第92話 光の後の静寂
「ポゥオーッ!」
遠い汽笛の音。
ガタゴトガタゴトと、列車の揺れが心地よい。
僅かに開いた窓から、外の風と共に微かな石炭の煙の匂いも入って来る。
アイルが唇を離した時、ルナはゆっくりと目を開いた。
そして、ゆっくりと辺りを見回す。
アイルが微笑んでいる。あの、鋭い、獲物を狩る目ではなく、優しい目で。
「-。ここ、は?」
ルナはゆっくり起き上がった。
「ポゥオーッ」と、また汽笛が聞こえた。
そして、踏切警報機の音が流れて行った。
明らかに、これは「スペーシアX」ではないことは明白だった。
ルナは何度も何度も、この車両を見回す。
「落ち着いた?」
アイルが微笑む。
(これが落ち着いていられるか。)
ルナは思う。
「ポゥオーッ」とまた汽笛。
(この汽笛の音色は―。B1型蒸気機関車―。東武博物館の圧搾空気の音色、ではない。となると、ここは―。)
電車とすれ違った。
それは、ツートンカラーの電車。
5700系電車だった。
「ガクン!」と、列車が揺れてルナはアイルにもたれる格好になった。
「安心している。ルナの身体が、そう言っています。」
そのまま、アイルはルナを抱いた。
ルナは抵抗しなかった。いや、出来なかった。
「まもなく、栃木。栃木に到着いたします。」
車内放送が流れた。
「さぁ、行きましょう。」
「えっ?」
「降りますのよ。皆さん、実家で待っておりますから。」
アイルが微笑んだ。
ルナは切符を見ると、東武日光行きではなく、栃木行きの切符になっていた。
「えっ?」
ルナが首を傾げていると、列車は栃木駅に入線する。
「さぁ、行きますよ。」
「あっ。失礼しました。」
ルナはアイルにせっつかれるように、降りる準備をした。
その際、ルナはスマホを確認する。しかし、電波は入るのに、先ほどまでH3ロケットの打ち上げ中継を見ていたスマホの画面は、いつの間にか電話帳になっていて、H3ロケットの影も形も写していなかった。
だが、代わりにアイルの連絡先、アイルの実家の連絡先が蘇っていた。




