運命
登場人物
神餘信道 15歳
古河詩織 19歳
改札はとうに過ぎているのだろう。
姿は見えない。
どこだ?詩織さん!
券売機に向かう。
運良く小銭入れだけは持っていた。
どこだ?
どっちだ?
夕方の混雑でごった返す構内。
必死に詩織を探す。
!
鳥肌が立った。
ホームに向かう人の中にちらほら見えるノイズ。
この人達も巻き込まれる?
何が起きるんだよ?
忍び寄る恐怖を払い除ける様に、首を2、3度横に振る。
冷静になれ!
自分に言い聞かせ、周囲を見渡す信道。
……こっちか!!!
ノイズを纏った人々が向かう方向、間違いなくこの先で何かが起きる。
そうだ、出口へ向かう人には何の変化も無かった。
ならば、詩織も必ずこの先にいるはずだ。
間に合え!
心底願う。
何が起きるかまでは判らない。
だけど見過ごせない。
この間みたいに、おろおろしているのが関の山かもしれない。
でも……諦めたくない。
時折振り返り、人々を見回す。
ノイズの割合が増えていることにぞっとする。
自分もただでは済まないかもな。
鏡で今の自分を見たら卒倒するだろうと思った。
今、周囲に危険を知らせたら?
ふと、思った。
いや、誰も信じないだろう。
それに、実際何か起こった時どう説明するのだ。
何も無ければそれに越した事は無いが……。
考えるのは止めにした。
今は詩織を見つけ出すのが最優先だと。
先に進むにつれ、妙な感覚が強くなってくる。
全身が静電気を帯びたような異様な感じ。
自分もやばいってことだな、そう確信いや覚悟した。
承知の上だ、後悔なんてしない。
あのまま逃げ出していたら、それこそ立ち直れなかった気がする。
呪われた能力に蝕まれながら生きていく姿。
向かい合えと背中を押したのは、弱い自分だったのだろうか。
辺りに充満する嫌な気配。
ここだ……、そう感じた。
こんな所で起きるとしたら……。
ホームの白線沿いに先を見る。
暗がりに浮かぶ電車のライト。
歪む視界。
あれか!
どこだ?詩織さん。
柱の陰か!?
いた!あそこだ!
行き交う人を押しのけ詩織の元へ向かう。
「……おりさん!詩織さん!!!」
必死の叫び声も届かない。
「みんな逃げろ!」
思わず叫んでいた。
減速せず突っ込んでくる電車に数人が気付く。
あと少し!
逃げ始めた人波に押し戻されて届かない。
チクショォオオ!!!
なんて無力なんだ……。
わかっていても何も出来なかった。
悲鳴、怒号……地獄かよ、ここは。
瓦礫に埋もれた構内を呆然と見渡す信道。
あ……。
涙が零れた。
さっきまでノイズに埋もれていた数人の顔が、今ははっきり見える。
助かったんだ……良かった。
本当に……。
その背中を見上げる詩織、まだ状況を飲み込めずにいる。
私の手を引っ張ってくれたのは信道君?
ホームにへたり込んだまま考える。
でも、どうしてここに?
何気なく、電車待ちをしていた付近を探して身の毛がよだった。
あのままあそこに立っていたら……。
彼がいなければどうなっていたか……。
泣きそうになるのをこらえて尋ねる。
「信道君?どうして?」
事故を予知して来たなんて言える訳も無い。
「無事で……良かった」
振り向かず答える。
泣き顔を見られたくなかった。
それに、別れが辛くなる。
知り合って間もないのに何だろう?
ずっと前から知っているような感覚。
話してて楽しかった。
一緒にいて嬉しかった。
でも、もう会えない。
会うことはない、そう決めたから。
俺はもうこの呪われた能力から逃げたりしない。
けど、やっぱり……怖いんだ。
何か起きることがわかっていても、何も出来なかったらって……。
大切な人を護れなかったらって……。
そう思うと足がすくんでしまう。
「もう……大丈夫だから」
サヨナラ、詩織さん。
心の奥で別れを告げる。
これでいい。
もう、二度と会うことはないだろうと。
「待って!」
無言で立ち去ろうとする信道の手を、咄嗟に掴む詩織。
この手だ、この大きな手が私を救ってくれたんだ。
暖かい大きな手……。
「君には2度も助けられたね」
背を向けたまま耳を傾ける信道。
顔を見ると想いが溢れそうだった。
詩織の手の温もり、今はそれだけでいい。
「これって……運命なのかなって思っちゃうよ」
運命……。
その言葉にはっとする。
そう、確かに運命なのかもしれない。
この不可思議な能力も、出会いも。
そして……運命は変えられる。
何かが見えたような気がして、ふと綻ぶ表情。
少し気が楽になったように思える。
「起こして貰えると嬉しいんだけど」
茶目っ気たっぷりの詩織の声。
信道はその白く細い手を、力強く握り返した。
漁師糠助の子玄吉=現八を助けたのが足利家(滸河公方)の足軽犬飼見兵衛だったことから、詩織の苗字は古河に決定(゜ー゜*)




