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DSWB  作者: 檀敬
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三、Space Walking

 宇宙遊泳は何度かやったことがある。

 学校時代のシミュレーションから、EVAの実習まで。

 でも、シミュレータや実習は所詮、お遊びさ。

 シミュレーターの宇宙服の外は宇宙じゃない。ただの生活空間だ。

 実習だって似たようなものだ。

 確かに宇宙に出てEVAを行うのだけど、回りには教官やサポーターがいて、遠くにはレスキュー船が我々の行動を監視しているんだ。

 こんな人口密度が高いEVAは、所詮お遊びだ。

 確かに高い金を掛けて人材を育成するためには仕方のないことかもしれない。


 初めて実践でEVAを行ったのは、このユニバースカンパニーに入社して三年目のことだ。

 もちろん、研修期間のお遊びじゃない。このユニバース号での修理だった。

 作業自体は大したことじゃなかったんだ。

 ただ、曲がってしまったアンテナを手で真っ直ぐにするだけの作業だ。

 だが、宇宙服を着るまでに恐ろしく時間が掛かった。

 あの頃は、減圧しなければならない宇宙服だったから、気圧調整室で〇・五気圧になるまでの三時間程度を過ごして、それからようやく宇宙服を着せてもらえるのだ。

 エアロックを出ると、暗いはずの宇宙が明るかった。それというのも、コズミックレイが視神経を刺激して見えていない光を感知していたという訳さ。俺は慌てて鉛入りサンバイザーを閉じて、ようやく真っ黒な宇宙になったよ。

 そして、宇宙服での動き難さと何かに掴まっていないと漆黒の宇宙空間に落っこちてしまいそうで、足はすくむし、手はつたないし、目的のアンテナまでのたった五十メートルが永遠に辿り着かないような遠さに感じられたんだ。

 作業が終わって、また五十メートルの道程を辿ってエアロックに戻ってきた時は、安堵感で既に腰が抜けていたのだ。ただ、宇宙服の動き難さが幸いして、宇宙服に支えられて辛うじて立っていられたのだ。


 もう一回はつい最近、昨年のことだ。このユニバース号がデブリに襲われた時だった。

 幸いにもDSエンジンが稼動中で、船体表面のDSサーフェースストラクチャによる励起振動によって大部分のデブリは消滅させることが出来たのだが、それでも大きなデブリは消滅されずに船体を破壊したのだ。

 一ヵ所だけなのだが大きくストラクチャを破壊されたので、その部分の交換修理を行ったのだ。

 この時は、今回と同じハードメタルタイプの宇宙服で、それは金属の鎧を着けているような、それでいて簡易な宇宙船に乗っているような、不思議な感覚のモノだ。

 ロボットアームはオプションで四本まで取付可能だから、作業効率は上がるし身体を酷使することもない。

 ストラクチャも内部にまで損傷していなくて、表層パネルの交換だけで済んだので実に快適なEVAだったことを憶えている。

 だが、どちらにしろEVAは宇宙空間での孤独な作業だ。いくら母船に近いと言っても、俺自身が単独の宇宙船で作業しているのと同じだから、孤独感と孤立感、そしてたった一人だという想いが、人間の生に係る重要な何かとして俺の心にひどく響いてくるのだ。


 そして今回。

 遠く母船から離れ、小さな人間一人をこの広大な宇宙空間に探しにいくのだ。そして捕まえて連れて帰らないといけないのだ。

 ここは、アウターペルセウス腕から外天の川銀河の辺境域だ。オリオン腕のソル太陽系とは違って、星の数が少なくなっている。尚更、宇宙空間が真っ黒な暗闇になっている。

 既に、俺はその真っ只中を前進中だ。

 俺は、心細い。

 なんて小さな人間なんだと俺は今、つくづく思っている。

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