傍らを行く女の子を無意識に目で追う邑弥。

瞳がきらきらしてる、誰かと会うのかな。

何だか、こちらまで嬉しくなってくるような暖かさ。

14~5ってとこだろうか。

バックミラーに映った自分は……どう見ても20代だが実年齢は40歳。

ならば、25年も前になるのか。

「なんだか変な感じ」

その少女の背中を見つめながら、邑弥はいつしか微笑んでいた。


「あら智美ちゃん、久し振り。まぁ~綺麗になって」

孝の母、信乃が玄関で出迎える。

「ご無沙汰してます」

ちょこんと頭を下げる智美。

「孝!智美ちゃんよー!」

スリッパを揃える信乃。

「いいから上がっちゃって、遠慮せずに」

小学校の頃はいつも上がりこんでた家。

懐かしさが込み上げてくる。

軽いステップで階段を駆け上がり、ドアをノックする。

「孝ちゃん、入るよ?」

さっきから感じている先日とは違う気配。

赤くなったり青くなったり……。

「何やってんの?」

ベッドで座禅している孝と目が合った。

「精神統一!」


「早くコントロール出来るようになりたいし」

「ふ~ん、ずいぶん熱心だね」

勉強もそれくらい……と言いかけて止める智美。

「そうそう、伝えておいてって言われてたんだった」

「館山か?」

「うん、自分の本質に気付いてないって。正しく使いこなせって」

「本質かぁ……」

腕を組み思案する孝。

智美は敢えて話さなかった。

館山の最後の台詞を。

本気で誰かを護りたいのなら、正しく使いこなせ。

俺は……護れなかったから……。

その時の彼の波動は、哀しみそのものだった。

止めに入ったのも、それを感じていたから。

いつか話してくれるかな?

全てを……。

「どした?ぼ~っとして」

「あ、ごめんごめん」

ぺろりと舌を出す智美。

「智美はオーラみたいなものが見えるんだよな」

「見えるって言うか、感じるって言うか」

「俺って赤だったよな」

「うん、今日はコロコロ変わってるけど」

「ちょっと見ててもらえる?」

再び座禅をし、精神統一する孝。

「力を過信するな、飲まれるな」

館山の言葉を思い出す。

確かに俺はあの時制御出来なかった。

もう2度とあんな思いをしないようにと、心を落ち着ける。

微かな赤いオーラが青く、そしてまた赤く……ゆっくりと繰り返す光彩。

うすうすは感じていた。

俺の場合は、怒り、感情に任せて放出した思念が赤。

そしてそれに飲み込まれた時、制御できなくなった時、紅蓮の炎と化すのだろうと。

ならば俺の本質は?

智美は孝の体が青く、いや限りなく透明な青に染まるのを見た。

周囲の物体が、意思を持ったかのように静かに宙に浮いて行く。

「キレイ……水族館にいるみたい」

智美は思わず声を上げた。

静かに目を開ける孝。

宙を舞っていた物体が、ゆっくりと元の場所に戻る。

「孝ちゃんって……本当は透明……水色なんじゃない?」

「館山に近い感じ?」

「うん、でも海とか波じゃない。ん~、川のような、湖のような……雨のような……」

「そうか……」

猛る炎を抑える水、そんな気がしていた。

姿を変え、時には激しく時には優しく。

力に飲まれず、過信せず。

俺本来の姿か……。

「なんとなく判った気がする。あとはもっと上手くコントロール出来るようにならなきゃな」

「意外と飲み込み早いんだね」

本気で感心している智美。

「あいつと、智美のおかげだ」

誤った使い方を続けていたらどうなっていたか。

既に身に染みていることもあり、かなり殊勝な孝。

そんな孝を頼もしく思う智美だった。

町名とかは全て八犬伝に縁のある地名等から来てます……稲村、旦開野、結城

孝の母が信乃ってのは('A`)

雨のような……佩刀:村雨丸(゜ー゜*)

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