第74話 雑煮会の会話
「おっ。そこの彼女達も食って行きな!」
美佐島が持田と隣に居たアイルにも、飯盒飯と雑煮を差し出す。
「ええ。ありがとう。」
アイルは受け取ると、ルナの隣に座った。
横目に持田と三奈美のやり取りを見るルナに、「あの二人、夫婦よ。」と、アイルがそっと耳打ちする。
「えっ?」
「そうなの。しかも、明里さん、前に、勝手に婚約アナウンスやったのよ。」
「-。」
ルナは箸を止めた。
「二人が付き合っているのは前からずっと言われていたわ。私達の会社ではね、機関士さんも車掌さんも、駅の人たちも、同じ枠組みで動いているからちょっと目立っちゃって―。」
ルナは思わず息をのむ。
「そうだったのですか。」
「だからね。明里さんが勢いで婚約アナウンスしちゃってもう大変。特に、機関車に居た三奈美さんは、客車の中の状況を知らないから、何が何だか―。」
「-。」
「でも、そこから上手い事、三奈美さんの発案で、縁結び列車の運転開始にこぎ着けたのだから、大した物よ。もっとも、三奈美さんにしてみれば、貰い事故な上、苦し紛れの発案でしょうけど。でも、その前例があったから今日の件もやれたのよ。分かっているよあんな事やったら大変な事になることぐらい。課長から、今日の婚約アナウンスの真相、聞いたでしょう?」
ルナは赤くなって「雑煮お替り」とねだった。
しかし、アイルの耳打ちはルナを安心させる要因にもなった。
アイルは今、20歳だと言う。
短大、専門学校卒なら20歳で入社という事になり、それ程、入社から年月が経っていないはずだ。
そんな短い間に、持田と三奈美の婚約アナウンス事件を起こしたという事は、少なくともこの二人は結婚適齢期に近い年齢だとルナは考えた。
「ほーい。アイルちゃんのお相手さんだっけ月詠君は?」
「まぁ。そう言う事で―。」
ルナは三奈美の問いに、目を泳がせて答える。
否定もしないが肯定もしない。
ただ、アイルから事の真相を聞いて、どう答えればよいか分からないのだ。
「夫婦乗務員がこれで2組目か。ふーむ。」
三奈美は少し考える。
「川治さんか五十里課長に、ヘッドマーク作ってもらう手配してもらって、縁結び列車第二弾やったらどうかな?春先辺りの運行に当てりゃ、予約、即埋まると思うけどなぁ?」
三奈美は言う。
「私は構いませんよ。ねっルナ?」
アイルが言うが、ルナと来たら(いい加減にしてください)と、やはり赤面してしまうのだった。
「私は2年前から、観光準急「大樹」に勤務したり、旅館に行ったりって形で仕事をしているんだ。」
背中合わせでルナに話すアイル。
「そうなのですか。」
今ので、アイルは18で入社したのだと分かった。せめて20で入社だったら、三奈美と持田の年齢が、ルナとより近いかもしれないと思えたのだが。
ルナは2年前を思い出す。
当時はスペーシアXがデビューした頃で、ルナがわけあってSL大樹に乗りに来て、その時からずっと、SL大樹に通い詰めるようになった頃だ。
スペーシアXにも当時から乗りたいと思っていたが、デビューしたてのスペーシアXはなかなか切符が取れず、ようやっと乗れたのが、アイルと出会った時だった。
「私の思い出話だけど、初めて観光準急「大樹」に乗った時にどうしても忘れられない乗客が居たのよ。」
アイルが話し始める。
ルナはその話を聞いていたが、自分には関係無いと思って、あまり関心を寄せなかった。




