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第79話 筑波宇宙センター

 月詠ルナは、上野駅の常磐線ホームに居た。


 相も変わらず地平ホームは空っぽで、ブルートレインの影も形も無かったが、常磐線ホームには、E531系交直両用型電車が停まっていた。

 常磐線の普通列車で荒川沖まで行き、そこからバスでJAXA筑波宇宙センターに行くのだ。


 つくばエクスプレスに乗ってもいいのだが、秋葉原まで出る事や、常磐線で南千住まで行って乗り換える事を考えると、少々、駅からバス移動の距離があるものの、乗り換えが少なくて済む常磐線経由で行く事にした。


 常磐線は東北本線のバイパスのような路線でもあり、かつては貨物列車もひっきりなしに走っていたという線路は、今は草に埋もれ、時間だけが取り残されたようだった。


 筑波宇宙センターに近い荒川沖駅にも、かつて日立セメントの専用貨物列車が来ていたのだが、今は、それは無くなり、錆びた側線が草に埋もれていた。

 そんな、かつての貨物列車のために使われていた線路の光景が、ルナに虚無感を与える。ホームで立ち止まり、何度かスマホを見るが、そこに連絡先は無かった。


 荒川沖駅からバスで筑波宇宙センターに行こうとしたが、駅の改札口を抜けた所で、


「月詠ルナ君だね?」


 と、呼び止められた。


 見るとJAXAの制服を着た、30代~40代の男性がルナを待っていたのだ。


「えっと?」

「糸川教授から話を聞いているよ。私はこういう者です。」


 男性は名刺を渡すが、ルナは生憎、名刺など持っておらず、片方から受け取る形になってしまった。


 名刺にはJAXAの文字。


「「ルナ・パスファインダー」のプロジェクトマネージャーをしております、野縁と申します。」

「月詠ルナと申します。改めまして、よろしくお願いします。」

「糸川教授から、君を迎えに行くように言われました。」


 野縁に連れられ、駅前の駐車場に行く。

 HONDAのアコード・ハイブリッドが野縁の車だった。


(そういえば、免許取ったけど車の事、何も知らねえや。)


 ルナは思う。

 車の事で知っている事は、この車がハイブリッド車で環境にやさしい車だという事だけだ。


「単刀直入に言う。糸川教授から聞いた例の件だけど―。」


 断られるのが関の山だとルナは思っていた。

 野縁は少し黙り込み、フロントガラスの向こうを見つめる。


「普通は断るが―」


 野縁が口を開いた。


「前例はない。だが、君の理由は聞いた。特例を認める。」


 と言われ、ルナは拍子抜けした。


 車で走っていくと、研究所の施設が見えて来た。

 車で15分程度走って巨大な施設に入ると、そこにH2ロケットが展示されていた。こここそ、JAXA筑波宇宙センターである。


 受付を済ませ、施設に入る。

 会議室に通され、そこで糸川教授と会う。


「自分の写真を乗せろと来たか。」


 糸川教授は苦笑いを浮かべながら言った。


「ええ。」

「ちょっと条件付きだ。」


 糸川教授はルナに条件を言う。


「自分の手で乗せるって事は出来ない。触ることが出来る人間に載せて貰うという事になるが良いか?」

「はい。それでも構いません。私は、それをしっかり見届けます。」


 言いながら、ルナは定期入れから写真を出す。

 定期券サイズの大きさの写真だ。


「これは―。」


 糸川教授と野縁は写真を覗き込む。


「私の心の中の支え、と言うべきでしょうか―。私は、もう会えない人がいます。でも、この写真の中の私は―。彼女と一緒に月へ―。だからこれを、月に届けたいのです。そして、いつか必ず、JAXAの宇宙飛行士になって、月まで行って、これを取りに行きます。」


 それは、東京に来たアイルと浅草仲見世通りを歩いているのを里緒菜に撮られた写真だった。



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