七、Rescue
白い光の点が段々と形を成してきて、やがてそれはヒトの形になった。そして、完全なメアリーの宇宙服となって、俺の視界に入ってきた。
それは、セルリアンブルーのキレイな宇宙服だった。しかし、背負っているEMUはどう見ても"時間切れ"という感じのサイズだった。
だいたい俺が飛び出すまでに三時間だぞ。そしてここまで辿り着くのに、一時間ちょっと。あのEMUは、どう考えても四時間は持たないだろう。
セルリアンブルーの宇宙服は、まったく身動きもせずに不自然な格好で漂っていた。
「メアリー、聞こえるかい?」
俺はメアリーに問い掛けてみた。
<えぇ、聞こえるわ。大丈夫よ>
俺はホッとした。だが、まだ安心は出来ない。
<あたしなんてほっといてくれればいいのに>
メアリーの言葉に、俺は驚いた。
「そんな訳にはいかないよ。どうしても君を助けなきゃ。俺は助けたいんだよ」
俺は必死に訴えながら、メアリーの宇宙服に向けて操作をしていた。
<嬉しいわ>
呟くように囁いたメアリーの言葉に、これはホッとした。
「酸素は足りてるのかい? 今すぐに回収して、予備のEMUを取り付けるよ」
俺は慎重にメアリーに近づいていった。
<テオ、予備のEMUはいらないわ。あたしは今、全く動けないだけなの。だから、あたしを回収するだけでいいわ。そのまま連れ帰って>
メアリーは驚くべきことを言った。
「ダメだよ。そんなことをしたら死んでしまうよ」
俺の言葉にメアリーは冷静に返した。
<いいの、その方が蘇生する際に都合がいいの。お願い、テオ。あたしを助けたいのなら、あたしの言う通りにして>
俺は既に、メアリーの宇宙服をロボットアームで捕らえていた。
「分かった。このままアームで掴んだまま、ユニバース号に戻るよ。メアリーの言う通りにね。それでいいかい?」
俺は、メアリーに再確認した。
<えぇ、お願い。そうして>
俺は目の前にロボットアームで上手に固定したセルリアンブルーの宇宙服を着たメアリーを見つめながら、MMUを方向転換させた。
「こちら、テオ。メアリーを保護した。これから本船に戻る。MMUに最大速度での本船への帰還プログラムを転送してくれ」
俺は、帰還の準備が完了したことをユニバース号本船に連絡した。折り返し通信してきたのはチョッサーだった。
「了解した。今、ボースンにやらせている。まもなくMMUが自動始動するはずだ。気を付けて帰ってこい」
俺がチョッサーに返信をする前に、MMUは恐ろしいほどの加速で進み始めた。
「うぐぐ。なんて加速なんだ」
俺は押し付けられるGに耐えながら、メアリーが振り落とされないようにロボットアームを更にキッチリと固定し直したのだった。