第7話 紙切れの連作先
下今市駅を出る。
結局、何が何だか分からないで終わってしまった今回の旅だが、せっかくなので、スペーシアXのボックスシートを堪能する。
ルナは身体をボックスシートに投げ込むと、窓際のパーティションに身体を預け、テーブルにお茶と菓子を広げる。
(なんか疲れたな。疲れたって時、リクライニングシートでひっくり返るよりも、壁に寄りかかれる座席の方が楽。これなら普通に眠れる。ある意味では、ボックスシートにされてよかったかもな。)
ルナは思いながら車窓を眺める。
列車はまもなく、新鹿沼に到着する。
(そういえば―。)
ルナはアイルに押し付けられた紙切れを見る。
どうやら電話番号だった。
(0288から始まっている。つまりは、日光市の電話番号だ。一方で、既にスマホに入っている電話は0282から始まり、これは栃木市の電話番号だ。)
ルナは「ふーむ」と紙片を見つめる。
その間に、新鹿沼駅を発車した。
チラリと車窓を見ると、レンガ造りの洋館が見えたと思うと、一瞬、スペーシアXの車内が変わったように見えた。
1720系デラックスロマンスカーの内装に見えたのだが、「スペーシアX」の車内アナウンスが流れて、「スペーシアX」の車内に戻った。
「ボリボリ」と、スナック菓子を摘まみながら、お茶を飲みながら、流れる車窓を眺める。
時折、石造りの蔵や土蔵が見え、それらの合間を通る道路を走る車が見える。
(あれは、日光例幣使街道か。)
ルナは思う
スナック菓子の袋が空になったので、5号車と隣の4号車の合間にあるデッキのくず物入れへ捨てに行く。
その際、デッキに出たついでに、アイルという紅い着物の女の子から押し付けられるように渡された紙切れの電話番号にスマホから電話を掛けてみる。
(何となくだがな。)
ルナは思う。
4コールくらいで、ルナは慌てて電話を切ろうとした。
なぜなら、車窓に見える南栗橋車両管区新栃木派出所に、20400系と言った、この辺りの主力車両は1編成もおらず、アイルと一緒だった時に見た、昔の往年の東武の車両や蒸気機関車が居たからだ。
切ろうとしたが、その瞬間、アイルの声が電話口の向こうから聞こえて来た。
「リン」と鈴の音も聞こえた。
(黒電話か?)
ルナは思いながら「まもなく栃木」と伝えながら、スペーシアXの車内を覗いてみるが、何ら変化はないので余計に気味が悪い。
(まさか、アイルと話している時、この列車は異世界へ行くのか?)
思っていると、列車は栃木駅に着いた。
だが、栃木駅はJRの両毛線と交わる高架駅なのだが、今、この列車は地上駅に停車しており、両毛線のホームにはEF15電気機関車の牽引する貨物列車が止まっていたのだ。
アイルからの「来るときには連絡してね。こちらから、ルナの所へ行くときには連絡するからね。」と言う声を聞きながら、電話を切った。
その瞬間、栃木駅の景色は高架駅に変わり、EF15型電気機関車の貨物列車の姿も見えなくなった。




