第62話 栃木の町
アイルに連れられて栃木の町の散策に出たが、昼食がまだだったので、ルナは町に出る道すがら、昼食を摂ろうと言う。
「そうですね。お昼まだでした。ルナの好きな物は何ですか?私は洋食も和食も、ラーメンも好きです。」
「そうですね―。あの、アイルさんはラーメンがお好きなのですか?」
「あら。よくお分かりで。」
アイルはくすぐったそうに笑った。
一方で、この世界について分からないことが多いルナにとっては、アイルがラーメン好きという些細な情報でさえも、貴重な物に思える。
「では、駅前のラーメン屋さんに行きましょう。煮干し系でしたら、駅向こうの天夢、豚骨なら豚キチがおすすめです。」
「では、豚骨のお店で。」
などと話しながら、昼食を食べる。
「これどうぞ。」
昼食後、アイルは「口臭を消すガム」と書かれたガムを渡す。
「ラーメンは好きですし、ニンニク料理も好きです。しかし、臭いが―。職業柄、こうしたケアも大切ですからね。お互いに。」
アイルは言いながら、同じガムを1つ口に入れた。
「そう、ですね。ありがとうございます。」
ルナも1つ貰って口に入れる。
町を歩いていると、歩いている人の男女比が、男が1に対し、女が2~3と言う具合であること、ルナの世界の東京はあらゆるものが機械化され便利ではあるが無機質な世界だが、アイルの世界は古めかしいがその中に人間の温もりがあるように感じる。
その内、前者について、アイルに聞いてみる。
「あぁ―。」
アイルは項垂れる。
「そうなのです。近年の出生率は、男が1に対し、女が3~4になりつつあり、まもなく5になりそうです。このままでは、いずれ日本は女性だけになり、やがて滅亡です。それで―。男性の方で可能な方は精子提供をする等して、子供の数を増やすような政策が行われており、お父様はお母様の他、2人に対して精子提供をしたのです。一人は霧積博士。もう一人は、麗さんです。」
「それで?」
「霧積博士は成功して、子供は育児院に預けながら、今年18歳になりました。ネルラと言う女の子で、来年から筑波の科学短大へ行き、霧積博士と同じ道を進むそうです。」
「麗さんは?」
「残念ながら、死産に―。鉾根さんも提供を求めたのですが、子宮頸がんが見つかって子宮を全摘出と―。それで、白百合家は滅亡の危機に。」
ルナは、アイルがこの時、何を求め始めたか分かった気がした。
(下手をすれば俺―。)
ルナは震える。
ミツワ通りという商店街を歩きながら、ルナとアイルはレンガ造りの写真館に入り「婚前に記念写真を」と注文するや、ルナを椅子に座らせ、アイルがそれに寄り沿うような写真を撮ってもらう。かと思えば、日光例幣使街道沿いのデパートの中の映画館で1時間半の映画を見た後、またミツワ通りに戻って写真を受け取ると、交差点を越えた喫茶店に入る。
ルナは紅茶を頼む。
「ガムシロップを入れてみてください。ここのガムシロップは少しバニラエッセンスの風味があっておいしいのよ。」
アイルはカフェオレにガムシロップを入れながら言うので、ルナも入れてみる。なるほど。確かに、さわやかな甘さを感じる。
この喫茶店で、ルナは初めてこの世界のお爺さんとお婆さんの姿を見た。
(そうだ。もう一つ妙に思っていた事があったんだ。)
ルナがこの世界を認識してから妙に思った事。
それは、アイルの母親の里緒菜が、母親にも関わらずあまりにも若い事。見た所30~35歳にしか見えないのだ。そして、霧積博士も20代後半~30代前半。鉾根と麗も20代前半、麗は10代にも見える程だ。
だが、それについてアイルに聞いても、アイルは「分からない」と答えるだけだった。




