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再会

登場人物


清和邑弥せいわさとみ 40歳

清和須弥せいわすみ 65歳

保田修一ほだしゅういち 40歳

清和と書かれた表札を眺め、大きく息を吐く一人の男。

保田修一40歳、フリーのジャーナリストだ。

意を決したようにベルを鳴らし、暫し待つ。

ロックの解除音と共に現れた女性に深々と一礼する保田。

「ご無沙汰しております」

「申し訳有りませんねぇ、わざわざご足労戴いて」

畏まる須弥、邑弥の母だ。

この家に来るのは何年振りだろうか。

時が止まった家。

ここだけでは無い、保田自身もあの夜から……。

「来るなと言ったり、来いと言ったり。身勝手お許し下さい」

熱いコーヒーを勧めながら須弥が言う。

「いえ、それは……お気になさらずに」

それなりの事情があったのだ、恨みなど無い。

むしろ須弥なりの優しさだったのだと理解している。

「それで、今日は?」

「ええ……どうすべきか迷ったんですけども」

隣室に続くドアを開ける須弥。

!!!

「邑弥ちゃん……」

思わず立ち上がる保田。

15年前と変わらぬその姿。

「いつ……?」

「昨日のお昼過ぎに。本人はまだ状況が把握出来ないようで」

邑弥をソファーに誘う須弥。

かつて恋人同士だった二人、目覚めぬ娘を待つなと保田を遠ざけた母。

そして再び動き出した刻。

「俺の事……わかる?」

恐る恐る尋ねてみる。

その問い掛けに頷く邑弥。

そうだ、紛れも無い修一さんだ。

私が愛した人だ。

15年分の年輪が刻まれてはいるが、当時の面影がある。

「体は何とも無い?大丈夫?」

溢れる思いに頷くことしか出来ない。

そんな二人を気遣うように、静かに部屋を出る須弥。

「話したいことが山ほど有りすぎて、戸惑ってしまうな……」

それは邑弥も同じだ。

修一に会って確信した現実。

自分の時間だけが止まっていたという事実。

恋人同士だったとはいえ、遠い過去のことなのだと思うと、どう接していいのかわからなくなる。

同じ人生を歩むことはもう出来ないのだろう。

「修一さんは、何か知っていますか?15年前、私に何があったのか」

保田を真っ直ぐに見つめる邑弥。

そのすがる様な表情に頷くと、静かに保田は語り始めた。


「あの夜、山王大学附属病院の産科看護師だった君は、新生児室で倒れている所を保護されたんだ」

「新生児室……」

「それからずっと眠りっぱなしだったわけだ」

しかし何故?何があったんだろう、思い出せない。

「脳死、いや植物状態ではなく睡眠。だけど、何をしても目覚めなかった」

当の本人ではあるが、全く実感が無い。

そんな不可思議な事が起きてたなんて。

「しかも……水も食事も、点滴すら必要とせずにね。」

「そんなこと……」

有り得ない。

飲まず食わずで15年寝たきり?そんな馬鹿な。

この身に何が起こったの?尋常じゃない。

少し興奮気味の邑弥を落ち着かせるように、その両肩に触れる保田。

「お母さんが言ってたな。何かに護られているように、ただ眠っているって」

護られて?一体誰に?

「俺もそう見えた。何かを待っているようだった」

何を?一体何の為に?

肩を抱く保田の両手に力が入った。

「これから話すことは、邑弥ちゃんにとって辛いことだと思う」

そう前置きすると、傍らのバッグから分厚いノートを取り出す。

「でも、全てを受け入れるべきだと思う。」

少し翳った保田の瞳……一体何を告げようとしているのか?


狂気の看護師 新生児を殺害か!?

目覚めぬ重要参考人、捜査は難航。

保田のノートに貼り付けられた雑誌や新聞記事のスクラップ。

何?これ……。

邑弥の表情が見る見る蒼白になって行く。

「あの夜、君が倒れていた新生児室で何かがあった」

少しの間をおいて、遠慮がちに続ける保田。

「世間では君が赤ん坊を殺したんだと思っていたようだ」

そんな……、私はそんなことしない!するわけない!

でも……何も思い出せない……。

「何らかの毒物を投与されたとか単なるショック死とか、いろいろ憶測が飛び交っていたけど真相はわからず仕舞い。マスコミも君が仮病を使っていると決め付けて、面白おかしく書き立てていたよ」

自戒するように笑う保田。

そうだ、彼もジャーナリストだった……今も?

「その件で嫌になって会社は辞めたよ。それ以来フリーでやってる」

邑弥の表情で察したのだろう、力無く笑いながら呟く。

「当時矢面に立たされていた君のお父さんは、さぞかし心労が絶えなかっただろうね」

そう、昨夜母から聞かされている。

父が亡くなっていたことを。

住み慣れた生家を捨てて、ここに移り住んだのもそんなことが有ったからだと。

握り締めた拳に一筋の涙が零れ落ちた。

悔しい……どうしてこんなことに……。

「何も思い出せない?その夜のことを」

優しく問い掛ける保田。

「……」

駄目だ、その夜の記憶だけが欠如している。

どうして……?

「ごめんね、焦らせるような事言って……」

涙に濡れた邑弥の拳を両手で包み込み、保田は続けた。

「こうして目覚めたのは何か理由があるはずだ。頼りないだろうけど、俺も手伝うから」

亡くなった赤ん坊、父。

失われた歳月。

目覚めた理由。

何かが始まろうとしているのか?

こんな自分に何が出来るのだろうか?

本当に私は犯人ではないのか?

「因みに、俺はまだ独り身だ」

場を和ませようとしたのだろうか、自嘲気味な台詞。

変わらないなぁ……。

「やっと笑ったね」

懐かしい笑顔に想いが蘇る。

邑弥は静かに保田に寄り添った。

須弥山しゅみせんの四天神王像→清和須弥

保田修一=hodasyuichi(゜ー゜*)

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