『サンタクロオスのお仕事』
国道19号線に沿って南下すると、瑞浪、土岐、多治見といった山間の街が見られる。さらに多治見から瀬戸へと抜けると濃尾平野が見え始め、一帯には光の果実がそこらかしこに点綴しており、東は岡崎、西は四日市の灯が見渡せた。雪は見られなかった。
名古屋の北端を掠め、小牧、犬山、可児へと進み、太田線に従って多治見へと戻り、再び北上するのが帰りの行程である。中津川の市街に至り、漸く雪が見られた。
家にほど近い原に降り、トナカイを小屋へと戻し、ソリはそのままにしておいた。新雪を踏みしめ、家までゆっくりと歩いていった。
「安恵さん、いま帰りましたよ」
「あら、お早いお帰りですね、お義父さん」
赤い外套を脱ぎ、安恵さんに手渡した。家は暖かく、窓外は雪であった。
近年はテクノロジイというものが発達したようで、クリスマスにサンタクロオスがトナカイにソリを曳かせてプレゼントを配ることはなくなった。私は元来サンタクロオスの家系であったので、かかるサンタクロオスの仕事に従事していたのであったが、七年前から息子の良英が私の代わりを務めるようになっていた。息子の代から、ハイブリッドトナカイなるものでプレゼントを配るようになっていた。私自身は、近隣の街々の上空を周回して、所謂顔見せのみが仕事であったので、ここ七年ほど子供たちにプレゼントを配った覚えがなかった。
紅茶にミルクと砂糖を入れ、スプウンで掻き混ぜつつも、視線はどうにも窓の外へと向かっているのに気づいた。
「お義父さん、本当はプレゼントが配りたくてしょうがないのでしょう?」
と安恵さんが声をかけた。安恵さんの手には赤い包装紙に包まれたプレゼントがあった。
「分かりますか?」
「ええ、勿論ですとも」
安恵さんはプレゼントを私に差し出し、私はそれを受け取った。
「しかし、このプレゼントは誰の……」
などと私が言うのを遮って、安恵さんは家の奥へと目を向けつつ言った。
「うちには丁度プレゼントの欲しい年頃の子供がいるんですよ? いつもはパパのお仕事ですけれど、今年は帰りが遅いようですので、おじいちゃんのお仕事にしちゃいましょうか」
家の奥は明かりが消えていた。奥の左手にある子供部屋も、当然に明かりは灯っていない。孫の脩一は早くからベッドに潜り込み、明日の朝を想像しつつ、今頃は眠りに着いている頃であった。
「では、遠慮なく」
私は腰を上げ、子供部屋へとゆっくりと歩いていった。七年ぶりの仕事に、胸が高鳴っていたが、サンタクロオスの仕事とは、少しばかり違うものだと感じていた。メリイクリスマス。
pixivに投稿したものを転載しています。あらすじがおかしいのはそういう仕様です!