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第80話 搭載

 今、ルナの手からJAXAの技術者の手に写真が渡された。


 アイルと言う存在を写した写真。

 それが、JAXA技術者の手で、目の前に居る黄色と紺色の探査機に載せられる。


「ルナ・パスファインダー」


 実物は、小惑星探査機「はやぶさ」に似た形をしていた。

 推力は「はやぶさ」と同じ、イオンエンジンだという。


 サンプルリターンを行うための着陸装置と、月面のサンプルを入れるカプセル、そして、月に降りるため、「ルナ・パスファインダー」を誘導するターゲットマーカーを兼ねた、200ml入り紙パック程の厚さで、角8給料袋程度の大きさの探査ローバー。


 このどこに写真を載せるかと野縁は聞こうとしたのだが、ルナの誓いを聞いてそれは聞かずとも決まった。


 月に「ルナ・パスファインダー」を誘導するため先に投下した後は、そのまま月に残る月面探査ローバー以外にない。


「この探査ローバーには開発コードしかない。愛称はまだ決まっていない。」

「なら、アイル!そう、アイルと名付けてください!」


 野縁に勢い込んでルナは言うので、見ていた糸川教授は驚いてしまった。

 野縁は一瞬、糸川教授を見た。

 事前に委員会で承認された内容であることを確認し、糸川教授は静かに頷いた。


「あの写真の女の子の名前か?」

「そうです!アイルを月まで運んで―。そして、アイルに月への道を―。」

「ロマンチストだな君は。」


 野縁は笑いながら言う。


「では、回収時の取扱依頼書も一緒に入れておこう。君が回収するのが一番良いが、万一、知らないで回収された場合に備えてね。最も、すぐにズタズタになるけどね。まぁお守りみたいな物だ。」


 野縁は言いながら、「アイル」のデットスペースに入るギリギリの大きさの紙の要請書を作成する。

 最初から入れるためのスペースが作られていたかのように、ぴったりと写真と要請書が収まった。


 月面探査ローバー「アイル」の中に、写真が入れられると、それは「ルナ・パスファインダー」の格納庫の中に入れられる。


(これで、思いだけは本当に月へ行く。)


 そして、いよいよ最後の仕上げの作業が始まった。

 仕上げの作業は簡単な物で、小さな金属板を、イオンエンジンの側面に固定するという物。


「これで、最後だ。」


 野縁が言う。


「ルナ。君にやってもらいたいが―」

「分かってます。私にはそれが出来ないと。」


 ルナは、音もなく締め付けられるボルトを見ながら言った。


 最後の部品は機体番号である「LP‐X01」と刻まれた金属プレートで、打ち上げ予定日が決まり次第、それが後からボールペンで書かれるという。


 全ての作業が終わった「ルナ・パスファインダー」は、今夜、打ち上げに向けて種子島宇宙センターに運ばれる。

 成田空港には既にNCAのボーイング747特別機が待機中だという。


「実はなルナ。」


 糸川教授が切り出した。


「これは口外禁止の事だが―。JAXAと大学研究機関は、国主導である実験を行っている。」

「火星にも行くのですか?」


 ルナは眼を輝かせた。しかし、糸川教授は暗い目をしていた。


「AI。人工知能による、人間人工育成実験が行われているのだよ。」

「-。」

「今、8歳になる子だ。育児放棄された子を、国が引き取って、実験材料にしたのだ。こんな実験、非人道的だ。私としては、君が今言ったような、火星や木星へ行く宇宙船を作る研究をしたい。私の作ったAIL10000型人工知能は宇宙へ行くための物なのだ。それをこんな形に流用するなんて―。しかし、少子化の日本の現状を見るならば、やむを得ないのだろうか―。」


 糸川教授の実験は、ルナには関係ないと思った。

 人工知能で人を育てるなんて、ルナにはバカげているとしか思えない。

 それが普通の感覚なのだ。


 全てを終えたルナは、JAXAを後にする。

 帰りも野縁に送ってもらった。

 野縁はこの後、成田空港まで行くので糸川教授も同行している。


「打ち上げの日はまだ未定だが、2月中だ。」

「お願いします。月まで届けてください。そして、私が必ず回収しに行きます!」

「待っているよ。君が宇宙飛行士になる事を。そのためにも、我々JAXAは、NASA等とも協力しながら、再び人間が月に行ける日を目指して研究を続ける。」


 荒川沖駅での別れ際、ルナと野縁は互いに誓い合って別れた。

 改札口を抜け、常磐線の普通列車が来るのを、野縁と糸川教授は見る。

 ルナは今、常磐線の普通列車に乗って、一人孤独に、上野へ向かって帰って行った。


「あれっ?」


 と、野縁が言う。

 糸川教授も「どうしたのだろう?」と、首を傾げる。

 互いの顔を見合う。


「一体、俺達は今、誰を見送ったのだろう?」


 


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