予兆
登場人物
清和邑弥 40歳
保田修一 40歳
神餘信道 15歳
古河詩織 19歳
「ん~……、なんか嫌な予感」
神餘信道は呟いた。
目の前の電柱が歪んで見える。
最近どうも調子が悪い。
どこか悪いのかねぇ?
病院に行って診て貰うか……。
行くとしたら眼科?脳外科?精神科?
正直面倒くさい。
今の所実害は無いから放置するか。
目の前全てでは無く一部分のみってのが解せないが、すぐに治まるし。
そう思った瞬間、傍らを通り過ぎた軽乗用車が電柱に激突した。
「あぶね!!!」
驚きつつも駆け寄る信道。
赤い新車が無残な姿を晒している。
こりゃ廃車だな。
ご愁傷様……運転席を覗くと、膨れたエアバッグに長い髪。
どうやら女性のようだが、意識が無いのか?
窓を叩いてみる。
反応無し……救急車呼んどくか。
スマホを取り出そうとして奇妙な感覚に見舞われた。
拉げたボンネットが迫って来るイメージ。
なんかやべぇ……。
運転席のドアをこじ開けようと試みる。
開かない……。
まじやべぇ……。
どこから来るのかわからないが、言い知れぬ恐怖を覚えた。
事故に気付いた対向車が停まる。
中から駆け下りてくる男女。
「運転手は?」
中年男が声を掛ける。
「まだ中です」
奥さん?にしては若い女性が覗き込む。
「ドアロックが……」
言われてみると確かにロックが掛かっている、これでは開かない。
「早く助けなきゃ!」
信道は思わず叫んでいた。
「救急車を」
女性に諭されて電話する、スマホを握り締めたままだった。
工具を探しに戻る中年男。
やばい、やばいんだって!急いで!
焦る信道、しどろもどろで状況を説明しているその背後で爆発音がした。
「うわっ……!!!」
間に合わなかったか?
外の女性も巻き込まれたかもしれない。
そう思いながら恐る恐る振り向くと、炎に包まれる車が見えた。
あれ?いない。
運転席にも影は見えない。
「もしもし!どうしました?」
オペレーターが呼び掛けている。
「代わって」
先程の女性が背後からスマホを取り上げる。
その傍らで、運転手と思しき女性を介抱している中年男。
間に合ったのか……あのタイミングで。
ほっとする信道。
的確に状況を説明する女性、医療関係者なのだろうか。
「邑弥ちゃん、運転手の名前わかったよ」
中年男が声を掛ける。
夫婦でちゃん付けはどうなの?実際どうかはわからないけど。
「古河詩織さん……えっと、19歳。山王大学の学生だ」
免許とりたてか……可哀想に。
そう思いながら覗き込んだ女子大生の顔は、思いの他好みであった。
救急搬送、事故処理の様子を車中でぼんやり見守る邑弥。
さっきのあれは何?
フラッシュバックする爆発の映像。
脳裏に浮かんだのは爆発前だ。
そして黄金色に輝いた自身の手。
開いて!
願いを込めてドアを開けようとした時、解除されたロック。
あの時、私は何もしていない。
ドアロックは勝手に動いた……思いに応える様に。
目を閉じ、ちょっと熱っぽい額に手をやる。
そしてあの子……何かを予知していた。
弾け飛ぶボンネットのイメージ。
その前の事故のイメージ。
流れ込んできたのは確かにあの子の思念。
訝しがる修一さんを宥めてわざわざここを通ったのは、それに誘われたから。
そう……館山君と同じような波長だった。
一体彼は……?
「もういいってさ」
修一が戻って来た。
「お疲れ様」
笑顔で労う邑弥。
いろいろあって今日はなんだか疲れた。
先程の少年は……もう遠く離れてしまったようだ。
運転席に乗り込む修一の浮かない顔。
「どうしたの?」
「かなまり……のぶみち」
何かを思い出すように呟く。
「あの子の名前?」
はっとしたように、後部座席のバッグから件のノートを引っ張り出す修一。
何だろう?その様子を黙って見守る邑弥。
あるページに辿りつくと目が釘付けになった。
「神餘信道。8人の中の一人……」
「8人?」
何のことだろう。
15年前の事件に巻き込まれたのは館山君だけではないのか?
「警官に話しているのを聞いて、聞き覚えがあるなって。珍しい苗字だしね」
ノートを邑弥に渡しながら話す修一。
そのページには館山を筆頭に8人の名前が列記されていた。
館山仁
小狭長義任
御厨礼儀
犬懸智美
朝夷忠
神餘信道
東条孝
那古悌順
館山だけ丸く囲まれている。
この子達は一体?
「こんな所で会うなんて……」
一人興奮気味の修一。
「関係ないだろうと思って話してなかったんだけど……15年前、新生児室にいた赤ん坊達だ」
驚きのあまり言葉が出ない。
邑弥は数奇な運命のようなものを感じて、微かに身震いした。
神餘城主:犬飼現八信道→神餘信道
第六女栞姫→詩織(゜ー゜*)
小狭長城主:犬川荘助義任→小狭長義任
朝夷城主:犬山道節忠与→朝夷忠
那古城主:犬田小文吾悌順→那古悌順




