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第71話 特別教習の意義

 横川エレナが栃木の町の庄屋に帰って来た。

 妻の里緒菜は、年越しそばを用意しながら待っていた。


「どうでしたか?」


 開口一番に里緒菜は、ルナとアイルの様子を聞く。


「ルナは不安に潰されているのではないかと、かなり心配しておりましたが、どうやら取り越し苦労で済みそうです。アイルと二人で合いの手を打つように、観光準急「大樹」の観光アテンダントの仕事を熟しておりました。」

「ふふっ。それはそれは。」


 里緒菜はアイルとルナの合いの手を打つ様子を想像してニヤニヤする。


「あっ。いけない。眼鏡が曇ってしまいました。」

「ドジな年上お姉さんですね。」


 エレナは里緒菜にハンカチを渡してやる。


「今日の様子を見て、きっと、今の私と里緒菜さんのような夫婦となるかと思いました。」

「なら、ルナはこのままアイルと結婚する事に、なんら抵抗はないですね。」


 エレナは一瞬考えた。


「そうですね。結婚する、一緒に居る、そうした事に対しては、なんら抵抗はないと見て良いかと思います。しかし―。」

「強引にくっ付けるのは反対だ。」

「ええ。特に、ルナはいつ、どこで、どのようにして、この世界に来るきっかけとなる事態になったのか等、世界観の確立が未だ出来ておりません。ルナは私のように、はっきりとした形でこの世界に来たというのではなく、じわじわと、この世界へ吸収されているのです。そのきっかけが、太陽フレアなのか、オーロラ爆発なのか―。そして、乗っていた特急列車の脱線事故なのか―。」

「はっきりさせるのは無理なのでは?」


 里緒菜は微笑みながら言う。

 里緒菜は、ルナも自分の息子のように思うのだ。

 そして、その思いはエレナも同じである。


「お正月の特別教習。これはエレナが仕組んだ事でしょう?」


 その通りだ。


 ルナは、アイルの世界へ吸収されて行く存在になっているが、吸収される運命を受け入れたとしても、そこに何があるのか分からなければ、待つのは、ルナが危険にさらされる事態であり、それは即刻、ルナの死になるのだ。


 だからエレナは、アイルとルナが共に働く事になる東武日光観光開発に働きかけ、ルナに対して特別教習を実施し、それを通して、ルナが最も恐れている「この世界を知らない」と言う恐怖を少しでも払拭する手助けをしようと考えたのだが、思わぬところでルナが怒鳴り事件を起こした事で、それを口実にすることが出来てしまった。


(アイルの入社の時、少しでも助けになればと、象徴的な意味で株を5%程度持ち、関係者としての縁を繋いでおいた。まさか、こんな形で使うとは思わなかったけれど。里緒菜さんと白百合姉妹の家が、東武日光観光開発を支えている立場なのも事実。だからこそ、お願いという形で話を通すことは出来た。だけど、本来なら、こんなやり方はしたくなかった。)


 エレナは思いながら、里緒菜に後から抱き着いた。


「-。珍しいですわね。エレナの方から、しかもこのような時に、私に抱き着くなんて。明日は大雪ですかね。」

「いや、ただ、なんとなく里緒菜さんのそばに居たくなっただけです。」

「いつもは、私から言わなければ、抱いてくれないのに。」

「-。」

「あらっ?」


 エレナは里緒菜を抱きながら、眠っていたのだった。


「ふふっ。可愛らしい寝顔ですわ。本当に。お蕎麦の茹で上がりまで5分ですから、そしたら起きてくださいね。」


 里緒菜は微笑んだ。



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