一、Drifting Universe
僕にとって新機軸の、従来とは違った手法で書いた小説です。僕自身が何かの見返りを求めるのではなく、僕自身が考える僕なりの、僕に向けてのモノローグ的なモノを試みました。うまくいったかどうか、はてさて……。
【空想科学祭2011・参加作品】【RED部門】
「スー、ハー。スー、ハー。スー、ハー」
もう今は、俺の呼吸音しか聞こえない。俺の周りは、真っ暗で真っ黒な宇宙空間しか広がっていない。
広がっている?
奥行感も立体感もない、二次元か三次元かも分からない、この空間が果たして広がっていると言えるのだろうか。俺には全く自信がない。
「スー、ハー。スー、ハー。スー、ハー」
もしかしたら、俺の身体に密着しているのかもしれない。何か暗くて黒い物体が。そいつはただ、俺の周りにまとわりついて離れないだけのモノかも知れない。だが、俺にはそれを触ることも動かすことも出来ない。
モノはあるって?
それすらも自信が持てない。だいだい、そんな「モノ」というモノすらないんだよ、きっと。
「スー、ハー。スー、ハー。スー、ハー」
俺に知覚出来るのは、俺の呼吸音だけだ。サンバイザーから見えるのは、ただ黒いだけだ。こうなると視覚さえも無駄なものに思えてくる。
だが、辛うじて俺が宇宙服を着ていることだけは分かる。それは、サンバイザーから唯一見えるのが、白い色をした俺の宇宙服だからだ。
「スー、ハー。スー、ハー。スー、ハー」
俺の左手の「生命探知用シグナルレーダー」の表示パネルがしつこく点滅を繰り返している。その生命探知用シグナルレーダーの表示パネルに示された赤く光る点に、俺は段々と近づいているらしい。俺の完全シールド型のハードメタルタイプの宇宙服のEMUに取り付けられたMMUが自動的に、その赤い点へと向わせているのだ。生命探知用シグナルレーダーの表示パネルは、ただ単に俺にそのことを教えているだけなのだ。
俺はひょっとして、生きている『機械』というだけなのかもしれない。
「スー、ハー。スー、ハー。スー、ハー」
そう、そうなんだ。俺はただの機械かもしれない。
ロボットか、アンドロイド。
その方がいっそのこと、楽かもしれない。
でも、さっきからうるさいほどの俺の呼吸音がヘルメットの中をこだましている。
「スー、ハー。スー、ハー。スー、ハー」
ずい分と長い時間を漂っているような、そんな気がしてならない。それにしても、さっきよりいくらは近づいたのだろうか、あの赤い点には。
表示パネルを見たってその判別が出来ない。
多分近づいているはずだ。そのはずなのだろうが、確信が持てない。考えてみればこの赤い点もある速度を持っているんだ。遠ざかっている、と言えなくはないんだよな。
「スー、ハー。スー、ハー。スー、ハー」
いくら物事に動じない俺でも自分がどうなっているのかが、分からなくなる。
そもそも、どうしてこんなことになったんだ?
えーっと。
あれは確か……。